2010年12月31日

12月の一曲 Lhasa “I’m going in”(2009)

Lhasa2010年の締めくくりに、この年の始まりの日に37才で他界したLhasa(ラサ)のこの曲を選んでみました。
 
乳がんを告知されてから約2年。繊細さと土の香りが同居する独特の声と英語、フランス語、そしてメキシカンである父の言葉であるスペイン語によるユニークな歌世界が評判を浴び、モントリオール発の新しい才能として世界的に知られるようになった矢先の死でした。
 
亡くなる前の年にリリースされたサードアルバムに収められているこの曲で、Lhasaは、遠からず訪れる自分の「死」について率直に歌っています。嘆きでも、お別れの歌でもありません。「生」の世界から、未知の「死」の世界へ向かうことを前向きに捉えています。自分を囲む人々の事を切り捨ててしまった訳ではない。しかし、今の私は旅立つ事に心を傾けたい、と。たんたんとしていて、それでもこちらの顔をしっかり見ているような歌声に、はっとさせられます。
 
この曲のことを教えてくれたのは、同じカナダのシンガー・ソングライター、ルーファス・ウェインライト。彼は今年1月に最愛の母、ケイト・マクギャリグルを病で失っていますが、この曲を聴いて死に引き寄せられつつある母の立場がどんなものかを感じることができた、とインタビューで語っています。家族の事を思ってか、「死」について口にせず「生きる」ことに前向きな姿勢を取り続けていた母の、表に現れない内面について思いを巡らせることができたのは、この曲のおかげだと。

世の中が、当然の事のように、2011年へと脇目もふらず突き進む今このときに、Lhasaが残したこの歌を聴くと、違った景色が見えてきます。

“Don’t ask me to reconsider
I am ready to go now”

http://youtu.be/6CEjujV8FtM



GOYAAKOD@ファッション通信NY-PARIS

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2010年12月30日

FRENCH BLOOM NET 年末企画(4) 2010年の重大ニュース

■1月27日のサリンジャーの訃報には、文学史的にはすでに故人になっていた作家が公式に亡くなった、という思いを抱きました。大学の仕事で、朝鮮籍の学生がフランスの入国ヴィザを取得できないことを知り、国家と個人の関係について、あらためて考えさせられたのも、大きな事件でした。個人的には、9月にパリで友人と会ったとき、フランス留学時代に知り合いだったアルゼンチン人学生が、大学寮にわざわざ戻ってきて飛び降り自殺したという話を聞いたのが、大変ショックでした。彼はベンヤミンの研究中でした。身近なところで起きた死は、いつも自分が生きていることの意味を問い直すきっかけになります。
(bird dog)

■頭の片隅にずっと残り続けているのは、ハイチのことです。エドウィジ・ダンディカが今は亡き父と叔父について書いた本を読む機会があり、地震前のハイチが背負っていた気の遠くなるような現実には頭を抱えたくなりました。ゼロに近いことしかできませんが、遠くから見守りたいと思っています。
(GOYAAKOD)

■サッカー日本代表のW杯ベスト16進出は、日本サッカー界にとって中長期的な観点からもたいへん意義深かったと思います。日本サッカー協会が中心となって、1980年代から本格的に「国際化」を目指した日本サッカー界は、

1993年:Jリーグ発足
1996年:28年ぶりのアトランタ五輪出場
1998年:フランスW杯初出場(3敗)
2000年:シドニー五輪ベスト8
2002年:W杯自国開催&ベスト16進出(2勝1分1敗)
2006年:W杯3大会連続出場(1分2敗)
2010年:W杯他国開催で初のベスト16(2勝2分(PK負けを含む)1敗)

と、着々とステップアップを続けています。世界的にみてもこれほど強化が順調に進んでいる国は稀であった&あるといえるでしょう。「坂の上の雲=W杯優勝?」まではまだまだ時間がかかるかもしれませんが、来年度以降も地道に日本サッカー界を応援していきたいとところです…。
(superlight)

■今年気になったのはやはり中国の台頭。フランスのニュースにも中国が話題に上ることが多くなった。2009年にフランスを訪れた中国人観光客による現地での買物額はロシア人観光客を上回り、フランスでの「ショッピング王」の座に輝いた。フランスのブランド品を買い漁り、ボルドーのシャトーを買収するのは、経済的な勢いのバロメーター。それはまさに80年代の日本の姿だ。
■1月末に、中国人がボルドーワインの蔵元を次々と買収しているというニュースを紹介した。ワインだけでなく、高級な肉や魚の旺盛な消費を牽引するのは、中国都市部に住む中産階層の人々。現在、約3億人に達し、年700-800万人のペースで増えている。今や世界経済はこれらの人々の消費に支えられている。
■フランス国内に目を向けると、パリだけで50万人の中国人が住んでいる。彼らは徐々に同化し、移民の第1世代に比べると経済活動も多様化している。第2世代の若者たちはフランスで生まれ、彼らはコンプレクスも持っていない。親の世代は中華料理の総菜屋だったが、2代目になると教育をきちんと受け、しかるべき仕事についている。公務員もいるし、プログラマーもいるし、ファション関係の仕事をしている者もいる。
■1年半前からパリの不動産に明らかな傾向がある。中国人の資金が入ってきている。中国人は最近では高級住宅街で知られる16区の建物にも興味を示し、ボナパルト一族所有の建物が香港のホテル経営者によって買収された。ニュースの映像を見る限りでは「シャングリラ」のようだ。現在ホテルに改装中だが、買収と改装の費用の総額は1500万ユーロ(約20億円)。108の部屋、35のスイートルーム。3つのフランス料理と中国料理のレストランが入る。中国本土でも中国人はますますお金持ちになり、フランスに旅行に来る。彼らを迎え入れるホテルを作っているわけだ。
■中仏両国は昨年12月、サルコジ仏大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことに中国側が反発し、関係が急速に悪化したが、中国はその後も「フランス無視」を続けてきた。しかし、今年4月初めの金融サミット(G20)で中仏外務省が共同で 「フランスはいかなる形式でもチベット独立を支持しない」という声明を発表、同日晩に首脳会談が実現した。11月にはフランスに国賓として招かれた中国の胡錦濤国家主席がサルコジ大統領と会談し、旅客機や原発分野などで巨額の売買契約に合意した。総額を約160億ユーロ(約1兆8千億円)と見積もられている。最大の契約は、エアバス社の旅客機102 機(総額約98億ユーロ相当)の売買。また、仏エネルギー大手アレバが今後10年間で、中国の電力大手に計2万トン(約25億ユーロ相当)のウラン燃料を供与することでも合意した。
(cyberbloom)

T.サルコジ、ピンチか?! ドミニク・ドヴィルパン前首相に無罪判決!
■1月28日、クリアストリーム事件に絡んで虚偽告発などの罪で訴追されていたドミニク・ドヴィルパン前首相に対して、パリの軽罪裁判所が無罪を言い渡しました。ドヴィルパン前首相は、1991年にフランスが台湾に売却したラ・ファイエット級フリゲート艦(台湾海軍の名称では康定級フリゲート艦)にからむ収賄疑惑で、当時彼の最大のライバルで、与党・国民運動連合(UMP)内部で2007年の大統領選挙における有力候補と目されていたサルコジ財務・経済大臣(当時)が関わっているかのように装い、サルコジ氏を失脚させようとした疑いがかけられていました。
■この事件は、台湾へのフリゲート艦売却に関して、一部の政治家が受注した企業から仲介手数料を受け取り、それをルクセンブルクに本店を置くクリアストリーム銀行の隠し口座に預けていたのではないかという疑惑をめぐり、2004年7月に、クリアストリーム銀行に隠し口座を持つとされるフランスの政治家のリストを含んだ匿名の告発状が、捜査を担当していた予審判事に提出されたことがそもそもの発端でした。そのリストにはサルコジのみならず、野党・社会党の大物政治家であるドミニク・ストロス=カーンなど与野党の有力政治家の名前があったのですが、捜査の結果隠し口座は発見されず、このリストは偽物だという結論が出されました。
■ところが2006年に、当時シラク大統領の下で首相を務めていたドヴィルパンが、04年に告発状が提出された際に、諜報機関・対外治安総局(DGSE)の局長であったフィリップ・ロンド将軍を呼び、リストに関する調査、特にサルコジ氏に関する調査を密かに行わせていたことがロンド将軍の証言から明らかとなったのです。さらにロンド将軍は、サルコジにあまり良い感情を持っていないとされたシラク大統領も同様の調査を依頼していたと証言したことから、ドヴィルパンとシラクというフランスのツートップが揃ってサルコジの失脚を企んでいたのではないか、という疑惑が持ち上がりました。このロンド将軍の証言に加え、告発状を提出した人物がエアバスなどを傘下に持つ航空・宇宙関係の大手企業、欧州航空防衛宇宙会社(EADS)のジャン=ルイ・ジェルゴラン副社長であると明らかになったことも、ドヴィルパンを窮地に追い込みました。なぜならジェルゴラン副社長はドヴィルパンと親しい関係にあり、さらに告発状と共に提出されたリストは、ジョルゴランが偽造した物であったことが判明したのです。このためドヴィルパンは、偽造リストの情報を得ると諜報機関に依頼してサルコジを捜査し、さらにはそのリストを公開することでサルコジの失脚を図ったと疑われてしまったのです。
■しかし、今回こうして無罪判決が出されたことにより、一応はドヴィルパンの無罪が明らかになったわけです。検察が翌日に控訴したため、まだまだ予断を許さない状況ではありますが、この無罪判決は2012年の大統領選挙で再選を目指すサルコジ大統領にとって、大きな脅威となりそうです。現にドヴィルパン氏は、新政党「共和国連帯」を立ち上げるなど既に大統領選挙を視野に活動を始めていて、5月に行われた一部の世論調査ではサルコジ大統領の支持率が38%だったのに対してドヴィルパン氏の支持率は57%と、不人気が噂されるサルコジ大統領の支持率を大きく上回りました。サルコジ大統領も脅威を感じているのでしょうか。11月に実施されたフィヨン内閣の改造では、野党・社会党からの入閣で注目を集めたベルナール・クシュネル外相や、中道派のジャン=ルイ・ボルロー氏が外され、シラク大統領派の大物であるアラン・ジュペ元首相が国防大臣に就任するなど、サルコジ大統領がかつてドヴィルパン氏と考えを同じくしていたシラク派(シラキアン)の懐柔・取りまとめに懸命な様子がうかがえます。
■しかし、支持率があまり芳しくなく、2012年の大統領選挙での再選は難しいとも言われるサルコジ大統領にとってドヴィルパン氏は意外な強敵となるかもしれません。2007年の大統領選挙では、第1回投票で与党のUMPでも、最大野党の社会党でもない中道派の第三政党・フランス民主連合(UDF)のフランソワ・バイル党首が、UMPにも社会党にも飽き足らない層の得票をつかみ、意外な健闘を見せたのは記憶に新しいところですが、ドヴィルパン氏も「第二のバイル」的な存在になるかもしれません。来年以降も、ドヴィルパン氏の動向から目が離せません。

U.劉暁波氏がノーベル平和賞受賞、フランスはしたたかな外交を見せる
■10月8日、今年度のノーベル平和賞の選考を行っていたノルウェーのノーベル賞委員会は、中国の民主主義運動活動家である劉暁波氏に対して平和賞を授与することを発表しました。
■劉氏は現在、「国家政権転覆扇動罪」という罪で有罪判決を受けて投獄されており、現在の中国共産党政府からすれば「民主主義を主張することによって、共産党政権を転覆させようとした犯罪者」というわけです。そのため中国政府は、劉氏が候補となった時点からノルウェー政府に対して圧力をかけていたのですが、委員会がそれを事実上無視して授賞を決めると猛反発、ノルウェー政府に対して猛烈に抗議・批判したほか、あらゆる方面で事実上の報復と思われる措置をとっています。変わったところでは、10月30日に中国の海南島で開催されたミス・ワールドのコンテストで、中国側から選考委員に対して「ミス・ノルウェーは低い点に抑えるように」という露骨な圧力がかけられたという話もあります。
■また、中国政府は授賞式に劉氏本人はもちろんのこと、公安当局に命じて妻である劉霞氏が住む自宅の周りに厳しい規制線を張ったり、電話回線を遮断するなど劉霞氏が外部と接触できないような状況に置いたほか、日本やフランスを含む各国に外交ルートを通じて授賞式に出席しないよう求めました。この欠席要求に対しては、ヴェトナムやロシアなど17カ国が応じました。わが日本政府はというと迷いに迷ったあげく、ノルウェー側が出欠を知らせなければならない期限に指定していた11月15日が来ても結論が出ず、その2日後の17日に、ようやく城田安紀夫・駐ノルウェー大使が政府代表として出席することで決着させました。日本からはこの他に、中国の民主化運動を独自に支援し、劉霞氏や支援者による人選で劉氏の「友人」として招待された民主党の牧野聖修衆議院議員が出席しましたが、菅総理大臣など首脳・閣僚クラスは1人も出席しませんでした。その一方で、フランスはこの欠席要求を一蹴する形で11月9日にサルコジ大統領本人が出席することを発表、予定は変更されることなく大統領が出席しました。フランスは、特にサルコジ政権になってから中国とビジネス・商業分野で関係を深めていて、特にこの時は、大統領の出席が発表された前週に胡錦濤国家主席が訪仏し、エアバス機102機の売却を筆頭とする総額約200億ドル(約1兆6000億 円)の契約を結んだばかりだったこともあって出欠が注目されていました。
■迷いに迷ったあげく総理大臣などの首脳クラスが出席せず、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件などとあわせて「中国に対して遠慮している」、「中国の顔色をうかがっている」と批判される今の日本政府。その一方で、巨額のビジネスを成立させた直後、普通ならビジネスへの悪影響を恐れても不思議ではない状況でも平然と大統領の出席を決めたフランス政府。今の日仏両国の外交スキルの差、特にフランスのしたたかさが明らかになった瞬間だったように思われます。

V.イギリスのウィリアム王子結婚へ!
■11月16日、イギリスのチャールズ皇太子(王太子)の長男であるウィリアム王子が、かねてより交際が噂されていたケイト・ミドルトンさんと2011年に結婚する予定であることがクラレンス・ハウス(ウェールズ大公チャールズの公邸)から発表された。
■ウィリアム王子自身はフランスとはあまり縁がないのですが、彼の母でチャールズ皇太子の前妻であるダイアナ妃はフランスと浅からぬ縁があることはよく知られています。チャールズ皇太子と離婚してからほぼ1年後の1997年8月31日、ダイアナ妃はパリで、当時の恋人で当時イギリスの老舗百貨店・ハロッズのオーナーだったモハメド・アルファイド氏(エジプト系イギリス人)の息子であるドディ・アルファイド氏と共に交通事故に遭い、36歳の若さで帰らぬ人となりました。アルファイド氏と共に乗車していたハイヤーがパパラッチに追跡され、その追跡を振り切ろうとした際の事故だったと言われています。当時、イギリス国内のみならず世界中で人気のあった「永遠のプリンセス」の急死は、世界中に大きな衝撃を与えると共に、この事故をきっかけに有名人を執拗に追いかけるパパラッチに対して強い批判が集まったことや、バッキンガム宮殿に半旗が掲げられないことから「王室はダイアナの死を悼んでない。」との非難が上がり、当時の世論調査で王室廃止賛成派が反対・存続派を上回ったことは有名な話です。
■あれから12年余り、ウィリアム王子は弟のヘンリー王子と共に成長し、今ではチャールズ皇太子を上回る人気があります。チャールズ皇太子のカミラ現夫人との結婚も大きな要因とされていますが、何と言っても彼の顔、最近でこそ髪の毛が若干後退してきていますが、彼の顔に残るダイアナ妃の面影も、彼の人気の1つの要因でしょう。さらに、この結婚報道を機にウィリアム王子(さらにはケイトさんも含めて)に対する人望は高まっているようで、イギリスの新聞「サンデー・タイムズ」が行った世論調査の結果によると、調査に答えた人の56%が「次期国王はチャールズ皇太子ではなく、ウィリアム王子がふさわしい。」と考えているとのことだそうです。ダイアナ妃の死で批判を浴び、何とかカミラ夫人と再婚にこぎ着けたものの、国民からあまり良く思われていないチャールズ皇太子や、本来であればチャールズ皇太子(ウェールズ公)の夫人であるので「ウェールズ公夫人(プリンセス・オブ・ウェールズ)」という称号を名乗れるはずのところを、国民感情に配慮して別の称号「コーンウォール公爵夫人」を名乗らざるをえなかったカミラ夫人とは対照的な印象です。
■ウィリアム王子&ケイトさんカップルの動向には、今後とも目が離せません。それにしても、どうもチャールズ皇太子夫妻は再婚後不運なのでしょうか?先日(12月9日)には観劇に向かっていたチャールズ皇太子&カミラ夫妻が乗る専用車が、大学の学費値上げに反対するデモ隊の一部と遭遇し、暴徒化したデモ参加者によって襲われたそうです。幸い夫妻にケガは無かったものの、2人の結婚式の際にも使用された専用車は窓ガラスを割られたりペンキをかけられたりで散々な有様だったそうです…お気の毒としか言いようがありません。
(Jardin)



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2010年12月27日

FRENCH BLOOM NET 年末企画(3) 2010年のベスト本

『意識に直接与えられているものについての試論』
意識に直接与えられているものについての試論 (新訳ベルクソン全集(第1巻))■今年、本当に驚かされた一冊は竹内信夫訳ベルグソン『意識に直接与えられているものについての試論』(白水社)である。何と個人全訳による『新訳ベルグソン全集』の第1巻だそうで、全7巻+別刊1の構成になるとのこと。これから恐らく10年くらいに亘って続々と新訳が刊行されることになるのだろう。竹内氏は東京大学教授を務められたフランス文学者であり、マラルメ研究の泰斗として、長く後進の指導に当たって来られた。と同時に、仏教・インド哲学の研究者としても知られ、空海に関する著書もある。その竹内氏が、今度はベルグソンの個人全訳に挑むというから驚かされない訳には行かない。実は竹内氏は遥か昔からベルグソンを愛読していたそうで、この仕事は彼の集大成になるのかもしれない。まさに彼ならではの翻訳が生み出されて行くと思われ、いまから全集の完成が期待される。
(不知火検校)

■今年もいろんな本を読みましたが、ウェルギリウスとかジョイスとか、古典的な書物が大半です。比較的新しい本では、ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』とオルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』が印象的でした。前者はソ連創成期のロシアとソ連崩壊後のロシアを時空を超えて繋げたうえで、そのすべてが妄想=フィクションであることまで見せてしまう、現代小説らしい力業です。後者はポーランドの女性作家による、キノコ的エクリチュールとでも呼ぶべき、中心をもたない不思議な小説。ずっと愛読者だった詩人の長田弘さんと仕事でお話する機会を得たことも、嬉しい思い出として付け加えておきます。
(bird dog)

チャパーエフと空虚昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

『天国は水割りの味がする−東京スナック魅酒乱』
天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~■今年も様々な本との出会いがあり、至福のひとときも味わいましたが、今年出版された本の中でお世話になったのがこの一冊。One and Onlyな感度で未知の世界への扉を開く都筑氏(広島での企画展もおもしろかった)ですが、今回はスナックです。ミシュランと銘打たれている通り、48軒ものお店が粋なコメント、写真多数で紹介されていて、ガイドブックとしても十分楽しい(会社四季報よりぶ厚いのが難点ですが)。しかし、都筑氏がカウンター越しに聞き出したマスター、ママ達のとわず語り、昔語りがなんとも酔わせてくれます。スナック開店までのいきさつも本当に様々、「波瀾万丈」という滅多に使いたくない四文字言葉がぴったり。(昔はお酒が全然ダメだった、という人が多いのはオドロキでした。)営業している街の変遷・時代の移ろいが透けて見えるのもおもしろい。何より、この商売を選び毎晩店を開けるマスター、ママの「人が好き」なホスピタリティーが通奏低音になっていて、読んでいる方も相づちうちながらなんだか元気になってしまうのです。これも、あくまで「お客さん」の立場で、でしゃばらず聞き役に徹した都筑氏のいい仕事のおかげかと。
■なんだかやる気がなくて、という時に気に入ったお店、まだあまり「訪問」していないお店の頁をめくってました。しんどい時にはいつでもおいでヨ!っていうこの本のスタンスこそ、スナックそのものでしょうか。カットに使われているオトナの漫画家 小島功の『まぼろしママ』がこれまたいい感じ。
虹色ドロップPlus 1
『虹色ドロップ』
■昨年紹介した夏石鈴子さんのエッセイ・書評をまとめた本がでました。エッセイを読むと、書き手の生活と意見を通じて良くも悪くも書き手に「触れ」てしまうものですが、いろいろあった日々(かなりな事態が進行してゆくのです!)をさらりとユーモラスに綴る文章から、夏石鈴子という心底気持ちのいい人がくっきりと浮かびあがります。読むといつのまにか気持ちがぐっと明るくなる、元気の出る一冊。
(GOYAAKOD)

『フレンチ・パラドックス』
フレンチ・パラドックス■今年最も話題になったフランス関連本のひとつに榊原英資の『フレンチ・パラドックス』が挙げられるだろう。「フレンチ・パラドックス」はもともとフランス人が肉や脂肪をたくさんとっている割には肥満が少なく健康的である医学上の不思議のことを言うらしい。この言葉が最近使われたのは2001年にITバブルが弾けたとき、ほとんどその影響を受けなかったフランスを評するために米『フォーチュン』誌が「フレンチ・パラドックス」というタイトルで特集を組んだ。当時のジョスパン首相は「フランスは今や世界経済の機関車になった」と息巻いていた。
■一方榊原氏の「フレンチ・パラドックス」は大きな政府で、公費負担が大きいのに(さらにあれだけの大規模なデモやストをやってw)なぜ文化的にも経済的にもうまくいっているのか、という経済上の不思議だ。折りしも米の中間選挙で共和党が躍進したが、我々日本人の「小さな政府」信仰は本当に正しいのだろうかと問うている。「ミスター円」と呼ばれた元財務官の「大きな政府」礼賛論なので、多少は割り引く必要があるのかもしれないが、日本とフランスを比較した興味深いデータや指摘も多い。例えば、国が再分配する前の相対貧困率はフランスが24%、日本は16%。市場段階では仏の方が格差が大きい。しかし日本の所得再分配後の貧困率は13%だが、フランスは6%と半分以下になる。日本は市場ベースで欧州の国々よりも貧困率が低いにも関わらず、再配分後にはアメリカに次ぐ最低の貧困国家になる。経営者や金融機関のトレーダーが莫大な報酬を受け取る一方で、その日の食事にも事欠く人々が数千万人もいる国に追随しているわけだ。
COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2011年 01月号 [雑誌]■フランスではGDPの3分の1に相当する4000億ユーロの年間売上高が仏の上位50の大企業に集中している。つまり再編で大型化した企業が国の経済を牽引しているわけだが、政府が出資して発言権を確保しているからこそ、男女差別の禁止や産休制度、企業の保険料の大きな負担など、様々な規制がスムーズに実施できた。そういう大企業は国際競争力が弱いのかと思いきや、最近、日本の高速道路の建設や運営に仏建設最大手ブイグ Bouygues や仏高速道会社エジス Egis が進出しようとしているニュースがあったし、すでに千葉県・手賀沼の浄水事業を水メジャー、ヴェオリア Veolia が受注したり(これに対し石原都知事が「フランスごときが」と発言)、「親方トリコール」企業は海外にも強いことが証明されている。
■社会保障が整備されていない状態で雇用を流動化している日本は、一旦解雇されると裸で放り出されることになり、個人にかかるストレスが非常に大きい。それを見てビビりあがった既得権益者は、既得権益にいっそうしがみつくようになってしまった。それが今の状態で、そうなるとますます変化に対応できなくなる。競争によって効率性を高めるためにも、スムーズな産業転換のためにも社会保障は必要なのだ。フランス社会は低所得者の比率が高く、少し前に森永卓郎氏が言っていた年収300万円時代がとっくに到来している。それでも生活に豊かさが感じられるのは社会保障が充実しているからだ(この豊かさをフランス人の具体的な生活において実証すべく Courrier Japon も特集を組んでいた)。フランスの「やや大きな政府を持ちつつ、子育てと教育に予算を傾斜配分し出生率を高め、国力を伸ばすという戦略」は日本でも可能だと榊原氏は言うのだが。
■榊原氏は今年『日本人はなぜ国際人になれないのか』も上梓。明治以来の翻訳文化が日本人を内向きにしているという議論である。翻訳文化は欧米に追いつけという段階では合理的なシステムだったが、外国に情報発信していくという観点からは弊害になると。
(cyberbloom)




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2010年12月25日

FRENCH BLOOM NET 年末企画(2) 2010年のベスト映画

■今年の一本、それは若松孝二監督の『キャタピラー』です。ベルリン映画祭で寺島しのぶが主演女優賞を受賞したことでも話題になりましたが、私の関心はむしろ彼女の相手役の演技でした。戦争で四肢をもぎととられたその夫は村の中でお国のために戦った「神」と崇め奉られます。パロルも奪われ、ただ本能のまま生き続ける彼の姿は奇妙な事に「滑稽さ」と「グロテスク」を融合させ、純粋な「狂気」へと昇華されます。パロルから遊離した純粋な身体表現がこれほど衝撃的だったとは!何回も見てみたい映画です。60年代、70年代の若松映画の中の身体表現は私の興味のひとつで、女体だけではなく男の身体表現に於いてもこの問題の映画で完成の域に達しています。もし若松映画に興味を持たれた方は、『ゆけゆけ二度目の処女』(1969)や『犯された白衣』(1967)や『水のないプール』(1982)を是非みて下さい。先日、監督に直接伺った話では、(高齢にもかかわらず)「俺はまだまだ映画を撮るよ。次は三島をテーマにした映画だよ」と豪語していました。私は、彼が映画の中でいかに身体の可能性に挑戦するか、つまり先鋭な身体の皮膚感覚の表現に密かに注目しています。
(里別当)

息もできない [DVD]■今年もいろんな映画を見ました。こちらはほとんどが映画館で見た新作です。このFBNでも何作か感想を述べたので、それは省くと、『息もできない』を挙げたいと思います。暴力が惰性になるのは、人間としていちばん悲しい光景です。リヴァイヴァル上映の『動くな、死ね、甦れ!』も衝撃的でした。とくにラストシーン、こんな映画は見たことがありませんでした。あとは『SRサイタマノラッパー』も、意外に心に残っています。『アンヴィル!』と見比べると面白いかもしれません。
(bird dog)

1.三池崇史『十三人の刺客』
2.クリストファー・ノーラン『インセプション』
3.クリント・イーストウッド『インビクタス―負けざる者たち』
■今年は話題作が目白押し。イーストウッドの上記新作の他、ティム・バートン監督『アリス・イン・ワンダーランド』、リュック・ベッソン監督『アデル―ファラオと復活の秘薬』などのベテラン勢が健在ぶりを示し、ジブリからは米林宏昌監督が『借り暮らしのアリエッティ』でデビューを果たすなど、明るい話題もあった。その一方、邦画は相変わらずテレビ番組からの派生物が多く、竹内美樹監督『のだめカンタービレ最終章(後篇)』、本広克行監督『踊る大捜査線3−やつらを解放せよ!』、波多野貴文監督『SP野望編』などが次々に公開されたが、これらには新しい観客を獲得しようという意気込みが欠けているように思われた。そんな中、フランス映画ではパスカル・ボニツェール監督『華麗なるアリバイ』が久々に見ごたえのある演出を見せてくれたのが嬉しい。さて、本来なら鬼才C・ノーラン監督の最新作『インセプション』が文句なしでBEST1になるべきところなのだが、最終段階で三池崇史監督『十三人の刺客』をどうしても推したい気分になった。実際、これまで挙げた10本の中で最も強烈な印象を受けたもので、とりわけラスト30分以上に亘って続く戦闘シーンは日本映画史の上でも記念碑的なものとして長く語り継がれることになると思われる。
(不知火検校)

インビクタス / 負けざる者たち [DVD]インセプション [DVD]ニューヨーク, アイラブユー [DVD]

”New York, I Love You”
■パリを舞台にしたオムニバス「パリ、ジュテーム」の続編。ニューヨークの街角で出会う様々な男女、恋人たち、夫婦たちのそれぞれの小さくて静かなドラマはより人間臭く感じました。様々な人種、宗教、文化、言葉が交錯するニューヨークを舞台に、いろいろな国の監督たちが撮ったこともあってか、「パリ、ジュテーム」とはまた一味違う愛の形を見せてくれます。
■個人的なお気に入りはブレット・ラトナー監督のセントラルパーク(モテない君のプロムの夜編)とジョシュア・マーストン監督のブライトン・ビーチ(老夫婦のお散歩編)です。ちなみに岩井俊二監督が撮ったオーランド・ブルームはある意味『テッパン』と言ってもいいでしょう(笑)。女子にとっては王子さま…なんですね。
(mandoline)

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]ペドロ・コスタ『何も変えてはならない』
ウニー・ルコント『冬の小鳥』
ジョニー・トー『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』
■映画。とりあえず3本。
(MANCHOT AUBERGINE)

『海の沈黙』 
■ジャン・ピエール・メルヴィル監督の人と作品に惚れ込んでいるものとして、幻のこの作品をついに劇場で見ることができたのは、何よりの収穫でした。代表的なレジスタンス文学で、戦中密かに読まれた小説の映画化。自らもレジスタンスであったメルヴィルにとって、重い意味を持つ作品です。
海の沈黙 HDニューマスター版 [DVD]■ドイツ占領後のフランスの片田舎。突然同居人になったドイツ軍将校に、まるで彼が存在しないかのように振る舞い、完璧な沈黙で抵抗する叔父と姪。しかし、知的で好人物の将校は、毎晩炉辺の二人に流暢なフランス語で真摯に語りかけます。私はフランスとその文化を深く愛している、こういう形になったけれどもドイツとフランスが結ばれればきっと豊かな収穫がある。無視を決めこんではいるものの、二人の気持ちは揺らいでゆきます…。
■結局何事も起こらず将校は去ってゆくのですが、この沈黙の下のせめぎあいがとてもスリリングでおもしろい。姪に対し、将校はあきらかに好意を持ち、その優しい一瞥を心待ちにしている。姪の方も、こういう状況でなければ非礼な振る舞いを受けるに値しない紳士を拒絶し続けることが苦しい。しかし、沈黙を捨てることは許されない。表情一つ、仕草一つに、見る方はドキドキさせられっぱなしです。
■出来事らしいことは何もなく、若い二人の間にも何も生じず、地味この上ない映画です。しかし、その削ぎ落とした設定と濃密な時間は、これでもかという派手な展開と作り込んだ画面の最近の映画に曝されている身には、とても新鮮でした。
■姪を演じる女優に、家族ぐるみの友人で映画未経験のニコル・ステファーヌを起用したことも、メルヴィルの偉いところ。将校があこがれるフランスの美を暗に象徴する姪に、わかりやすい美人女優が扮していれば、別の映画になっていたかもしれません。繊細で澄んだ眼差しの彼女が将校に見せる横顔は、映画に静かな興奮と緊張感をもたらしてくれています。
(GOYAAKOD)

0655&2355
■映画作品ではありませんが、今年一番多く観た「映像」ということで選ばせてもらいました。NHKの洒落た時報じみた番組で、朝の6時55分と夜23時55分から5分間放送されています。なんともほのぼのとした映像で、「0655」だと『忘れもの撲滅委員会』『2度寝注意報発令中』などの「おはようソング」や「日めくりアニメ」、読者投稿の犬や猫の写真、「がんばれ weekday」という写真映画(この作品の蒼井優がめちゃくちゃかわいい)、そして「2355」だと番組構成は「0655」とほぼおなじですが、たとえば「おはようソング」が「おやすみソング」にかわり1日の終わりをテーマとしたものになります。ぼくはどちらかというと「2355」をおもに視聴していますが、みなさんもぜひ一度ご覧ください。1日の疲れがどっと抜け、ふにゃっと全身の力が抜けて、すっと眠りに入りこんでしまいます。なお、公式HPはこちらです。http://www.nhk.or.jp/e2355/
 
『トイレット』
映画「トイレット」オリジナルサウンドトラック■私の今年一番印象に残った映画は、『バーバー吉野』『かもめ食堂』でおなじみの荻上直子監督、3年振りの新作『トイレット』だ。私は荻上監督の映画のファンの一人である。私が、荻上監督の作品に興味を持ったのは、母の影響である。私が高校生のときだったと思う。夕方家に帰ると、真っ暗な部屋の中でTVを見つめる母がいた。それは私にとって異様な光景だった。というのも、母は普段、せかせかしている。朝から夕方まで仕事でバリバリ働き、夜は5つくらいある習い事を日替わりで通っていた。その年になって馬みたいによく動いているなぁと関心するほどの人だった。しかしそのときの母は、普段のせかせか母とは明らかに違っていた。母はTVの画面をただただじっーと見つめていた。私は怖くなって、急いで電気をつけ、母の隣に座った。TVでは、子供たち吉野刈り(いわゆる坊ちゃん刈り)にされることに激しく抵抗するシーンが流れていた。その映画は荻上監督の作品『バーバー吉野』だった。この出来事は荻上監督の映画を見る大切なきっかけになった。
■『トイレット』は、友達を誘って平日の映画館で見た。月曜日の昼だったので、人が少ないことをかなり自信を持って予測していたが、満席に近い人がいた。若い男女もいたが、ほとんどが年配の奥様、オジ様達だった。上映が始まると、すぐに映画の世界に引き込まれていった。ふと客席から笑い声が聞こえてくることに気がつく。この映画では、客席の人たちが躊躇せずに笑う。しかもその声が聞こえても、嫌な感じが全くしない。むしろ笑い声によって客席の人たちと映画を共有している感じがした。この映画は、コメディでもなく、シリアスなものでもなく、一言でいうと、「シンプル」な映画である。余計なものが一切ない。だから、素直に心に入ってくる。今自分自身に足りないものを上手に補ってくれるような映画だった。
(よーちる)
http://www.cinemacafe.net/official/toilet-movie/




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2010年12月20日

FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2010年のベストCD

マニフェスト■今年もいろんな音楽を聴きましたが、新譜はほとんどありません。ふだんの生活圏にCD屋がないせいでしょうか。近所のレンタルショップで借りたCDをiPodに入れて、通勤のバスで聴いていました。今年出たものの中では、ライムスターの新作『マニフェスト』が面白かったです(「K.U.F.U.」とか)。あとは「キャベツ頭の男」さんに音源を貰った数百曲を楽しませてもらいました。エグベルト・ジスモンティの音楽は、嬉しい驚きでした。
(bird dog)

■CDではないが、ピアニスト小山実稚恵の活動を今年のベストに挙げたい。小山は1982年チャイコフスキー・コンクール3位、1985年ショパン・コンクール4位という快挙を成し遂げ、今年デビュー25周年を迎えるベテランのピアニストである。10月にショパン・コンクールの審査員を務めたことも去ることながら、2006年から『音の旅』と題した全24回、12年間に亘って続く壮大なシリーズもののピアノ・リサイタルを続けていることに喝采を送りたい。今年は秋に第10回目のリサイタルが開かれたが、素晴らしいものだった。毎回のコンサート毎にテーマが決められ、それに沿った曲目が選ばれている。今回は「究極のロマンティシズム」と題し、シューマンとショパンが演奏された。来年は春が「研ぎ澄まされる耳・指先」と題し、ドビュッシーなどが演奏され、秋が「音の洪水」と題し、ラフマニノフなどをやるらしい。24回目のリサイタルが開催されるのは2017年の秋。その時、小山はどんな音を聞かせてくれるのだろうか。
(不知火検校)

Peter Wolf "Midnight Souvenirs"
Midnight Souvenirs■告白します。ロックは所詮若いもんが作る音楽と思ってました。ローリング・ストーンズという絶対の例外は別として、いい年になったロックの人の作るものは、Good Musicであってもロックじゃないよなと。
■そんな私をとっても恥ずかしい気分にさせてくれたのが、ピーター・ウルフのアルバム。今はなきJガイルズ バンド(Centerfold!)のフロントマン、フェイ・ダナウェイの元旦那という、絵に書いたようなロックスター。まだレザーパンツが似合う姿ながら65に手が届かんとする彼が、久しぶりに放ったこの一枚は、いやーカッコよいです。ほどよい抜け感があって、これでもかというくらいロックのツボをスパーンと押してきます(こんな絶妙なタイミングで放たれた”C’mon!”を聞くのは久しぶり)。しかしベテランの味、年寄りの役得とレッテルを貼るのは大間違い。いい日も悪い日もあったけど自分の本当に好きな音を大事にしてきた人が、ふっと肩の力を抜いて気の向くままにやってみたら凄いことになりましたよ、という感じです。豊穣とかコクという大げさな言葉より、軽やかさとひとつまみのストイシズム、が相応しい。
■説教なし、自讃なしの気負わない歌詞も、素直に耳に届きます。カントリー界の大兄イ、マール・ハガードと低音で囁くラストナンバー、Is it too late to love? なんて、人生の穴ぼこを覗いているようです。(日本ではこういうことは望めないもんかね、と嘆いていたらこの曲を耳にしました。http://youtu.be/5vEwXCwvA0Y 作者は若者みたいですけれど、Julie with The Wild Onesがプレイすることで、同年代の千々に乱れる心もようの歌になっていて、身もふたもなくて、すごくおもしろい。)
(GOYAAKOD)

Chateau RougeLa Demarrante

■CD、とりあえず3枚。
□Diving with Andy,"Sugar Sugar"
http://youtu.be./KV5A2fuZnVo
□Abd Al Malik,"Chateau Rouge"
http://youtu.be/06S7oMLvl2w
□Marie Espinosa,"La demarrante"
http://youtu.be/F-AP7Id4Tjc
(MANCHOT AUBERGINE)

アニメンティーヌ~Bossa Du Anime~■なんやかんや言って2010年は『アニメンティーヌ~Bossa Du Anime~』がいちばん話題性があったのではないか。クレモンティーヌは何か吹っ切れた感じがする。「ゲゲゲの鬼太郎」のカバーが入った2枚目ももう出ている。7月にリリースされ、オリコンの週間アルバムランキング(全体)で18位まで浮上したのは9月6日。洋楽チャートでは1位の快挙。忘れてはいけない、このアルバムはフランス語で歌われているのだ。ポルナレフ以来の出来事かもしれない。学生と一緒に聴いたが、これほど世代を超えて共有されているネタはないだろう。いつしかイントロ当てクイズ大会となっていた。アレンジも悪くない。クレモンティーヌは来日して「ほぼ日刊イトイ新聞」で Ustream ライブも配信していた。今年は坂本龍一や宇多田ヒカルのように大掛かりなライブを中継するというのもあったが、「ほぼ日」内の小さな会議室で気軽に演奏して、その映像を Ustream で流してしまうというのも、今年の象徴的な風景だった。
■今年から Twitter を本格的に始めたが、TL 上ではいろんな人が #nowplaying! していた。毎日レアな音源をアップする人をフォローしたり、ピンポイントで音楽の話が出来たり、昔同じシーンを共有していたことを確認したり。それは明らかに音楽の新しい共有の形だった。
■日本では平沢進の名前が目についた。『けいおん!』とかいうアニメのサントラをやっていたり、今年亡くなったアニメ作家、今敏とは親友だったり。8月にやっていたNHK・FMの12時間特別番組「プログレ三昧」でP-Model の前身バンド「マンドレイク」が最高得票数を獲得していたが、それは若い平沢ファンの投票によるものだった。
■ときどき youtube には思いがけない動画が見つかる。今年最も萌えたのが ”Mika plays Tarkus”。この若くて美しいマリンバ奏者のことはよく知らないのだが、ELP の組曲「タルカス」に合わせてマリンバを演奏している。やる気がないのか、楽しいのかよくわからない表情も良いが、マリンバの軽やかな、かつ呪術的な響きがこの曲にすごくあっている。プログレのカバーアルバムを作って欲しい。
(cyberbloom)

Lisztomania: Remixes [12 inch Analog]■今年の一枚?に出会うまでの短くも膨大な道のり:「今年の一枚、ということでおすすめの音楽について書いてみませんか?」2010年11月、cyberbloom さんからのお誘いに喜び勇んで「ぜひ!」と名乗りを上げたはいいけれど、そういえば今年はほとんどCD買ってなかった…エディタを前にハタと困ってしまった私。さてどうしよう。振り返ってみれば今年はネットラジオと音楽紹介サイトの恩恵を享受し続けていた1年でした。
■今年の1枚、を語れないのでその辺のご紹介を少し。洋楽(主に踊る系)が好きな私が今年特によく活用していたのは海外のネットラジオステーションの http://www.filtermusic.net/ です。CMとMCは一切なし、厳選した音を流し続ける局が世界中から集められているのですが、その数およそ340局。セレクトがツボにはまれば好みの局は一日中でも聴いていられるのですが、ほとんどの局がリアルタイムのプレイリストを公開していて、流れている曲名、アーティスト名をすぐにチェックできるのも魅力の一つです。
■音楽紹介サイトについてはこちらも海外のものになるのですが、http://www.etmusiquepourtous.com/ こちらのサイトをよくのぞいていました。ほぼ毎日のように更新され、美しいビジュアルイメージとテーマに関する記事、そしてMP3音源がアップされています。「最新の音楽、素晴らしい音楽をお届けするために日々奔走している」と述べる彼らのピックアップしている曲は多少の偏りがあるように思えるもののエッジが効いたクールなセレクト(私見です。スミマセン)。どっぷりはまる音がしばしば上がっていてダウンロードもできるため時々チェックしています。ちなみに「Et musique pour tous」は訳すと「そう、みんなのための音楽」みたいなニュアンスでしょうか。大らかで自由な雰囲気の、音楽好きにはありがたいタイトル。こんなふうにフリーの音源をどっぷり満喫していた偽物音楽ジャンキーの私なのですが、とはいえフリーで楽しめるものばかりを駆使する愛好家が増えると「CDが売れない」→「アーティストが食っていけない、アーティストが育たない」→「音楽好きも困る」、ということにならない?という疑問は浮かびます。
■また、上記のような大規模なネットラジオアーカイブや音楽紹介サイトは海外のものばかりで日本で同様なものは見つけられませんでした。音源をダウンロードできる後者にいたっては著作権法でNGがかかって訴訟沙汰になりかねない。では日本の音楽は著作権法によるプロテクトが厳しいけど海外は無法地帯だからこうなっているの?そうだとすれば、日本の方が音楽業界の成長的には望みがあるといえる?うーん…。どうもそうではないように思えるのです。
■Et Musique pour tous、また同様の音楽紹介サイトでは「ミュージシャンをプロモートする」というコンセプトをあげています。このようなサイトにとりあげられる最近のアーティストを見ていると、アーティスト自らが音源をアップロードし、最初から最後までを聴く事ができるようにしているものもしばしば見られます(ダウンロードできる場合も有り)。有名アーティストではありえないかもしれませんが、プロモーションのために音源をアップすることを厭わないアーティストがやはり増えているように思えます。Youtubeであれ、http://soundcloud.com/ であれ、最後まで聴ける音源がどこかにあがっていればリスナーとしては嬉しいし、口コミもしやすい。気にいった音楽をよりよい音質で聴きたければiTune storeで探して1曲単位で買うこともできるしもちろんCDだって買うかもしれない。私について言えば今ライブに行きたいと思っているアーティストはほとんどがネット経由の情報によるものだったりします。
■音楽を売るために、プロダクションが宣伝するだけではなく、アーティスト自らがリスナーに向けて情報発信し、それらを世界に向けてプロモートするサイトがどんどん増えてきている、こんな土壌がじわじわと広がってきているように思います。2000円のCDが1万枚売れなくなっても、100円の1曲が世界中で20万枚売れれば良い。ライブに来てくれるファンが増えれば良い。そんな環境を整えるために出し惜しみせず音を紹介するサイトが存在するというと理にかなっているように思えます。
■音楽を「モノ」の形で所有するメリットが薄れ続けている今、人々が情報に恵まれた環境下でより音楽を知って気軽に曲をバラ買いする、アーティストへの敬意をこめてどこかからコピーするのではなくきちんと買う(もちろんコピーは違法ですが。)、そんなリスナーの変化が目に見えて変化(弱体化?)している音楽業界にとっての生き残りのキーとなるかもしれません。偉大な過去の音楽のアーカイブが膨大にあることを考えると、アーティストだけでなく業界全体にとっても悪い話ではないように思えます。音楽がデータになった時点で「買わないと聴かせないように囲い込む」のは法律があっても到底無理!なんですから。
■一見どうやって採算をとるのかわからないフリーの音楽紹介サイトですが、サイトのファンの数が膨大になり、無名アーティストを有名にするようなムーブメントを作ることができるのであれば収益のモデルは捻出できるはず。情報サイトはとかく長続きしないと言われますし、データが削除されたらしき跡などもしばしば見られ違法ギリギリ?な感も否めないものの、「良いと思う音楽、最新の音楽、を紹介する」スタイルで(スポンサー色がついたりしないで)がんばって欲しい、と思う1ファンなのでありました。さて、この動き、日本においてはどうなるのかしら…
■今年一番のヘビーローテーション:今さらながら、このリミックスで Phoenix にハマりました。
Phoenix - Lisztomania (Shook Remix)
■今年一番はっとした Music Video : ちょっと懐かしいアナログな手描きのアニメーションはめくるめく色彩と展開に目を奪われっぱなし。Breakbotは11月に日本に来てたけど(そして行けなかったけど)今一番聴きに行きたいアーティスト。アルバムが出たら買おうっと。
Breakbot - Baby I'm Yours
(Tatamize)




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2010年12月13日

クラシック音楽、究極の一枚を探せ!(3)−マーラーは何を聴くべきか(前篇)

2010年はマーラー生誕150年、2011年は没後100年ということで、この2年間は再びマーラー・ブームのようなものが巷で沸き起こっている。来日オーケストラもマーラーをプログラムに採り上げることが多くなっているようだ。もちろん、今回のブームは1980−90年代のような狂騒的なものではないが、人々は再び静かにマーラーの音楽に耳を傾け始めたという印象である。それではマーラーの交響曲を聴くとしたら何を選べば良いのか。今回も独断と偏見で幾つかの録音を紹介して行こう。

マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」まずは「交響曲第1番『巨人』」。この曲は恐らくマーラー初心者に最も薦められる作品であろう。とにかく曲の完成度が高く、軽快で颯爽とした展開は聴いている者を飽きさせることがない。恐らく、指揮者にとっても演奏者にとっても最も演奏しやすい曲だろう。聴く側にとっても、指揮者、オーケストラを選ばない曲と言える。もちろん、人によって好みはあるだろうが、私はバーンスタインの指揮するニューヨーク・フィルの演奏をよく聴いていた。バーンスタインは最晩年のシューマンの演奏が白眉であって、得意としていたベートーヴェンなどは「やりすぎ」という印象が私にはあるが、このマーラーの『巨人』は比較的バランスが取れていると思う。

続いて「交響曲第2番『復活』」。マーラーは既に第2交響曲で途方もない長さと楽器編成を持つ曲を作曲することになる。私は20年ほど前、プロのオーケストラの裏方でコンサートの準備(楽器のセッティング)をするアルバイトをしていたが、『復活』をやる時は時間がかかって仕様がなかった。ベートーヴェンの時は30分で終わる仕事が、マーラーの『復活』の時は3時間以上かかるという有様である。使用楽器が多いのはもちろんだが、とりわけ、第5楽章でステージ袖から吹くトランペットの位置を決めるのに時間が取られるのである。それほど壮大な規模を持つ曲の録音として、今は亡きジュゼッペ・シノーポリ指揮フィルハーモニア管弦楽団の『復活』を挙げておこう。確か、1986年ごろの録音で今と比べれば録音技術には確かに問題があった。だが、演奏はそのような困難を凌駕するほどの精度を実現していると思う。特に第4楽章のブリギッテ・ファスベンダーによるメゾ・ソプラノの部分、終楽章の合唱の導入部などは鳥肌ものである。こういう演奏を聴くと、シノーポリの急逝が本当に惜しまれる。

マーラー:交響曲全集そして「交響曲第3番」。この曲はマーラーの交響曲の中で最長の作品として知られる(ほぼ1時間40分)。規模も相当なものだ。しかし、全体として聴いてみると『復活』や『千人の交響曲』ほどの重々しさ、一種の「くどさ」は感じられない。ここにはまだマーラーの持つ明るさ、軽快さのようなものが感じられる。特に第5楽章で児童合唱が入る辺りに、この曲の不可思議な魅力があるように感じられる。そのような曲を見事に統括した例として、小澤征爾指揮ボストン交響楽団の録音を挙げておきたい。小澤はボストンと組んでマーラーの全集を録音しているが、この曲の演奏は素晴らしい水準ではないだろうか。第4〜6楽章の完成度は極めて高く、小澤という指揮者の驚異的な集中力を堪能することができる。ジェシー・ノーマンのソプラノもこの頃が絶頂期であった。

マーラー:交響曲第4番さて、「交響曲第4番」は、マーラーの交響曲の中で最も明るく、軽快で伸びやかな作風の仕上がりで知られている。実際、初めて聴く人は「これがマーラー?」と思ってしまうほど、他の作品とは異なった雰囲気を醸し出している。そのような「明るいマーラー」の演奏として、ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウの録音を挙げておきたい。ハイティンクはこの曲を4回録音しているようだが、ここでは1967年の最初の録音を推したい。マーラーの場合、合唱や独唱が当然ながら重要となるが、この曲の有名な終楽章のエリー・アメリンクのソプラノ独唱はお見事と言うほかない。(ハイティンクといえば、1995年の第二次世界大戦終結50周年の際、ドレスデンの教会で『復活』を指揮し、その模様がヨーロッパのラジオで中継されたことがあった。廃墟と化したドレスデンの街の「復活」を祝う式典である。私はパリの狭い部屋でその演奏を聴いていたが、演奏終了後、拍手はなく、人々が静かに立ち去って行く音がかすかにラジオから聴こえて来たのが印象的であった…。)

マーラー:交響曲第5番今回の最期は「交響曲第5番」である。第4楽章「アダージェット」のおかげで、すっかり有名になった曲であるが、他の楽章も素晴らしい出来であり、また、長さ的にも適度なもので、1番と並んで最も薦められるマーラーの交響曲と言えるだろう。名演が多い中で、私が推したいのはジェームズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏である。これもレヴァインの若い頃の録音ではあるが、オーケストラを完璧に統御し、隙というものを全く感じさせない、超高精度の演奏を実現している。この時点で既にこの指揮者が大物であるということが如実に窺える演奏であった。特に第5楽章の仕上がりは見事なものであり、これだけでも聴く価値があると言える。

今回はここまでにしておこう。もちろん、アバドやブーレーズの指揮するマーラーがお好みの方もあろうし、サイモン・ラトルなどの最近の指揮者の名前が入っていないことに不満もおありとは思うが、飽くまで筆者の好みなのでご勘弁願いたい。この続きは来年掲載する予定である。




不知火検校@映画とクラシックのひととき

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2010年12月07日

音楽で観るフィギュアスケート 2010-2011 The Up-And-Comers!

またまたこの投稿を書く季節がやってきました。オリンピックが終わって、今シーズンはトップ選手が引退したり競技に出なかったりするなか、若いスケーターたちが試合に次々登場しています。なかでも男子シングルはショートプログラムから4回転ジャンプを取り入れる積極的な選手が増えて活気があります。今回は、ショートプログラムで印象的な音楽を使用している若手の男子選手を何人かご紹介しましょう。


Moanin' by Art Blakey, Drum Thunder Suite by Art Blakey - Kevin REYNOLDS (CAN)

reynolds.jpgピノッキオみたいな少年だったカナダのレイノルズ選手も身長がぐんと伸びて大人っぽくなり、アート・ブレイキーの渋いジャズも似合うようになりました。彼は今季4回転ジャンプをショートで2回、フリーで3回入れるという驚異的なプログラムを予定しています。ジャンプが全部決まったら、技術点はすごいことになりそう・・ もちろんこのショートはジャンプだけでなく、彼の長い手足とジャズの雰囲気を活かした振付けも楽しめるプログラムです。昨季はカナダ選手権で3位に終わり、残念ながら地元バンクーバーのオリンピックに出場することができませんでしたが、今季はカナダの2番手に上がってきそうな勢いです。

Kevin REYNOLDS's 2010 short program


Selection of music by Pink Floyd- Artur GACHINSKI (RUS)

gachinski.jpgプルシェンコ以降の選手が伸び悩んでいるロシアにとって、今季のニース杯、フィンランディア杯で立て続けに優勝したアルトゥール・ガチンスキー選手は希望の星だといえるでしょう。弱冠10歳で3回転アクセルを飛んだ彼は、幼い頃から周囲の注目を集めていましたが、今季本格的にシニアの競技会にも出場してきました。ショートプログラムで使われているのはピンク・フロイドの曲を編集したもので、キャッシャー?の音で曲が始まりその音で終わるという、ちょっと変わった構成の音楽です。その独特の音楽に負けず劣らず自己主張の強い彼のスケーティングには、すでに王者のプライドが感じられます。名前も強そう・・

Artur GACHINSKI's 2010 short program


Histoire d'un amour, Nu Pogodi (Russian cartoon soundtrack) - Javier FERNANDEZ (ESP)

fernandez.jpg珍しくスペインから頭角を現してきたハビエル・フェルナンデス選手。バンクーバーでもすでにその表情豊かな演技が観客に人気でした。今季のショートプログラムでは高橋大輔選手と同じ曲を使っていますが、アプローチが全く違って面白い。彼は「ヌ・パガヂー」というロシアのアニメのキャラクター(ちなみに彼のコーチはロシアのニコライ・モロゾフ)になりきって踊っていて、このハデハデな衣装もそのアニメからの引用らしいです。コミカルなポーズやステップが満載のこのプログラムで、今季も会場から大きな歓声を浴びています。高橋選手の色男路線も音楽をうまく活かしたプログラムですが、こちらも一見の価値ありです。

Javier FERNANDEZ's 2010 short program


White Legend by Petr Tchaikovski, arranged by Ikuko Kawai - Yuzuru HANYU (JPN)

hanyu.jpg今季ジュニアからシニアへと上がってきた羽生結弦選手。普段は穏やかな16歳の少年ですが、ひとたびリンクに上がり川井郁子さんの艶やかなヴァイオリンにのせて滑り出すと、表情が一変してまるで歌舞伎の女形のような妖しさです。けれども彼の長所はそのルックスだけではなく、4回転ジャンプもプログラムに取り入れる実力の高さと度胸の良さ。手足が長く顔が小さい、そしてこの演技力と技術力ですから、現時点では次のオリンピックへの最有力候補のひとりといってもいいでしょう。ちなみにこの曲にぴったりな彼のロマンティックな衣装はあのジョニー・ウィアー選手がデザインしたもの。そのうち彼は「和製ジョニー・ウィアー」とか「氷上の玉三郎」とか呼ばれちゃうのだろうか・・

Yuzuru HANYU's 2010 short program


Primavera Porteno by Astor Piazzolla - Denis TEN (KAZ)

ten.jpgバンクーバー・オリンピックで11位に入り、注目されたカザフスタンのデニス・テン選手。今季はフランク・キャロルに師事し、練習拠点をロシアからアメリカへ移しました。アストル・ピアソラのタンゴを使ったこのショートプログラムは、ステファン・ランビエールが振付けしたものです。今季はジャンプに精彩を欠き、競技会では苦戦していますが、それでもプログラム後半のステップに見られる彼の熱いパッションは、ピアソラのバンドネオンの音にぴったりで、やはり観るに値するものだと思います。ぜひ世界選手権にも出場して、より完成度の高いプログラムを披露してもらいたいですね・・

Denis TEN's 2010 short program


amodio.jpgBroken by Lisa Gerard, Apologize by Taio Cruz, Imma Be by Black Eyed Peas, Don't Stop Til' You Get Enough by Michael Jackson - Florent AMODIO (FRA)

昨季のフランス選手権で第一人者のブライアン・ジュベール選手を抑えて優勝し、オリンピックでは12位、世界選手権では15位の成績を収めたフローラン・アモディオ選手。今季のグランプリシリーズでは NHK杯で3位、フランス大会で2位となり、グランプリファイナルへ駒を進めました。マイケル・ジャクソンの曲も取り入れたこのプログラムでは、めまぐるしく変化するスケートで私たちの視線を釘付け。そのアピール度の高い演技は、かつて日本でも人気だったフィリップ・キャンデローロ選手を彷彿とさせます。ただしエンターテインメント性の高い振付けだけでなく、ジャンプもきっちり飛んでくるのが彼の強み。それにしてもフランスには次から次へと個性的な選手が登場してきますね。

Florent AMODIO's 2010 free skating


北京で行われるグランプリファイナルにはアモディオ選手が出場します。日本の3選手ともども活躍を期待しましょう。


exquise@extra ordinary #2



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2010年12月05日

< ケーク・サレ > cake salé

文字通り塩味のケーキですが、近頃ちょっとしたブームのようです。
温かいスープと一緒に朝食としていかがでしょうか。
ワインのお伴にもぴったりです。
ソーセージやチーズ、火を通した野菜、お好きなものを入れてどうぞ。

cakesale01.JPG

*材料*(18pのパウンド型 1台分)
※型にはクッキングペーパーを敷き込むか、内側にバターを薄く塗って強力粉をはたいておく。

卵                 ・・・2個(Lサイズ)
牛乳                ・・・70ml
エクストラ・バージン・オリーブオイル・・・50g
パルメザンチーズ(すりおろしたもの) ・・・80g
薄力粉               ・・・100g
ベーキングパウダー         ・・・小さじ1
エリンギ              ・・・2本
ベーコン              ・・・厚めのもの2枚
ドライトマト(セミドライトマト)  ・・・2〜3枚
イタリアンパセリ(みじん切り)   ・・・大さじ2

*作り方*
1.ドライトマトはぬるま湯でもどして、粗みじん切りにする。
  (セミドライトマトならそのままで粗みじん切りにする。)
2.ベーコン、エリンギは1p角に切る。フライパンを熱してベーコンを炒めたら、お皿など
  に出しておく。同じフライパンでエリンギを炒め、軽く塩・コショウをして同じくお皿な
どに取り出しておく。
3.卵をボールに割り入れ、泡立て器でほぐしたら、牛乳を合わせてよく混ぜる。
4.エクストラ・バージン・オリーブオイルを加えて混ぜる。
5.チーズのすりおろしを加えて混ぜる。
6.トマト、ベーコン、エリンギ、パセリを加えたら、ゴムべらにかえて混ぜ合わせる。
7.薄力粉とベーキングパウダーを混ぜてざるなどでふるい入れ、さっくりと混ぜる。
8.180℃に余熱しておいたオーブンに入れて40〜50分焼く。
  焼きあがったら型から外し、網の上などに出して冷ます。

食べる時に温め直して食べると美味しいです。




mandoline@かんたんフレンチレシピ

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2010年12月02日

11月の一曲 Juliette Gréco “Accordéon”(1962)

冬の始まりに、シャンソンを選んでみました。若きセルジュ・ゲンスブールの作。哀愁のメロディーに軽快なアコーディオン、といかにもフランスでなければ出せない音で音楽としてだけでも楽しめるのですが、歌詞カードを見ながら聴くともっとおもしろい。

greco01.jpg街を流して歩くアコーディオン弾きが相棒のアコーディオンと別れるまでの歌です、というとなんだかセンチメンタルに聞こえますが、これが実にサツバツとしています。

まず、この歌のアコーディオン弾きは、生きるためにきゅうきゅうとしている。演奏するのはパンを稼ぐためで、路上であっても自分の音楽を思うがままに演奏できればシアワセ、というハッピーなストリートミュージシャンとはほど遠い。

アコーディオン弾きと楽器との間もきれいごとなしで生々しい。へべれけの時も、豚箱に放り込まれる時も一緒。「楽器のボタンを壊してしまったら上着のボタンを取って間に合わせ、ズボンがずり落ちないように楽器のベルトを拝借したりする」というフレーズは、楽器と人とのいい関係というより、長年連れ添った男女の仲のような生身の近しさを感じさせます。

だからこそ、別れのそっけなさには驚かされます。ある日突然、ただ同然で古道具屋に売り飛ばされるアコーディオン。弾けなくなったかららしい、というぐらいしか理由は明らかにされませんが、この「急転」が歌を深いものにしています。どんなに濃いつきあいも、思いがけなく終わりが来るもの―そんな醒めた感じが、いかにもゲンスブールらしい。

一方で、やさしい情景も織り込まれています。「静かな夜が過ぎて朝がくると、アコーディオン弾きはアコーディオンの肺を少し膨らませてやる」というフレーズは、白く明けてゆく街角で独り小さく音を鳴らす男の姿を描くだけでなく、男とアコーディオンとの静かな対話を見守るゲンスブールのまなざしを感じさせます。

お得意のコトバ遊びも光ります。「どうぞアコーデオンにお恵みを(“Accordez Accordez Accordez donc / l’aumône à l’accrodé l’accordéon”)」というリフレインは、フランス語の「アコーディオン」の音とダブるようにしつらえてあります。こういった離れ業をさらっとやってのけるところも、にやりとさせられます。

コンパクトで密度の濃い曲なので、グレコのように気を入れて歌わないと上手くいかないようです。手振りを交えてシアトリカルに歌うバージョンでどうぞ。

http://www.youtube.com/watch?v=Uad03ciLaPo




GOYAAKOD@ファッション通信 NY-PARIS

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2010年12月01日

「コラ・ジョーンズ」またはクリスマスのフィクション

12月になると聴きたくなるクリスマスアルバムが何枚かある。そのうちの一つが、イギリスの音楽雑誌『Mojo』の付録として出された『Mojo Blue Christmas』、2005年発表のオムニバスだ。ジャズやモータウンの古典的音源から、最新の楽曲まで取り混ぜて、全15曲、とても充実した内容だった。パリのメディアテークで見つけてコピーした音源が、今でも手元に残っている。

とりわけ、ニール・カサールの「コラ・ジョーンズ」(Cora Jones)は、聴くたびに胸を打たれる。カサールはカントリー系のシンガーソングライターで、12歳で殺害されたウィスコンシンの少女を追悼して、この曲を作った。コラはクリスマスが大好きな女の子だったが、ある日自転車で出かけたまま帰ってこなかった。側溝で遺体が見つかるが、「新聞によると、犯人はいまだ捕まらず、行方も知れないままだ」。

  プレゼントはかわいい白いリボンで包まれ
  大きなツリーは輝き、犬は寝ている
  だけどコラがいない今年のクリスマスはいつもと違う
  なぜ彼女が一緒じゃないのか、僕には分からない

そして、最後にカサールは「きよしこの夜」のメロディーを力強いファルセットで歌って曲を締めくくる。だが、慣れ親しんだ賛美歌のメロディーは、慰めである以上に、諦めにも聞こえてしまう。なぜなら、この曲は、ある意味で、神への大きな問いに触れているからだ。このような理不尽な暴力がどうして許されるのか。クリスマスは神の子イエスの生誕を祝う日だが、イエスは本当に世界を救ってくれたのか、という鋭い問いが突き刺さってくる。

コラ・ジョーンズは、1994年9月5日に行方不明になった。地元警察と数百人のボランティアが捜索にあたった。FBIも捜査に乗り出し、5日後にコラの遺体が見つかった。ところが、先日発見したサイトによると、カサールの曲とは異なり、実際には犯人はすぐに判明したらしい。別件の強盗事件で逮捕されたデヴィッド・スパンバウアーの車を調べたところ、カーペットの繊維が、コラの遺体に付着していた繊維と一致したのだった。捜査当局は、コラは何らかの手段で彼の車に連れ込まれて刺殺されたと断定した。

このスパンバウアーは連続殺人犯で常習的レイプ犯だった。すでに数十年を監獄で過ごし、出所したばかりだったが、即座に強盗と強姦と殺人に手を染めた。まさにnatural born criminalとしか言いようのない男である。最終的に懲役403年という途方もない判決を下されるが、2002年に61歳で病死した。

僕が疑問に思うのは、なぜカサールは「犯人の行方は分からないまま」と歌ったのかということだ。「コラ・ジョーンズ」の制作年が、手元にCDがないために判然としないのだが、もし2005年のコンピレーションのために制作されたとすれば、あまりに杜撰である。もし事件の直後に作曲したとしても、わずか数ヶ月後には犯人が逮捕されているのだから、カサールは曲を発表するまでには、スパンバウアーの存在を知っていたはずだ。

もし事実を知ったうえで、このような歌詞を書いたのだとすれば、その意図は何だろうか。そこには、一人の少女の死を悼む気持ちと、クリスマスらしい感傷的な気分に訴えたい気持ちが、混在していたのかもしれない。連続殺人犯の仕業だった、では、生々しすぎて、歌の焦点がぼやけてしまう。というのも、この「コラ・ジョーンズ」が感動的なのは、子供を殺されるという誰も納得のできないこの世の不条理と、幸福感を押しつけるようなクリスマスの雰囲気との間にある緊張を捉えているからだ。

歌の力は、フィクションの力と言っていい。ニール・カセールの歌は、子供の無差別殺人に象徴される世界の理不尽さにテーマを絞ることで、クリスマスの意味を考えさせてくれる。映画では、最近「実話を基にした」ことを感動の根拠にするようなコピーが目立つが、「基づく」ということは「事実である」ということではない。観終わった後に、本当にこんなことがあったのか、という感慨に浸りがちだが、自分の感動の理由を分析するためにも、あくまでフィクションとしての出来映えを評価しなければならない。今年のクリスマスをひかえて、新たに判明した事実を前に、僕はあらためてそんなことを考えている。

http://www.trutv.com/library/crime/serial_killers/predators/david_spanbauer/8.html



bird dog@すべてはうまくいかなくても

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