このときからほぼ30年後の話。彼はあるとき、シングル用の自作曲を歌う少女歌手を探していた。小さいころから音楽の道に進みたいという希望を持っていた彼の末娘クレマンスClémence(1988年生まれ)がそれを聞いて父親に「私なんかどう?」と自分を売り込む。彼女が吹き込んだデモテープをジョニー・アリデーに聞かせたところ、彼女の声に惚れ込んだこのスーパースターは、ぜひこの少女とデュエットしたいと申し出る。50歳近い年齢差の奇妙なデュオの誕生である。
ふたりが吹き込んだサン=プルー作On a tous besoin d'amour(みんなが愛を求めてる)は、曲自体の良さ、人類愛を歌った歌詞の格調の高さ、はかなげで透明感あふれるクレマンスの声の魅力などが相まって、非常に質の高い作品となった。彼女にとってデビュー作になるこの曲は、2001年末、仏ヒットチャートの4位まで上昇する大ヒットとなる。このとき彼女は13歳の誕生日を迎えたばかりであった。ヴィデオクリップでは、仲良く手をつないでデュエットするふたりの楽しげな姿を見ることができる(アリデーがやたらとタバコを吹かすのには少々閉口するが)。天使のような女の子と野獣のようなロックンローラーの意外な組み合わせが楽しい。
クレマンスはこのあと約3年間のブランクを経て、2005年、音楽シーンに復帰。大ヒット映画Les Choristes(『コーラス』,2004)に主演した美声少年ジャン=バティスト・モニエくんとのデュオで、父親作のConcerto pour une voix(Concerto pour deux voixと改題)を取り上げ、ヒットさせる。(ヴィデオクリップはここ。曲の良さは当然なのだが、アレンジが少々シツコイ感じがする)その後彼女はソロシングルを三枚リリース。2007年にはダウンロード販売限定でファーストアルバムをリリースしたらしい(残念ながらまだ聞く機会には恵まれない)。まもなくCDの形でのアルバムも出るらしく、こちらは彼女の公式ホームぺージで一部を試聴することができる。歌はうまいし、声にも魅力はあるし、いい曲もあるのだが、正直言ってデビュー曲のすばらしさに比べれば決定的に物足りない。いつまでも少女歌手の面影を引きずっているわけにも行かないだろうし、今後の展開はなかなか難しだろうなという気がする。
MANCHOT AUBERGINE
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