前回8月6日付けのブログで紹介した「河童が覗いたヨーロッパ」の9年後,昭和60年(1985年)に出版された妹尾河童さんのインド紀行.「河童が覗いたヨーロッパ」では,建物の窓に始まり,列車の車掌さんの制服やその車内,さらにホテルの部屋と,限られた対象を,並列的に観察するという座標軸があった.
ところが,「河童が覗いたインド」では,そうした座標軸は不在である.
「インドはさまざまなものを平気で混在させている国だ」と河童さんは述べているが,この混在性が座標軸を拒むのかもしれない.
そんなわけで,イラスト/記述の対象は多岐にわたり,それぞれのエピソードは,実にスパイシーだ.
例えばヒンドゥー教の聖地バラナシの狭隘な路地で,著者はのしのしと歩いてくる牛に遭遇する.
「しっ,しっ」といっても,いっこうにおかまいなく歩いてくる.相手は,痩せていても巨大な牡牛.こんな狭い所で闘牛はやりたくない.露地の壁に体をへばりつけて,牛をやりすごそうとしたら,何かを踏みつけた感触があった.ゴリッというか,グニャッというか,なんとも妙な感じである.
牛はぼくを無視して,ゆうぜんと通りすぎた.
その間,ぼくは訳のわからないものを踏みつけていたが,牛の去ったあと,下を見て驚いた.人間である.
路の壁ぎわに倒れていた人間であった.ぼくは狼狽した.まさかここに横たわっている人がいるなんて,気がつかなかった.もし,目に入っても,一瞬に「人間」と判別するのは無理なぐらいに,あまりにもその衣服は汚れ,道路と同じ色をしていた.まるでボロ布の塊のようであった.しゃがみこんで顔をのぞいたら,ぼくを見あげている目とぶつかった.ドキッとする.力ない視線だが生きている.バラナシに死地を求めて,やっとたどり着いた人かもしれない.
読んでいて,こちらもドキリとする.
その他にも,ボンベイの「沈黙の塔」の説明.
また,デリー駅で,暗闇のなか,足首を急につかまれる体験など,幾つかのエピソードは,極めて刺激が強い.
(「沈黙の塔」は,「鳥葬」に用いる.ただし「鳥葬」とは,何も飼っていたインコが死んでしまったからといって埋葬する動物霊園ではない.では,何が埋葬されるのか.気になる人は本書を開いていただきたい.)
もちろん,全編を通して,強い刺激が延々と続く訳ではない.
インドのお弁当箱やお土産用の象のお守りのイラストなどは,いつもの微笑ましい妹尾河童のイラストである.
また,街頭の露天を描くイラストも楽しい.
水売りの屋台,エア・ポンブ屋,鶏屋,インコ売り,街頭の仕立て屋,砂糖キビ売り,中古歯車屋,手作りオート・リキシャなど,河童さんとお店の人との対話もユーモラスだ.
さらに「田園の中の路線バス・ストップ」のイラスト.
広大な風景の中,のんびりとバスを待つ人々を描いただけのイラストではあるが,なぜか悠久の時間を感じてしまう.
思わず「ガンダーラ」と呟きたくなる.
面倒な旅はご免だ,という人でも,本書を読めば,いつかインドを訪れてみたいと思うのではないだろうか.
インドという土地柄のせいもあるのだろうが,読み物としても,「〜ヨーロッパ」と比べて格段に面白い.
河童が覗いたインド (新潮文庫)
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妹尾 河童
新潮社
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いやーーたのしいですよ、、、
写真じゃ見えない美しさ
これは面白い!
絵を眺めるだけでも価値アリ!
インドはおもちゃ箱のようキャベツ頭の男@どうってことない風景
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