私は地下鉄に乗っていた。私の向い側には真っ赤なワンピースを着た若い女が脚を組んで座っていた。彼女は目を閉じて音楽を聴いていた。例の白いイヤフォンで。それはすぐに見分けがつく。周囲と決して馴染まない、宇宙船の表面みたいな独特の光沢と質感がある。イヤフォンから延びた2本のコードが彼女の胸元でつながり、赤い生地の上を通り、彼女が右手で握っているipodにまで届いている。単色のワンピースのシンプルなデザイン。彼女の持っているのは白いiPodだけ。彼女は眠りから覚めるようにゆっくりと目を開けた。私と目が合った瞬間、彼女は途方もない企みを思い付いたかのように、愉快そうな笑みを浮かべた。そして、いきなり立ち上がると、手に握っていたiPodのスクリーンを私の目の前に突きつけた。私はいやおうなく彼女の「現在プレイ中」の曲名を見せつけられる羽目になった…。
今度は彼女が私のジャケットのポケットを指さし、私のiPodを見せるように催促した。私は彼女のことが気になって、自分の聴いている音楽のことなどすっかり忘れていた。そのときちょうど曲が切り替わった。私はシャッフルで聴いていて曲をコントロールできない状態にあった。流れてきたのは運悪く、そのうち削除しようと思っていた・・・だった。彼女の曲に比べ、それが恥ずかしくなるほど凡庸なことを知りつつ、私はしぶしぶiPodを取り出した。
不意打ちとはいえ、私は完全に負けた。負けたというより、自尊心をズタズタにされたのだった。ドアが開き、サラリーマンの一群が乗り込んできた。赤い影はそのあいだを縫うようにして消えていった。
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これはスティブン・レヴィ著「iPodは何を変えたのか?」に紹介されていたエピソードを適当に脚色したのだが、NYの地下鉄線、LラインではこのようなiPod戦争が繰り広げられていた。iPodで何を聴くか。それはアイデンティティーを賭した戦いなのである。ちなみに本書では女が聴いていたのは Rezillosというパンクバンド、男は Petshop Boysだった。
例えば、ブログの文章やデザインも、その人間の趣味やセンス、考え方や問題意識を端的に表すだろう。初対面の人に「こういうブログやってます」とURLを教えると、手っ取り早く自分のことを説明できる。なぜか多くの場合、男性はノーコメントで、ブログを見たのかどうかも言ってくれないが、女性の方は率直に感想や意見を言ってくれる。ブログの媒介で共通の話題が見つかり、仲良くなれることもある。しかし、iPodはブログ以上の効果を発揮するらしい。
あなたはどんなプレイリストを作っていますか?
あなたはそれを人に見せたことがありますか?
(続く)
iPodは何を変えたのか?
posted with amazlet at 08.09.16
スティーブン・レヴィ
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ジョブスと長い付き合いの著者ならではの迫真の記述
ニューヨークを盗んだのは、あの機械だ
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