のっけから流れるタイプライターの音の使い方がとてもうまい。小説家を夢見る少女、ブライオニーの足取りに合わせてマーチのように響き、時にはマシンガンのようにも聞こえる。タイプライターってこんなに鋭い音がしたっけ?と思わせると同時にそれを操る小説家が持つ暴力的なまでの「力」の暗示になっている。「香水」という映画があって本当に匂いがスクリーンから出るとかいうふれこみだったが、それよりもこちらの方がわたしにはキーラ・ナイトレイ演ずるセシリアの香水の香りとか、屋敷に満ちる夏の重くだるい空気とか、戦場のきな臭さや血のにおいが漂ってきたように思う。
監督ジョー・ライトは300ページ近いイアン・マキューアンの原作を「語らない」ことで成功させている。やたらとキャラクターが能弁だったりナレーションが入ったりするのではなく、俳優たちの演技力を信じて、ふとした肩の上げ下げや、開きかけて思いなおした唇などで心情を語らせることで美しい一本を生み出した。
キーラはうまいし、とても綺麗な女優だと思うのだけれど、いつもなんか口元が気になって仕方なかったのだが(なんか噛みつかれそうじゃないですか?)今回それがなかった。なぜだろうと思っていたら、あまりしゃべらないし笑わなかったからなのだ。それもまた台詞の少なさが生み出した思わぬ効果の一つかも。
台詞は少なくとも抑えてもほとばしる情熱をキーラはその細身から漂わせ、相手役ロビーを演じた今旬のジェームス・マカヴォイ(ペネロピや現在ウォンテッドに主演中)もまた、白いシャツの下に、熱を持った確かな肉体を感じさせるのにどこか「はかない」という、矛盾する役どころにぴったりはまっていた。「はかない」という表現が合う男優は少ないでしょう。他にはトビー・マクガイアぐらいか(そう思うのはわたしだけかもしれませんが)。この二人を見るだけでも価値があるくらい美しく仕上がっている。またイングランドの片田舎の夏の屋敷から突然の第二次大戦中のロンドン、フランスへの画面のがらりとした切り換え。ここでも長回しのシーンが戦争というものがどれほど無駄で愚かしい行為かを訴えてきて、反戦映画として見ても優れている。
Come back to meとセシリアがロビーにささやく一言がキイワードでもあるのだが、どれだけ多くの女たちがそれをささやき、母や妻や恋人の元に無事に帰れたものは本当に限られたラッキーなものだけだったのだろうと思うと胸が詰まる。
最後のシーンは賛否分かれるところだろうと思うが、わたしには「つぐない」というよりも小説家の「業」の傲慢さが鼻についてちょっと褪めてしまいました。
□「つぐない」ジョー・ライト監督、イギリス、2007年
□ATONEMENT-trailer(from youtube)
□「贖罪」(原作)、イアン・マキューアン、新潮文庫
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思ったよりも良かった。
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