2008年10月12日

【全訳】「サムライの復讐」 ル・モンド紙、10月5日

銀行の相次ぐ破綻、突然の国有化、7000億ドルあるいは3500億ユーロの救済プランの影に隠れて、当然そのニュースは注意を引かなかった。三菱UFJは90億ドルでモルガン・スタンレーの21%の株式を取得することを決めた。その数日前には、三井住友がゴールドマン・サックスに資本参加することを表明し、野村はリーマン・ブラザースのアジアと中東の事業を買収していた。日本がウォール街の逸品を独り占めにした。サムライの復讐である。

日本の銀行システムの破綻に至った株と不動産の巨大バブルの崩壊から18年後の、予期せぬ復讐だった。1980年代の終わり、グリーンスパンの日本版たちの超金融緩和策の結果、株価と住宅価格が跳ね上がった。1989年には、東京の株の時価総額はウォール街を越え、日本の不動産の評価額はアメリカの4倍あった。東京の中心部の1uの土地の値段で、シャンゼリゼ通りの大きなアパルトマンが買えたのである。その時代、日本は驚異的な経済力と拡張主義によって飛ぶ鳥を落とす勢いで、欧米人が経済のモデルにするほどだった。またその時代は、三菱地所がロックフェラー・センターを買い、ソニーがコロンビアを買収し、「黄色い蟻」の脅威と公言してはばからなかった当時のエディット・クレッソン(1991年5月‐翌年4月、ミッテラン政権の首相)のように、「日本嫌い」が言いたい放題言った時代でもあった。

日銀の三重野総裁は1990年に、投機の大きなお祭りと兜町のスーパーブームを終わらせるためにお金の蛇口を閉めた。その名も「平成バブル」は利上げという針に刺されて破裂した。株が下落し、不動産がそれに追随し、日本の銀行は信用不安の重圧によってドミノ倒しに倒れた。

欧米人は日本の倒壊を安心感と信じられない傲慢さが混ざり合った感情で眺めていた。日本の脅威が遠ざかっていくことに安堵し、傲慢にも銀行システムの正常化のために自分たちの解決策を押し付けたのである。日本の財務大臣たちはG7の度に、アメリカやヨーロッパの同僚たちに適切な金融のガバナンスについてずけずけと諭されたのである。

日本人は恨みがましくはなかった。今、日本人はアメリカやヨーロッパに仕返しをせず、彼らに銀行の崩壊から生き残った経験を伝えようと気を使っている。しかしながら、日本の銀行はサブプライムの毒を食らわなかった世界でほとんど唯一の銀行なのである。部分的な被害にとどまったのは、それらがまだ1990年代のトラウマを克服していなかったからだ。彼らの失敗、つまりデフレという日本が約10年間に渡って払った高いツケのせいでやる気をなくしていて、リスキーな不動産ローンの致命的な冒険に身を投じずに済んだのである。それはまた日本の銀行が、数学のちょっとした天才が作り出したこれらのハイテクなデリバティブ(金融派生商品)を好まなかったからでもある。欧米の市場の銀行に幸福と不幸をもたらしたデリバティブを好む文化が日本にはほとんどなかった。

20年前、新しい金融市場が創られたとき、シティやウォール街の若いゴールデンボーイたちの好んだゲームのひとつは、少々ナイーブすぎる日本のトレーダーたちに損失を押し付けることだった。日本人はテレビゲームや最新の電化製品が大好きでも、決してCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)や他の金融ガジェットに決して誘惑されることはなかった。今日の日本の銀行は、良く言えばドジな失敗、悪く言えば生まれつきの弱点のようにかつて見えていたものに逆に報いられている。

確かに日本の金融の復権は人々を夢中にさせるほどのものではないが、良く認識しておく必要がある。ライバルであり隣人、そして今のところ主要な貿易のパートナーである中国しか見ていない日本とその経済は、もはや多くの人々の関心を集めていない。中国経済の奇跡を賞賛した長い本が30あるとすれば、日本経済には1本の短い記事しか割かれない。しかしながら、日本はいまだ世界第2の経済大国なのだ。それどころか、アジアで最強の国である。経済規模が中国の3倍あり、1億2800万人の日本人は、中国とインドをあわせた24億人よりも生産力がある。

しかし日本にも大きな弱点がある。人口の高齢化、格差の増大、サービス業の生産性の低さ、国内総生産の180%に達する国の借金、1985年の水準にまで下がってしまった株価である。しかし、とりわけ強大な力を持っている。知識と革新の社会、世界一のロボット工学、国内総生産の3.3%に及ぶ研究開発関連予算(スウェーデンとフィンランドに次ぐ)、2620億ドルの貿易黒字、世界で最もパフォーマンスの良い公共交通機関。トヨタを忘れてはいけない。世界最大の自動車メーカーだ。「失われた」と言われているが、それほどでもなかったかもしれない10年のあと、日本が帰ってきた。みんなは関心がないかもしれないが、そうであってはならない。なぜなら、日本は少なくとも巨大な投機的なバブルの崩壊から何とか立ち直った証なのだから。それゆえ、私たち欧米人の希望なのだ。

Le revanche du samouraï
le 05 Octobre 2008
Par Pierre-Antoine Delhommais

★各メディアで話題になった10月5日付の仏紙「ル・モンド」の記事の全訳。マラソンで次々と抜かれ、後ろの方を走っていたら、いきなり前の選手がバタバタ倒れて、いきなりトップに踊り出たって感じだろうか。少し前まで批判の対象だった日本の「金融鎖国的な体質」が逆に功を奏したというか、結果的にアメリカやヨーロッパが勝手にコケてくれて、相対的に日本の価値が上がった形だ。それにしてもここまで日本のことを持ち上げる記事は珍しい。ヨーロッパも相当弱気なのだろう。松藤民輔氏の『無法バブルマネー終わりの始まり』の書評でも書いたが、確かに今の状況は日本に追い風である。原油価格が下がっているので、あまり話題にならなくなったが、日本はエネルギー効率が世界一高く、アメリカの2倍、中国と比べたら8倍以上ある。その象徴が記事にもある「都市部を隅々まで網羅し、しかもダイヤも正確な鉄道インフラ」である。日本人は1974年、78年のオイルショックを経験した日本は、自国をいちはやく世界一効率のいい国に変えた。その過程で磨き上げられた省エネルギー技術や代替エネルギー技術が、脱・石油、地球温暖化の流れの中で注目が集まっている。それにロボット工学を加えたものが、松藤氏の言う「現代日本の黄金」である。
★しかし、これがうまく行ったとしても、その恩恵を被るのは日本の顔をした多国籍企業である。それが日本人全体に行き渡る、つまりきちんと富の再配分がされないのが今の日本。景気が回復しても日本全体が底上げされる構造ではなくなった。放っておかれる部分はいつまでも放っておかれる。とりわけ世代間格差がひどい。これを解決するのは政治の問題であることは言うまでもない。考えてみれば、サムライ=日本人というわけでは全然ない。江戸時代の武士の比率はせいぜい10%で、まさに特権階級=既得権益層の復権でしかないというアイロニーにも聞える。
★これは10月5日の記事だが、刻々と状況は変化している。三菱UFJは先月29日、モルガンの普通株を1株当たり25.25ドルで30億ドル分取得すると発表しているが、モルガンの株価はこの1週間で6割急落し、10ドルを割り込んでいる。三菱UFJは14日に資金を払い込むとしているが、市場ではモルガンの経営危機の表面化で、出資取り下げ憶測が広がって、それがさらにモルガンの株価を下げている。三菱UFJも頭が痛いところだろう。
★先週、ニューシティ・レジデンス投資法人が倒産。REIT(リート、不動産投資信託)までが倒産するということは、銀行の貸し渋りなどで不動産市況が想像以上に悪くなっていることの証明だ。これまで日本の金融システムは米国ほど悪化していないとの認識だったが、それも怪しくなってきた。
★日経平均は金曜、一時1000円を越える下げに見舞われた。ありえない暴落である。日本は金融危機の影響が相対的に少ないといわれながら、震源地以上に株価が下がっている。日本市場の脆弱さの原因のひとつは外国人投資家の比率が高いことだ。彼らがなだれをうって換金売りに走っている。彼らに投売りされたらたひとたまりもない。




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posted by cyberbloom at 10:16| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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