2008年10月26日

フランス人も注目、日本のケータイ小説(2) TEXTOTERって?

スマートモブズ―“群がる”モバイル族の挑戦去年(2007年)の書籍の年間ベストセラーは「ケータイ小説」が文芸部門のベスト3を独占し、ベスト10では5作がランクインした。文芸書が売れない中、素人が書いた小説が次々とミリオンセラーになり、出版界に大きな衝撃を与えた。第1位がフランスの「ル・モンド」も取り上げた美嘉著「恋空」(スターツ出版)。上下巻で累計200万部売れた。この作品は映画化され、公開1か月で240万人を動員する大ヒットとなった。2位、3位には上下巻で計100万部のメイ著「赤い糸」(ゴマブックス)、美嘉著「君空」(スターツ出版)だった。

周知の通り、「ケータイ小説」は携帯電話やパソコンのサイト上に横書きで発表される小説で、5年ほど前に登場した。専用の投稿サイトには、主に10代〜20代の女性らが、妊娠や恋人の死など実体験をもとにした物語を発表し、人気作品が書籍化された。当然のことだが、純文学からは、「文章が稚拙で、ストーリーもワンパターン」と批判されてきた。しかし、出版界もその動向を注視せざるをえなくなっている。今年の「文学界」1月号は、「ケータイ小説は『作家』を殺すか」と題して大手文芸誌初のケータイ小説特集を組み、従来の文学への影響を分析している。編集部は、「文学は時代を反映するという意味では、文芸誌もケータイ小説を無視できない」と。

ケータイが私たちの文化に深く浸透し、変質させてしまう現象は、すでに21世紀の初めに予感されていた。私がハワード・ラインゴールドの『スマートモブズ―“群がる”モバイル族の挑戦』を読んだのは、ちょうど「ネットと既存メディアの融合」を主張するホリエモンがメディアに露出し始めたころだった。ラインゴールドが「渋谷ハチ公前の啓示」と呼んでいる体験をちょっと引用してみよう。(以下引用)

時代の転換の兆しが私の前に姿を顕し始めたのは、2000年のある春の日の午後だった。私はその日、東京の街を歩いている人々が、携帯電話に話しかける代わりに、それにじっと見入っている姿を目撃したのである。今や世界中の多くの場所で当たり前になってしまったこの光景が、これまで何度か経験したことのある感覚を私の中に呼び起こした。それは、技術が私の生活を自分自身にほとんど想像のつかない仕方で変えようとしていることの、即座の認知だった。そのとき以来、短い文章メッセージを携帯電話でやりとりする習慣が、ヨーロッパとアジアに、色々なサブカルチャーを突発的に生み出していった。人々が文章をやりとりする仕方が原因の一部となって、少なくともひとつの政府が崩壊した。若者のデートや政治運動、さらには経営のスタイルまで、これまで予想もしなかった仕方で変化したのである。

この間に私は、今までは「テクストメール(テキスティング)」と呼ばれるようになっているこの新しい習慣が、次の10年に起こるより深い様々な変化の小さな前触れにすぎないことを知った。渋谷の交差点での体験は、後に私が「スマート・モブス smart mobs」と呼ぶことにした現象との最初の出会いにすぎなかった。その兆候の見分け方がわかってくると、この現象は、バーコードから橋の通行料の電子的な支払いに至るまで、いたるところに見つかり始めたのである。(以上引用)

「少なくともひとつの政府が崩壊した」というのは、フィリピンのことだろう。フィリピンでは「エドサ(通り)に行け、黒を着ろ」というケータイのチェーン・メールが発信され、4日以上に渡って、黒い服を着た100万人を超える市民が通りに集結。腐敗したエストラーダ政権が崩壊した。もっとも、この事件はケータイが民主的な力として作用したとは必ずしも断言できない事情があるのだが(田中宇「フィリピン民衆革命の裏側」2001年7月9日を参照されたし)。

フランス人はケータイでひたすらしゃべっているという印象が強かったが、最近はさすがにメールにシフトしているようだ。だからテクストメール先進国の「ケータイ小説」が気になり始めているのかもしれない。フランスではケータイのメールを texto とか SMS(=short message service)とか言う。textoter や textoriser という動詞も使われる。

今年の「文学界」1月号は「ケータイ小説は『作家』を殺すか」と特集だったらしいが、そもそも小説の著者とはどんな存在だったのだろう?
(続く)




cyberbloom

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posted by cyberbloom at 18:55| パリ 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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