2009年04月06日

「おくりびと」と埋葬の現在

おくりびと [DVD]今年の2月、実家に戻って親類の葬式を手伝う機会があり、今話題の「納棺の儀」を体験した。実家は映画「おくりびと」の舞台になった山形ではないが、映画の原作者(小説)と映画監督の故郷である。「おくりびと」がアカデミー賞を受賞したとき、地元では「アカデミー賞作品をなぜ誘致できなかったんだ」と悔やむ声が上がっていたようだ(笑)。比較的葬式にお金をかける土地柄のようで、葬式の際に動くお金の大きさに驚いたし、「何でこんなことにお金をかけるわけ!?」と田舎の年寄りのお金の使い方に非合理さも感じた。私たちの世代はそんな経済的な余裕はないし、親戚やご近所の相互扶助も成り立たないだろう。

納棺の儀を執り行ってもらったのは20代の若いお兄さんで、納棺の儀だけでなく、葬式の司会など、すべてのプロセスを仕切っていただいた。納棺の儀は北海道のやり手企業が発明したもので、日本の伝統と何の関係もないという意見もあるようだが、重要なことは、それがいかに故人を偲びやすい形式であるかだ。最近、個人葬が増えてきたようだが、確かに宗教(具体的には仏教のことだが)が大きく絡むと儀式ばかりに時間が取られ、その集金システムがあからさまに見えたりして、お金がかかるほど興ざめしてしまう。一体、誰のための葬式なのかと。

日本の社会・経済構造の変化から鑑みて、死は共同体的なものから個人的なものへと変わらざるを得ないだろう。その点、納棺の儀はコンパクトでなかなか良い儀式だと思った。本当に身近な人間だけが集まって、故人を自分たちの手で持ち上げて棺桶に収め、故人を話題にしながら花を入れたり、遺品を入れたりする。棺桶の蓋が閉まるやいなや、故人に触れる機会はそれ以降なく、火葬場まで一連の儀式の流れに委ねられてしまう。

宗教をテーマに東京でフィールドワークをしている文化人類学者の友人から聞くお墓の話はいつも面白い。フランス人から「日本の墓の現在」を聞くというのも奇妙な経験なのだが、やはり日本社会の変動を反映しているのだという。新しい世代は、先祖供養に対して無関心になっていて、お金をかけなくなっているようだ。つまりは先祖供養が従来持っていた影響力(自分が先祖につながっていて、守られているという意識)が失われているのだ。

離婚した女性、子どもがない女性、あるいは自分の夫と同じ墓に埋葬されたくなかった女性の要求に応じて永代墓が作られたケースがある。その原因に出生率の低下と離婚の増加があることは想像に難くない。少子化とは、多くの個人や家族において子孫がいなくなることを意味するのだ。夫と同じ墓に入りたくないというのは、自己選択の自由に基づいているわけだが、それは家制度に基づく檀家制度を崩壊させてしまうだろう。

死が個人主義化していると言っても、社会関係を捨てるというわけではない。個人の重心は、従来の家制度的な関係から、重要だった生前の関係や自身の死生観へと移っているのだ。それは、自分自身が葬られる場所とその場所を分かち合う人々を自分で決めることに帰結する。

先端テクノロジーを駆使し、故人の生前のデータを収めた電脳墓(電脳バカ?)。ひとつの墓に血のつながりのない二人の骨壷を一緒に入れた二人墓。その関係は、同性のカップルだったり、友人だったり、愛人だったりする。ペットと一緒に墓に入る人もいる。人間と動物という新しい社会関係だ。自然葬への関心も高まっていて、自然葬と言えば海や空などの自然の中に遺灰を撒くのが一般的だが、骨壷を埋めたそばに桜などの樹木を植えるという樹木葬というのもある。この考えかたは、宗教よりも自然を重要視していて、死は何よりも社会的な帰属を離れ、大地に帰ることを意味している。それは日本というローカリズムから離れ、グローバル(世界共通の形式に向かう)でエコロジック(人工物を作らず、自然環境に親和性がある)ですらある。自然葬の場合、故人は自然の中に遍在することになるわけだが、一方で故人との距離を限りなく縮める方向もある。それは遺骨や遺灰をオブジェ化して(置物やペンダントにする)、自分の部屋に置いたり、身につけたりすることだ。これは故人そのものであるので、仏壇や形見とも違った形式である。

日本の埋葬はつい最近まで伝統にのっとって綿々と続いてきたのだろうが、ここ数十年で急激な変化に見舞われることになったのだろう。家制度に支配されたプレモダンの時代が長く続いたあと、急激な自己決定=モダンの時期がやってきたわけだが、日本の埋葬は今後どこへ向かうのだろうか。サブカル大国の途方もない想像力はこの先、タブーを失った葬式とお墓をターゲットにするのかもしれない。

「おくりびと」(予告編)


cyberbloom

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