ジャズはアメリカ発祥の音楽なのだが、1940年代当時は人種差別の影響で正当な評価を得られなかった。黒人が関わっている音楽というだけで白人社会から敬遠されていたのだ。一方でヨーロッパはいちはやくジャズをひとつの芸術として受け入れてきた。とりわけスウェーデンとフランスでアメリカとは違った形でジャズが花開く。1949年、23歳のマイルス・デイヴィスがパリで開かれた国際ジャズ祭に招かれ、ジャズが芸術音楽として高く評価されていることを実感し、アメリカに帰りたくなくなる(ジュリエット・グレコと恋に落ちたせいもある)。またマイルスが音楽を担当した「死刑台のエレベーター」など、ジャズはフランス映画とも深く結びつく。一方で、才能に溢れた若いジャズマンがスウェーデンに渡り、当地のミュージシャンたちと共演し、録音した音源がたくさん存在する。バンドリーダーにソロ作品を録音することを禁じられたり、彼らのアメリカでの活動はけっこう縛りがかかっていた。そこでヨーロッパで創造的な憂さを晴らしていたのだ。
直接的な人脈のつながりはないにせよ、伝統的なジャズのスイング感を受け継いだ新しいジャズがある。とりわけスウェーデンの新しいジャズの動きを世界に知らしめたのが KOOP だ。KOOP はジャズDJのマグナスとピアニストのオスカーによるユニットで、精緻なエレクトロニック・ジャズを展開している。
KOOPの「アイランド・ブルース」(Koop Islandsに収録)のビデオクリップはスタイリッシュな映画仕立てになっているが、映像には、ムーラン・ルージュ Moulin Rouge やフォリー・ピガール Folies Pigale が映っていて、舞台はパリの歓楽街だということがわかる。最後のシーンはブーローニュの森っぽいし、曲もアコーディオンを使ったミュゼット風の味付けだ。つまりフレンチでスウェディシュ。最近この表現はオシャレであることの最大の賛辞になっている。
メロディーはメランコリックだが、リズムは軽やかにスウィングしている。英語の歌詞はシンプルだが、陳腐に聞えない。むしろこの言い方しかないってほど洗練されていて、しっくりくる。ビデオの冒頭にも登場するが、KOOP のふたりはいつもちょっと垢抜けない感じのゲイのメイクをしている。
このビデオのこの救いようのなさ、行き詰まり感がスウェーデン的、あるいは「北方的」なのかもしれない。決して逃げ道がないわけではない。自分を追い込んでしまうオブセッションが問題なのだ。ストーリーが断片的ではっきりしない分、救いようのなさだけが純粋に伝わってくる。
北に向かうこと。これは芸術にも深く関わる問題だ。詩人や芸術家は「北の果て」でのたれ死にする。あるいはそうすることに憧れる。世界の果てを、朽ち果てていく自分の肉体によって確認するのだ。到達すべき何か、触れるべき先端があるというオブセッション。それによって自分から逃げ道を奪い、自分を追いつめるが、決してそこに到達することはない。
そういう意味で、ドイツもまた北の方角にある。決して手に入らないものを求めてさすらう若者の姿を描くシューベルトの「冬の旅」や、晩年ヨーロッパに留まり、ベルリンで亡くなった芸術家肌のジャズマン、エリック・ドルフィーなんか思い出す。最近の映画では、刑務所でロック・バンドを結成した4人の女囚が逃避行を続けるロードムービー「バンディッツ」も印象的だった。「北へいくやつといえば、いつものたれ死にだ。この定式はある種、寓話的ですらある。誰でも北に向かった逃亡者はさいはての港に追い詰められ、霧のなかで銃殺される場面を知っているだろう。そして、南へ向かった逃亡者が浜からモーターボートで去ってゆき、くやしがる追跡者をあとにする場面を知っているだろう」(『シミュレーショニズム』椹木野衣)
「バンディッツ」のラストシーンはまさに港である。ロックバンドを始めた人間はこういう結末を迎えるしかない。レオス・カラックスの「汚れた血」の主人公アレックスもまた生きたまま空港にたどり着けない。行き場のない感情を抱えてアンナは衝動的に灰色の空の下を駆け出す。
一方、モーターボートで逃げ去るシーンと言えば、「ルパン3世」を真っ先に思い出す。「ルパン3世」の痛快さは主人公たちの盗みの手際の良さよりも、彼らが決して捕まらずに逃げおおせることにある。「ルパン3世」はアルセーヌ・ルパンの孫という設定だが、イタリア映画の南の血が多分に入っている。いまだ詩なんて言っているやつは放っておいて、南に逃げよう。ランボーも詩を捨て、南に向かったではないか。
地中海に面した南仏の空の青は、パリのそれとは全然違う。あの吸い込まれそうな色にすでに救われた気持ちになる。ドイツにはバカンスの海がない。スペインのマジョルカ島に行ったときに驚いたのだが、そこはドイツ人バカンス客の植民地と化していた。スペイン語表記と同じくらいのドイツ語表記であふれていた。日本人にとってのハワイのようなものなのだろう。マジョルカ島のマジョリティーは「不凍港」(不凍海水浴場?)を求めるドイツの南下政策の結果なのだ。
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