ワールドミュージックのコーナーで、”フランス”の棚を見るたび複雑な気持ちになります。フレンチ・ポップスとシャンソンとの“断絶”が埋まる日は来るのだろうか、と。ディスプレイやジャケットといった見た目の点でも、品揃えも、あきらかに違う。ふらりと立ち寄って、そそられるのは、やはり前者の方でしょう。しかし、後者を聴かず嫌いしてしまうのは、もったいない・・・両方とも楽しい身には、何とかならないか、と思うのです。そんなドンづまりな状況を変えるヒントになるようなアルバムに出会いました。カナダのシンガー、マーサ・ウェインライトが、かのエディット・ピアフの曲だけを集めたアルバムをリリースしたのです。ニューヨークのライブハウスでお客を入れて収録した、一発取りのレコーディング。アコーディオンのような定番伴奏楽器に、エレクトリック・ギターやホーンも加わった、変則的なバンドを従えての、かなり大胆な試みです。お兄さんのルーファス・ウェインライトも、メジャーなゲイ・アイコンであるジュディ・ガーランドのショウを再演して世間をあっといわせましたが、マーサの挑戦はより難易度が高かったようです。
まず、英語の訳詞を採用せず、フランス語で歌っている事。モントリオール育ちで、フランス語のこなれ具合は普通の非フランス人と比べても、本人曰く「けっこういけてる」マーサですが、インタビューで告白しているように、イントネーションがちょっとヘンだったり、完璧とは言えない。音としてのフランス語の美しさを超人的な歌唱力でもって世界に宣伝したピアフをカバーするのにそれでいいのか、と眉をひそめる人も少なくないと思います。実際、マーサの歌いっぷりは、ピアフのそれとはだいぶ違う。生まれた時からロックがあった世代の、ガッツ溢れるアプローチは、ピアフ本人の歌に固執するシャンソンのファンにはオドロキ以上のインパクトだと思います。
さて、肝心の音のほうですが、賛否両論あると思います。好みもあるでしょう。フランスが生んだ最高のソウル・シンガー、ピアフはやはり大きい存在で、曲によってはオリジナルを引っ張りだして聴きたい衝動にかられます。しかし、マーサの試み自身はなかなかおもしろいと思います。
音楽とは、結局、純粋な衝動がなければ始まらない。かっこいい、ステキ、と感じたら、シノゴノ言わずにやってみる、歌ってみる。世界のあちこちで起こった、そんな行動の積み重ねが、音楽を深く豊かなものにしているのではないでしょうか。
シャンソンの魅力の一つに、歌詞の素晴らしさがあることは否定しません。往年のピアフの動画を、歌詞の字幕ありで見た場合と、なしで見た場合では、受けとめるものの大きさが全然違います。それでも、たとえ歌詞がわからなくても、耳を傾け、口ずさんだり真似したくさせる、音楽のかっこよさが減ることはないと思うのです。歴史もバイオグラフィーも、辞書もいったん脇において、解説を忘れて、音楽にかじりつき、自分なりのレシピであの美味しさに迫ってみる。そんなアティテュードが、シャンソンとフレンチ・ポップスとの断絶を埋める鍵なのかな、と思います。
マーサによるピアフは、こんな感じです。
GOYAAKOD@ファッション通信NY-PARIS
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