
一聴してすぐに気づくのは、ギターの音色と歌声の変化。ギターは以前よりもずいぶん硬質に響き、声も、意識して音域を下げた感じで、これまでのアルバムに特徴的だったふわふわしたファルセットがほぼ姿を消している。前作(Le sacre des Lemmings(2006))で目立ったストリングスや管楽器も影をひそめ、全体的にシンプルでタイトなサウンドになっている。フォークやブルースを基調にした音楽性自体はあいかわらず。ただ、マイナー調のメロディに乗せてしっとりと歌い上げる、これまでのお得意パターンの曲は今回見あたらない。
リーフレット(私が入手したのは限定版仏盤)にはテテ自身による長文の自作解説(英文)が載っている。それによると彼は、これまでの3枚のアルバムは「オーバープロデュース」気味で「クリーン」過ぎたと考えており、今回は従来の「フォークレコード」とは違う、分厚くてしかもシャープなギターを伴った「アコースティックパワーポップLP」を目指した、とのことである。また、punchy / earthy / dirty / energy and emotionといった言葉を本作のキーワードとして示している。何となくこのアルバムの雰囲気がわかってもらえるだろうか。さらに、本作制作に際し参考にした他人の曲をずらりとリストアップしている――ライトニン・ホプキンスからグリーン・デイ、ウィーザー、はたまたエミリー・ロワゾーまで多種多様――が、これも「ふ〜ん、なるほど」という感じでなかなかおもしろい。音楽家なら御託など並べず音だけで勝負したらいいという意見もあるだろうが、私はこういう説明好きなひとって好きだな。きっとまじめで律儀なヤツなんだと思う。
この変化をどう評価するか、聴くひとによって意見はさまざまだろうが、私は本アルバムを非常に気に入った。これまでの3枚はどれも好きだが、上で引用したテテ本人の不満と同じような不満を(とくに2枚目と3枚目にたいして)ときに感じてもいたので。個人的にはこれまでの最高傑作だと思う。アーティスティック・テテ、メランコリック・テテのファンの感想はまた違ったものになるかもしれぬが...。
■収録曲L'envie et le dédainのヴィデオクリップ。きりっとした名曲。
■日本盤もまもなく出るもよう。詳しくは発売元のブログを参照のこと。輸入盤を入手するのならジャケットがブック形式で、収録曲のデモ・ヴァージョンが5曲追加された「限定盤」のほうがいいと思う。アマゾン・ジャパンのカタログには輸入盤(仏盤?)が2種載っているが、どちらが限定盤かは不明。
MANCHOT AUBERGINE

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