
3年前、バチストは、マルセイユにあるヘリコプターの組み立て工場で働いていました。コルシカ出身の父親は整備士というワーキングクラスの出で、学校は16才でドロップアウト。将来はおカネを貯めてピザのトラック屋台を買って商売してみたいなあ、とつつましい夢をもつごく普通のお兄ちゃん。
しかし、仕事の後筋トレにはげんでいたジムで声をかけられてから、平凡な日々を生きるはずだったバチストの人生は一変します。地元のプロカメラマンの紹介とポートフォリオを抱え、パリの一流モデルエージェンシーの戸をたたいたところ、採用。細かな仕事をこなしてゆくうち、イタリアの雑誌に掲載された写真が、『皇帝』カール・ラガーフェルドの目に留まり、即呼び出し。ラガーフェルドと対面したその日から、彼の人生はまた大きく変転します。
ワークアウトで鍛えた腹筋が目を引く細身のボディに、甘さの中に本のひとつまみ「毒」を孕んだマスクを持つ若者は、御大の創造力をいたく刺激したようです。ファッションフォトグラファーとして、自分が手がけるブランドの広告だけでなく、ファッション誌の依頼で撮り下ろすラガーフェルドは、ありとあらゆる機会にバチストを起用、写真を撮りまくりました。

ラガーフェルドにとってバチストがいかに特別であるかは、彼がシャネルのショーや広告、PR用ショートムービーに使われていることからも伺えます。男性向け商品のお取り扱いはごく少ないこのプランドで、男性モデルには商品を着てもらってアピールする役目はないわけで、ビジネス面で目に見えてプラスとなる効果はありません。にも関わらず、「女達の引き立て役」以上の使われ方をしています。例えば、フランス版ヴォーグ誌のシャネル特集の最初を飾る一枚として、ラガーフェルドが撮り下ろした写真。ピンヒールにシャネルジャケットの特徴を誇張したオーバーサイズのジャケット(マルタン・マルジェラのデザイン)だけを身にまとったバチストを撮影しています。時代を超えて受容され、たとえ素っ裸の美男が着たとしても、その独特のエレガンスは揺らぐ事はない―シャネルのデザインの影響力と偉大さを大胆に伝える写真ですが、一歩間違えればキワものに落ちるアイデアを形にすることに踏み切らせたのも、「この被写体だからできること」への期待と信頼があってこそといえます。

最近は、ラガーフェルドがプロデュースした“皇帝仕様”のコカコーラ・ライトのための広告写真で、“コカコーラを運ぶボーイさん“としてコミカルな面も披露しています。味のある俳優は数あれど、世界中でもてはやされる正統派の美男俳優がいないフランス映画界。バチストは、映画スターへの扉を開く事ができるでしょうか?
□コカコーラのための写真はこちらで見れます。
□動く姿はこんな感じ。写真でのイメージと違います。
http://www.youtube.com/watch?v=aWpIdy_GcgE
GOYAAKOD@ファッション通信NY-PARIS

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