2010年08月19日

2010年夏の読書感想文

『あつい、あつい』 垂石眞子 こどものとも年少版 2008年8月号 (福音館書店)
chaudchaud01.jpg 暑い。暑いです。どうにかしてくれ!という気分をなだめるのにオススメしたいのがこの絵本。動物たちが、大きいのも小さいのも連れ立ってちょっとでも涼しいところをもとめてさまよい、みんな大満足の場所にたどりつきましたとさ、というごくシンプルなお話ですが、それを補ってあまりあるのが、絵のすばらしさ。表紙の、汗みずくのペンギンをご覧あれ。いま暑さにあえいでいるものの心をわしづかみ、です。かんかん照りをひいひいいって歩く姿、ちょっと涼しいところをみつけてどっと弛緩する表情。読んでるこっちも、そのまんま、その通りなんです!だからこそ最後のカタルシスは、胸がすく爽快感。裏表紙の、動物たちの至福の姿が、これまた心地よい。ボサノヴァも、冷えたシャンパンも、いまいち効かなかったあなたに・・・。


『語るに足る、ささやかな人生語るに足る、ささやかな人生』 駒沢敏器 小学館文庫
torunitaru01.jpg ネットにアクセスすれば旅行記にあたる、とまでは言いませんが、色とりどりの写真で飾られた、様々な国での旅の記録をやすやすと見ることができます。しかし、旅した地へのそれなりの関心と旅人へのそれなりの共感がなければ、読み通すことはむずかしい。なるほど、あなたは確かにそこにいたのでしょう。で、それで?という問いかけに、答えを返すことができるものがどれほどあるでしょうか。旅を他人に伝わる言葉にすることは、なまなかなことではないと思うのです。しかし、すぐれた書き手による旅行記は、豊穣なひとときを約束してくれます。
 ふた夏をかけて、スモール・タウンを数珠つなぎ的に巡りアメリカを横断した記録であるこの本は、「旅もの」の棚においておくにはもったいない豊かな一冊です。アメリカ文化へのなみなみならぬ愛情と造形の深さで知られる著者による、地に足の着いたアメリカ論であるとともに、アメリカの片田舎で今を生き考える人々と出会える「場」でもあります(相手に近づきすぎず離れすぎない、作者の絶妙な距離の取り方のなせる技)。短い文章に綴られた町での体験はとても密度が濃く、よくできた短編小説を読んでいるような錯覚すら覚えます。
 アメリカの田舎で著者が見聞きしたことが、2010年夏の日本とすっと結びつくのもおもしろい。一見平和そうな小さな街で数を増している児童虐待、家庭からお母さんの味が失われていく理由、小さなコミュニティの生滅を分けたもの。国境を越えた、他人事ではないリアルがそこにあります。
 この本はまた、ポエティックな文章とは何かを教えてくれます。確実に選んだ言葉をつみあげた簡素な文章なのですが、風景描写ひとつとっても、ダッシュボード越しに目撃しているかのような気分になります。写真にして見せられれば特に感想も出ないような光景なのでしょうが、優れた書き手はその何もなさがどんなものか、読む人の五感に直接伝えることができるのです。
 ここではないどこかを移動するパッセンジャーとしての経験を満喫させてくれる一冊です。この夏は旅と無縁だったとお嘆きのあなたに。アメリカのサブカルチャーにに多少なりとも関心のある向きには、めくるめく一時をお約束します。


『虫と歌 市川春子作品集』 講談社 アフタヌーンコミック
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC) ヒトではないものたちの生と死をめぐる、小さな物語を集めた一冊。文字だけで表現するとがっちりSFなお話ですが、ゆるい線が印象的な浮遊感のある絵が、言葉にするとたじろいでしまうような場面もすんなりと読ませてしまいます。収録されている一編、「日下兄妹」は、そのいい例。甲子園への道を閉ざされたひとりぼっちの高校生の生活に突然出現した、一夏だけの「妹」のお話ですが、見るからにアヤシい人外の「妹」ヒナがだんだん愛らしく見えるようになるのは、まさに絵のおかげ。カラーページは一枚もありませんが、眺めていると「色」を感じます。
 また、絵に織り込まれた、登場人物たちの会話が楽しい。ちょっと浮世離れしているけれど、独特の間合いと言葉のセンスでクセになりそうです。(「日下兄妹」の高校生とチームメイトとのたあいのないやり取りでは、少女マンガの王道コメディのおいしいところがたっぷり味わえます。)何気なさそうでいて、一語たりとも無駄にしていないところに、作者の美意識を感じます。
 一見ばらばらな収録作品の底に流れているのは、小さな世界を生きる登場人物達への思いです。花は咲いた時の姿を選べず、成虫が次の季節まで命をつなぐことができないように、登場人物はみな一方的に与えられた運命や寿命を受け入れ、せいいっぱい生きている。「もののあわれ」という視点ではなく、コドモの頃道ばたの植物や葉の上を動く昆虫へ寄せたまっすぐな共感に通じるところがあるように思います。生が燃え盛る夏の今こそ、読むのにぴったりかもしれません。読み終えた後、カバーイラストの緑の色が、胸に染みます。






GOYAAKOD@ファッション通信NY-PARIS

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posted by cyberbloom at 12:44| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | ファッション通信 NY-PARIS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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