
村上作品のファンであれば、原作はもちろん他の著作もたくさん読んでおられることでしょうが、一方でこれから読もうかなと考えている人も多いかと思います。原作は長編なのでなかなか手が伸びない、という方には短編集『蛍・納屋を焼く・その他の短編』をまずおすすめします。それは、短編集のタイトルにも含まれている『蛍』という短編が、後に長編化されて『ノルウェイの森』となったからです。
『蛍』は『ノルウェイの森』の冒頭部分と物語がほぼ共通しており、『蛍』の登場人物「僕」「彼女」「同居人」は、それぞれ『ノルウェイの森』での「ワタナベ」「直子」および「突撃隊」にあたっています。登場人物に固有名詞が与えられず、シンプルな文章で書かれた短い物語であり、短い作品であるがゆえに「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という一文が全体に大きく響く ー 『蛍』は『ノルウェイの森』のエッセンスを抽出した作品だとも言えるでしょう。
「僕」と「彼女」との静かで物悲しいやり取りをバランスよく中和するように、「僕」と「同居人」とのエピソードが配置されているのもこの短編の魅力のひとつです。映画では「同居人」ー「突撃隊」を演じるのは柄本時生(柄本明の息子さん)で、スチール写真を見る限りではイメージにぴったりです。
exquise@extra ordinary #2

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