トラン・アン・ユン監督は、過去にFBNでも『夏至』と『シクロ』を取り上げたほど、個人的に大好きな映画監督の一人です。『ノルウェイの森』の前に何か一作観るとしたら、今回はあえて『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009)を挙げます。「あえて」と言ったのは、この作品がトラン作品のなかではあまり評判がよろしくないからです。それは物語が観念的、キリスト復活のモチーフがわかりにくい、という理由だけでなく、ハリウッドやアジアの映画スター、さらには木村拓哉まで出演させたという「派手な外見」が「監督らしくない」と思われたからかもしれません。『夏至』が2000年に公開された後、この作品についてのプロットや出演者の情報は早くから発表されていたにもかかわらず、なかなか製作まで至らず、結局公開されたのは9年後でした。そしてその9年の間に、トラン監督は念願の村上春樹氏との会談を果たし、シナリオを練り上げ、『ノルウェイ・・』製作の準備を並行して進めていました。つまりこの2作品は非常に近い時間のなかで製作されたわけですから、『アイ・カム・・』には『ノルウェイ・・』につながる監督の最近の方向性が見られるかもしれません。
『アイ・カム・・』には「現代のキリスト」のイメージとして木村拓哉演じるシタオという青年が登場します。彼は他人の苦痛を吸い取る(それゆえ吸い取った自分はその苦しみに耐えなければならない)特殊な能力の持ち主で、このシタオを見ていたら『ねじまき鳥クロニクル』の登場人物で、ありとあらゆる苦痛に耐えなければならなかった加納クレタという女性を何だか思い出しました。姿を見せない父親の依頼による行方不明の息子(シタオ)を探す探偵、その探偵のトラウマとなっている猟奇的殺人、マフィアの男がふりかざす絶対的な暴力、などこの映画に現れるモチーフはどこか村上作品に出てきそうなものばかりですが、トラン監督は『ノルウェイ・・』を撮影するまで他の村上作品を読まないようにしていたそうだから驚きです。村上氏も、もともとトラン監督の映画が好きだったそうですから、この二人はやはりどこか通底する部分を持っているのでしょう。
exquise@extra ordinary #2
↑クリックお願いします





