2010年11月23日

高校生さえもデモをするフランスの現状と将来

サルコジ大統領の強行突破を契機に年金改革に反対するデモは収束しつつあるとはいえ、昨日22日も5つの組合が依然としてデモを呼びかけていた。今回のデモでは高校生が参加したことが話題になっていたが、それは今に始まったことではない。高校生たちは2006年のCPE(若者雇用促進策「初期雇用契約」)に反対するデモにおいても重要な構成メンバーだった。

仏メディアTF1で「若者を苦悩させる未来」(Cet avenir qui angoisse les jeunes)という特集があった。INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、彼らは親の世代よりも生活水準が悪くなる初めての世代である。セゴレーヌ・ロワイヤルが彼らを煽ったと批判されたが、彼らは政治組織や組合に命令されて声を上げたわけではない。若者のあいだには危機意識が広がり、怒りと不安にかられて叫んでいたのだ。教育費は無料だが、教科書代を払うためにテレビの中の18歳の女子高生は週末にアルバイトをしていると言っていた。

1968年のときのように若者たちは「革命」をスローガンにしていたわけではない。多くを望んでいるわけでもないし、起こっていることに対して幻想を持っていたわけでもない。定年と安全と雇用に関して自分の置かれた不安定な身分について訴えていただけだ。先の女子高生は生き残れるかの問題だと言っていた。

若者の失業率は23%。日本と同じように、学生は既成のルールにしたがい、大学に入り、さらに大学院に上がり、学業を積み重ねても仕事は遠ざかるばかりだ。テレビに映し出されるシューカツの熾烈な光景は日本と同じで、それは中世の騎士の聖杯探しにたとえられていた。つまり果てしのないドラゴンクエストだ。しかし何もやらないわけにはいかない。何の卒業(修了)資格もない場合、失業率は40%に跳ね上がる。

最後に登場した30歳の若者は社会学の博士論文も書き、やることはすべてやったと言う。3年間研修で働き(奴隷のように安くこき使われた)、その後も職を転々としたが、もう仕事に幻想を持つことをやめた。バカバカしいゲームから降りて、マージナルに生きることを決めた。今は週末だけ食料品屋で働き、月600ユーロ(約7万円)稼ぐだけ。残りの膨大な自由時間は小説を書いて過ごしている。フランスでもこうやって社会から退却する若者が出てきている。仕事に就くことの社会的な承認やイニシエーション的意味合いはとっくに失われている。

高校生は学生になったら奨学金か親の援助で生活しなければならないし、その先62歳で年金を満額もらうための十分なお金を払いこめないと知っている。さらに彼らは仕事の世界に入るのが難しくなることを覚悟している。仕事の多くは空きが出ないわけだし、公務員に関しては特にそうだ。公務員の削減は加速する一方だから。それでも年金改革に反対するのは、この改革を見過ごしてしまえば、将来さらにひどいことになり、年金をもらう40年後には彼らの大半が犠牲者になってしまうだろうから。もちろん改革に反対しても決定的な解決にはならない。今のまま年金制度を放置すれば、国家財政に重くのしかかる。しかしそれは国家による分配型年金システムを破壊し、純粋に資本主義的な個人年金のシステムに道を開くものでもある。また失業のリスクが高く、競争が熾烈で、税金の負担が大きくなる世界で、仕事を続けなければならない年数がさらに長くなるのだ。

今や国家の制度の破綻に、先進国の若者が共通して大きな影響を受ける。それは国境を越えた共感やつながりの可能性も示唆している。先日もロンドンで、大学の授業料の上限を3倍に引き上げようとする政府・与党に抗議する学生デモがあり、約5万人が集結した。デモの一部が暴徒化し、政府与党の本部を壊して一時占拠する騒ぎになった。戦後最大といわれるイギリスの歳出削減策では、各省庁の予算を平均で19%カットし、このうち大学教育の支出は40%減らそうとしている。一方で先進各国の若者の反応の違いも対照的だ。「UK students protest, US students apathetic イギリスの学生は抗議し、アメリカの学生は無関心」というアメリカの動画ニュースもあった。「彼らはフーリガンではありません、授業料値上げに反対するイギリスの学生たちです!」という驚きとともにアメリカの人々に紹介している。

グローバリゼーションは世界をひとつのマーケットに統合していく。すでに各地域、各国のマーケットはつながっていて、石油、穀物、工業製品の値段が世界規模のマーケットの中でひとつの価格に収斂していく。それが先進国においてデフレという現象に顕著に現れている。モノの値段が上がらず、賃金が上がらない。企業は利益が上がらず、値下げ競争だけを強いられる。これは貨幣供給量や国内需要の問題ではなく、同じモノや労働力に対する対価、つまり価格や賃金が、基本的に世界の同じ額に収斂していく動きだ。これは中国を初めとする新興国が先進国中心の市場に生産基地として組み込まれた結果であり、先進国共通の問題になっている。つまり自分たちとは関係のない遠い国のことだと思っていた貧困問題が、自分たちの現実に入り込んできたことでもある。企業が資金の余裕を得たとしても、賃金水準の高い日本国内で人を雇い、事業を拡大しようとは思わないだろう。海外の投資に振り向けるだけで、国内の雇用の増加と賃金の上昇には結びつかない。すべてはそういう大きな潮流の中にある。





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posted by cyberbloom at 11:55| パリ 🌁| Comment(0) | TrackBack(2) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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