
(不知火検校)
■今年もいろんな本を読みましたが、ウェルギリウスとかジョイスとか、古典的な書物が大半です。比較的新しい本では、ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』とオルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』が印象的でした。前者はソ連創成期のロシアとソ連崩壊後のロシアを時空を超えて繋げたうえで、そのすべてが妄想=フィクションであることまで見せてしまう、現代小説らしい力業です。後者はポーランドの女性作家による、キノコ的エクリチュールとでも呼ぶべき、中心をもたない不思議な小説。ずっと愛読者だった詩人の長田弘さんと仕事でお話する機会を得たことも、嬉しい思い出として付け加えておきます。
(bird dog)


『天国は水割りの味がする−東京スナック魅酒乱』

■なんだかやる気がなくて、という時に気に入ったお店、まだあまり「訪問」していないお店の頁をめくってました。しんどい時にはいつでもおいでヨ!っていうこの本のスタンスこそ、スナックそのものでしょうか。カットに使われているオトナの漫画家 小島功の『まぼろしママ』がこれまたいい感じ。

『虹色ドロップ』
■昨年紹介した夏石鈴子さんのエッセイ・書評をまとめた本がでました。エッセイを読むと、書き手の生活と意見を通じて良くも悪くも書き手に「触れ」てしまうものですが、いろいろあった日々(かなりな事態が進行してゆくのです!)をさらりとユーモラスに綴る文章から、夏石鈴子という心底気持ちのいい人がくっきりと浮かびあがります。読むといつのまにか気持ちがぐっと明るくなる、元気の出る一冊。
(GOYAAKOD)
『フレンチ・パラドックス』

■一方榊原氏の「フレンチ・パラドックス」は大きな政府で、公費負担が大きいのに(さらにあれだけの大規模なデモやストをやってw)なぜ文化的にも経済的にもうまくいっているのか、という経済上の不思議だ。折りしも米の中間選挙で共和党が躍進したが、我々日本人の「小さな政府」信仰は本当に正しいのだろうかと問うている。「ミスター円」と呼ばれた元財務官の「大きな政府」礼賛論なので、多少は割り引く必要があるのかもしれないが、日本とフランスを比較した興味深いデータや指摘も多い。例えば、国が再分配する前の相対貧困率はフランスが24%、日本は16%。市場段階では仏の方が格差が大きい。しかし日本の所得再分配後の貧困率は13%だが、フランスは6%と半分以下になる。日本は市場ベースで欧州の国々よりも貧困率が低いにも関わらず、再配分後にはアメリカに次ぐ最低の貧困国家になる。経営者や金融機関のトレーダーが莫大な報酬を受け取る一方で、その日の食事にも事欠く人々が数千万人もいる国に追随しているわけだ。
![COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2011年 01月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51iCvVJYO0L._SL160_.jpg)
■社会保障が整備されていない状態で雇用を流動化している日本は、一旦解雇されると裸で放り出されることになり、個人にかかるストレスが非常に大きい。それを見てビビりあがった既得権益者は、既得権益にいっそうしがみつくようになってしまった。それが今の状態で、そうなるとますます変化に対応できなくなる。競争によって効率性を高めるためにも、スムーズな産業転換のためにも社会保障は必要なのだ。フランス社会は低所得者の比率が高く、少し前に森永卓郎氏が言っていた年収300万円時代がとっくに到来している。それでも生活に豊かさが感じられるのは社会保障が充実しているからだ(この豊かさをフランス人の具体的な生活において実証すべく Courrier Japon も特集を組んでいた)。フランスの「やや大きな政府を持ちつつ、子育てと教育に予算を傾斜配分し出生率を高め、国力を伸ばすという戦略」は日本でも可能だと榊原氏は言うのだが。
■榊原氏は今年『日本人はなぜ国際人になれないのか』も上梓。明治以来の翻訳文化が日本人を内向きにしているという議論である。翻訳文化は欧米に追いつけという段階では合理的なシステムだったが、外国に情報発信していくという観点からは弊害になると。
(cyberbloom)

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