2010年12月27日

FRENCH BLOOM NET 年末企画(3) 2010年のベスト本

『意識に直接与えられているものについての試論』
意識に直接与えられているものについての試論 (新訳ベルクソン全集(第1巻))■今年、本当に驚かされた一冊は竹内信夫訳ベルグソン『意識に直接与えられているものについての試論』(白水社)である。何と個人全訳による『新訳ベルグソン全集』の第1巻だそうで、全7巻+別刊1の構成になるとのこと。これから恐らく10年くらいに亘って続々と新訳が刊行されることになるのだろう。竹内氏は東京大学教授を務められたフランス文学者であり、マラルメ研究の泰斗として、長く後進の指導に当たって来られた。と同時に、仏教・インド哲学の研究者としても知られ、空海に関する著書もある。その竹内氏が、今度はベルグソンの個人全訳に挑むというから驚かされない訳には行かない。実は竹内氏は遥か昔からベルグソンを愛読していたそうで、この仕事は彼の集大成になるのかもしれない。まさに彼ならではの翻訳が生み出されて行くと思われ、いまから全集の完成が期待される。
(不知火検校)

■今年もいろんな本を読みましたが、ウェルギリウスとかジョイスとか、古典的な書物が大半です。比較的新しい本では、ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』とオルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』が印象的でした。前者はソ連創成期のロシアとソ連崩壊後のロシアを時空を超えて繋げたうえで、そのすべてが妄想=フィクションであることまで見せてしまう、現代小説らしい力業です。後者はポーランドの女性作家による、キノコ的エクリチュールとでも呼ぶべき、中心をもたない不思議な小説。ずっと愛読者だった詩人の長田弘さんと仕事でお話する機会を得たことも、嬉しい思い出として付け加えておきます。
(bird dog)

チャパーエフと空虚昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

『天国は水割りの味がする−東京スナック魅酒乱』
天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~■今年も様々な本との出会いがあり、至福のひとときも味わいましたが、今年出版された本の中でお世話になったのがこの一冊。One and Onlyな感度で未知の世界への扉を開く都筑氏(広島での企画展もおもしろかった)ですが、今回はスナックです。ミシュランと銘打たれている通り、48軒ものお店が粋なコメント、写真多数で紹介されていて、ガイドブックとしても十分楽しい(会社四季報よりぶ厚いのが難点ですが)。しかし、都筑氏がカウンター越しに聞き出したマスター、ママ達のとわず語り、昔語りがなんとも酔わせてくれます。スナック開店までのいきさつも本当に様々、「波瀾万丈」という滅多に使いたくない四文字言葉がぴったり。(昔はお酒が全然ダメだった、という人が多いのはオドロキでした。)営業している街の変遷・時代の移ろいが透けて見えるのもおもしろい。何より、この商売を選び毎晩店を開けるマスター、ママの「人が好き」なホスピタリティーが通奏低音になっていて、読んでいる方も相づちうちながらなんだか元気になってしまうのです。これも、あくまで「お客さん」の立場で、でしゃばらず聞き役に徹した都筑氏のいい仕事のおかげかと。
■なんだかやる気がなくて、という時に気に入ったお店、まだあまり「訪問」していないお店の頁をめくってました。しんどい時にはいつでもおいでヨ!っていうこの本のスタンスこそ、スナックそのものでしょうか。カットに使われているオトナの漫画家 小島功の『まぼろしママ』がこれまたいい感じ。
虹色ドロップPlus 1
『虹色ドロップ』
■昨年紹介した夏石鈴子さんのエッセイ・書評をまとめた本がでました。エッセイを読むと、書き手の生活と意見を通じて良くも悪くも書き手に「触れ」てしまうものですが、いろいろあった日々(かなりな事態が進行してゆくのです!)をさらりとユーモラスに綴る文章から、夏石鈴子という心底気持ちのいい人がくっきりと浮かびあがります。読むといつのまにか気持ちがぐっと明るくなる、元気の出る一冊。
(GOYAAKOD)

『フレンチ・パラドックス』
フレンチ・パラドックス■今年最も話題になったフランス関連本のひとつに榊原英資の『フレンチ・パラドックス』が挙げられるだろう。「フレンチ・パラドックス」はもともとフランス人が肉や脂肪をたくさんとっている割には肥満が少なく健康的である医学上の不思議のことを言うらしい。この言葉が最近使われたのは2001年にITバブルが弾けたとき、ほとんどその影響を受けなかったフランスを評するために米『フォーチュン』誌が「フレンチ・パラドックス」というタイトルで特集を組んだ。当時のジョスパン首相は「フランスは今や世界経済の機関車になった」と息巻いていた。
■一方榊原氏の「フレンチ・パラドックス」は大きな政府で、公費負担が大きいのに(さらにあれだけの大規模なデモやストをやってw)なぜ文化的にも経済的にもうまくいっているのか、という経済上の不思議だ。折りしも米の中間選挙で共和党が躍進したが、我々日本人の「小さな政府」信仰は本当に正しいのだろうかと問うている。「ミスター円」と呼ばれた元財務官の「大きな政府」礼賛論なので、多少は割り引く必要があるのかもしれないが、日本とフランスを比較した興味深いデータや指摘も多い。例えば、国が再分配する前の相対貧困率はフランスが24%、日本は16%。市場段階では仏の方が格差が大きい。しかし日本の所得再分配後の貧困率は13%だが、フランスは6%と半分以下になる。日本は市場ベースで欧州の国々よりも貧困率が低いにも関わらず、再配分後にはアメリカに次ぐ最低の貧困国家になる。経営者や金融機関のトレーダーが莫大な報酬を受け取る一方で、その日の食事にも事欠く人々が数千万人もいる国に追随しているわけだ。
COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2011年 01月号 [雑誌]■フランスではGDPの3分の1に相当する4000億ユーロの年間売上高が仏の上位50の大企業に集中している。つまり再編で大型化した企業が国の経済を牽引しているわけだが、政府が出資して発言権を確保しているからこそ、男女差別の禁止や産休制度、企業の保険料の大きな負担など、様々な規制がスムーズに実施できた。そういう大企業は国際競争力が弱いのかと思いきや、最近、日本の高速道路の建設や運営に仏建設最大手ブイグ Bouygues や仏高速道会社エジス Egis が進出しようとしているニュースがあったし、すでに千葉県・手賀沼の浄水事業を水メジャー、ヴェオリア Veolia が受注したり(これに対し石原都知事が「フランスごときが」と発言)、「親方トリコール」企業は海外にも強いことが証明されている。
■社会保障が整備されていない状態で雇用を流動化している日本は、一旦解雇されると裸で放り出されることになり、個人にかかるストレスが非常に大きい。それを見てビビりあがった既得権益者は、既得権益にいっそうしがみつくようになってしまった。それが今の状態で、そうなるとますます変化に対応できなくなる。競争によって効率性を高めるためにも、スムーズな産業転換のためにも社会保障は必要なのだ。フランス社会は低所得者の比率が高く、少し前に森永卓郎氏が言っていた年収300万円時代がとっくに到来している。それでも生活に豊かさが感じられるのは社会保障が充実しているからだ(この豊かさをフランス人の具体的な生活において実証すべく Courrier Japon も特集を組んでいた)。フランスの「やや大きな政府を持ちつつ、子育てと教育に予算を傾斜配分し出生率を高め、国力を伸ばすという戦略」は日本でも可能だと榊原氏は言うのだが。
■榊原氏は今年『日本人はなぜ国際人になれないのか』も上梓。明治以来の翻訳文化が日本人を内向きにしているという議論である。翻訳文化は欧米に追いつけという段階では合理的なシステムだったが、外国に情報発信していくという観点からは弊害になると。
(cyberbloom)




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