2011年02月06日

2010年の3冊

流麗な文章で綴られた端正な小説ばかり読んでいると、突然正反対のタイプのものを読みたくなる。2010年はそういう年で、実験的、暴力的、破壊的といった性格の文章を好んで読んでいたように思う。


名もなき孤児たちの墓 (文春文庫)そのきっかけは2009年に初めて読んだ中原昌也の作品だった。ノイズ・ミュージシャンあるいは映画好きとしての彼は前から知っていたが、小説を読んだときはかなりの衝撃を受けた。作品の内容が不条理、というどころかストーリー性を求めること自体に意味がなく、話者が突然変わるなど小説のきまりごとと思い込まされている要素がことごとく無視されているのである。一方で全体が破綻のない冷静な文章で語られていて、そのギャップから生まれる得体の知れぬおかしさがたまらない。昨年文庫化された『名もなき孤児たちの墓』に入っている「点滅…」はついに芥川賞の候補にまでなったのは快挙だと思うが、やはり彼の作品は万人にはおすすめしない。「ワッケわからん。金返せ」とか言われそうだし・・


高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)ジェイン・オースティンは、同じ作品でも新訳が出れば読むようにしているくらい大好きな作家で、なかでも『高慢と偏見』はいちばんのお気に入りなのだが、セス・グレアム=スミスの『高慢と偏見とゾンビ』はその名の通りゾンビもののパロディ小説である(より正確に言うとマッシュアップ小説と言うらしく、オースティンの原文そのものに文章を加える、という手法で書かれたものである(*))。内容も基本的には原作を踏襲して登場人物たちの恋愛を描きながらも、彼らの周囲に出没するゾンビたちに少林拳(!)で立ち向かうという荒唐無稽な内容なのだが、案外違和感なく楽しく読めてしまうのは、原作がもともと持っているアイロニーがうまく活かされているからだろうか。ところどころに散りばめられたお下劣なユーモアも苦笑を誘う。ハリウッドで映画化が決まり、一時はナタリー・ポートマンがエリザベス役との話があったのだが、どうやらこのキャスティングはポシャった様子で残念。

*:マッシュアップとは既存の2作品を組み合わせることだそうなので、厳密に言うとこの表現も当てはまらない。


猫にかまけて (講談社文庫)さて昨年は総じて町田康イヤーだった。それまでは文体が苦手そうで食わず嫌いだったのだが、本屋で『猫にかまけて』なんていうタイトルが目に飛び込んでくると、猫バカの身としては手に取らざるをえない。ひとたび本を開けば、その独特の言葉遣いとリズムの文章に取り込まれて、次々と他の作品も読み進むことになった。『猫に・・』は町田家に暮らす猫との日々を綴ったもので、それぞれ性格が違う猫たちの行動を面白おかしく読んでいたが、一見おどけたようなそれらのエッセイは、実はとても真摯な言葉でもって愛情深く描かれていることが次第にわかってくる。猫バカ本は多数あれど、個人的にベスト3に入るくらい好きになった。この本に出てくるゲンゾー君という猫さんが家の猫を思い出させて、読むのがとても楽しかったのだが、この本の続編『猫のあしあと』を読んだ今では、彼の写真を見るだけで目がうるんでしまう。


今年に入ってからはまた反動でクラシックな小説を好んで読んでいる。只今は夏目漱石を再発見中。芥川賞を受賞した対照的な2人の作品も気になってます。


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