菅首相も1月24日の通常国会冒頭の施政方針演説で、「貿易を自由化したら農業は危うい、そのような二者択一の発想は取らない」と強調している。また過去20年で国内の農業生産が2割減少、若者の農業離れが進んだ点に触れつつ、「商工業と連携し、六次産業化を図る。あるいは農地の集約で大規模化する。こうした取り組みを広げれば、日本でも若い人たちが参加する農業、豊かな農村生活が可能」との認識を示した(2月8日付 Bloomberg 参照)。
農地バンクのニュースは去年の12月22日に読売新聞に掲載されたフランスのフィリップ・フォール Philippe Faure 駐日大使のインタビュー記事「農と言える日本へ…自給率120%仏の経験は?」を思い起こさせた。
フランスは「世界のパンかご」と言われるほど農業大国のイメージが強い。実際、穀物、根菜、畜産などすべての農業部門において世界の上位10位の生産高を誇る。しかし驚くべきことに昔からそうだったわけではない。農業改革が始まった1950年代当時は、自給自足さえできていなかったのだ。そのような状況で最初にフランスが重点的に取り組んだのは農家の規模拡大だった。1955年から2000年のあいだに、農業人口を3分の1に減らし、専業農家1戸当たりの平均農地面積を約70ヘクタールと約7倍に広げた。農家の平均年齢も40代半ばと10歳以上若返った。
その際に大きな役割を果たしたのが、農地売買を仲介する公的機関「農村土地整備公社」(SAFER、サフェール)である。これがフランスにおける「農地バンク」である。売りに出された農地を優先的に購入できる権限を持ち、サフェールが買い上げた農地を、規模拡大の意欲を持つ近隣農家に転売する。このシステムにより農地の大規模化が実現し、宅地や商業地への転用も防ぐことができたのだ。
日本は戸別所得補償制度を導入しているが、「農産物を高値に設定し、農家収入を維持する間接的な支援は好ましくない」とフォール大使は主張する。農家への支援は必要だが、農産物に価格差を付ければ、流通を大きくゆがめてしまう。フランスでは価格決定は市場に任せ、政府が直接農家の所得を補償している。またフランスでは、環境に配慮した農業や有機農業に取り組む農家への補償を重点的に行うなど、政策目標を軸に支援にメリハリを付けている。自国農業を守ることは大事だが、最も効率的な農業を目指すべきだと。
cyberbloom

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