2011年02月22日

『パリ、恋人たちの2日間』(1) ボボとは誰か

パリ、恋人たちの2日間 特別版 [DVD]ジュリー・デルピー監督&主演の『パリ、恋人たちの2日間』を見た。ゴダールに見出され、レオス・カラックスの『汚れた血』で夜のパリを軽やかにかけていた少女も、いい感じで歳を重ねるマダムになった。デルピーは1990年からアメリカに移り住み、ニューヨーク大学で映画作りを学んでいる。この主演&監督作品は、アメリカ人とフランス人が戯画化されて描かれるラブコメディ。男女の信頼関係といった古典的なテーマの反復だが、68年とかグローバル化とか独特の味付けがある。

デルピーによると主人公のふたりは典型的なボボ(ブルジョワ・ボヘミアン)」だという。ところでボボとはどのような人々なのか。デイヴィド・ブルックスの『アメリカ新上流階級 ボボズ―ニューリッチたちの優雅な生き方』が参考になるだろう。

ブルックスによれば、アメリカのボボたちのライフスタイルは「脂肪分ゼロのトールサイズのラテをすすりながら、携帯電話でおしゃべりをする。きちんと整備されたSUVに乗って、ポッタリー・バーン(インテリア・雑貨店 http://www.potterybarn.com/ )へ48ドルのチタン製フライ返しを買いに行く。彼らはブランド店が並ぶ豪華な通りを、最高品質のハイキングブーツで闊歩し、オリーブとウィートグラスのマフィンのために5ドルも払うことをいとわない」ことに象徴されている。これまでのブルジョワはSUVなんて乗らないし、チタン製のフライ返しなどに興味を持たない。ブランド街にハイキングブーツは本来馴染まないはずだ。しかし彼らは成金趣味やブルジョワ的な退屈さやベタさの代わりに、洗練されたモノやスタイルへのこだわり、ダイエット志向やエコロジーをライフスタイルに組み込むのだ。つまり彼らは本来相容れないはずの文化の同居とせめぎあいの中に生きている。

ベースとなるのは1960年代以前のブルジョワ文化と60年代の対抗文化である。これがブルジョワ+ボヘミアン、ボボ ( Bourgeois+Bohemian = Bobo )という言葉の由来である。ボヘミアンは19世紀フランスのロマン主義に端を発しているのだが、60年代の対抗文化を生きた急進派学生は「セックス、ドラッグ、ロックンロール」に象徴されるボヘミアンな自己表現を好んだ。やがて彼らの運動や文化は国家によって抑圧されたように見えたが、その中でも1969年に行われ、多くの若者を動員したロックフェスティバル、ウッドストックの両義性に注目する必要がある。両義性とは反資本主義や反商業主義の主張や身振りが巨大産業になりうることを証明したことである。相反するふたつの力が折り合い、互いを取り込んだのである。ブルックスはボボの典型としてオリバー・ストーンやルー・リードの名前を挙げている。

ボボたちの本質はつまるところ世俗的な成功と内なる美学の両立にある。彼らは成功を求めるが、野心によって魂を枯渇させてはいけないし、物質の奴隷になってはいけないと思っている。彼らは資産を蓄積するが、それはやりたいことに使うためであって、資産に縛られ、意味のない習慣に陥るためではない。経済的な成功を楽しみながらも自由な精神を持った反逆者でありたいし、クリエイティブな自己表現と一緒に大金が入ってくるのが最も理想的な仕事なのだ。新製品のプレゼンの際にはスーツを着ずに、自由な雰囲気でユーザーたちに語りかけるアップルのスティーブ・ジョブズもこのジャンルに入るタイプである。彼は実際60年代にインドを放浪したヒッピーだった。

ジョブズだけでなく、シリコンバレーの新しい技術者たちもボボたちの二面性を共有している。認知科学者、エンジニア、コンピュータ科学者、ビデオゲーム開発者など、彼らの多くはコンピュータやインターネットにかかわる高いスキルを持ち、新しくて独特な「ヴァーチャル階級」を形成している。社長たちは期限付きの契約でこれらのテクノ・インテリゲンチアを雇い、組織する。彼らは良い給料をもらうだけでなく、仕事のペースと仕事の場所に対してかなりの自立性を持っている。この新しい働き方が、ヒッピーと組織人の文化的な区別を曖昧にし、労働のイメージを一変させた。また彼らの仕事のアイデアは遊びの中にこそあり、彼らの生み出す製品やサービスを利用する者たちと同じ目線からのフィードバックが必要なのだ。これもグーグルの社内を思い出してみるといい。

『パリ、恋人たちの2日間』のカップルはインテリアデザイナーとカメラマン。コンピュータとは直接関係ないが、情報化時代の自由な職業であり、イメージや高付加価値を売り物にしていることには変わりはない。マリオンが過去に付き合った男たちも小説家やアーティストで、仕事をしているのか遊んでいるのかわからない、ある意味胡散臭い連中だ。この映画は2007年に公開で、ユーロバブルの絶頂期に撮られていることになるが、芸術という物語の中で戯れ、理想のパートナー探し=自分探しにうつつを抜かせるのも経済的余裕があってこそである。




cyberbloom

人気ブログランキングへ
↑クリックお願いします

FBN25.png
posted by cyberbloom at 12:33| パリ ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
BOBO二題。

1.ルノーRenaudの2006年のアルバムROUGE SANGの一曲目、"LES BOBOS"。これは歌詞(http://www.parolesmania.com/paroles_renaud_9473/paroles_les_bobos_330507.html)がなかなかおもしろい。
PV:http://www.youtube.com/watch?v=Omx94meg8cg

2.福井聡『パリに吹くBoboの風』(2010年、第三書館)。恥ずかしい題の本だが、内容は悪くない。http://www.amazon.co.jp/dp/4807410202/
Posted by MANCHOT AUBERGINE at 2011年02月22日 21:56
MANCHOT さん、情報ありがとうございます。『ボボの風』は気になっていたのですが、買って読むほどのものではないかな、と図書館入り待ちでした(笑)。欧州ボボの旬はユーロバブルの時期かなと思っているのですが、リーマンショック後もがんばっているのでしょうか。
Posted by cyberbloom at 2011年02月22日 22:55
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。