
1991年に発表された MC SOLAAR の1枚目、QUI SEME LE VENT RECOLTE LA TEMPO は、かなりショックな体験だった。それまでヒップホップにはあまり馴染めなかったし、アメリカのパブリック・エナミーくらいしかしなかった。ヒップホップもフランスだとこんなにオシャレになるのかと感心した。他のフランスのハード系のラップを当時あまり知らなかったせいもあったのだが、Nique ta mère(=Fuck your mother )とか、パリを爆弾で破壊するとか、マルセイユは理想の都市だとか、自分は火星からの来訪者だとか歌っていたラップとは一線を画していた。
音もジャズっぽいし、ラップのスタイルがクール(文字通り暑苦しくない)だし、何よりも流れるような韻の踏み方がカッコよかったのだ。5曲目のL'Histoire de l’art のラップを真似ながら、フランス語の滑舌を良くする訓練をしたものだ。特にリフレインをよく口ずさんでいた。
Les salauds salissent Solaar cela me lasse mais laisse les salir Solaar, sur ce salut!
Armand est mort という、失業して、離婚されて、ホームレスになって、喧嘩に巻き込まれ拳銃で撃たれて死んでしまった男の曲があるが、あまりに洗練されていて、まるでマーヴィン・ゲイのように聞こえる(音ネタが使われているのかも)。名曲 Caloline は一時パリ中でかかっていて、あちこちのカフェやブティックで耳にした。ラップの中で女性をドラッグになぞらえているが、Caroline はドラッグそのものという説もある。
Elle était ma drogue, ma dope, ma coke, mon crack, mon amphétamine, Caloline
バンリューの現実を告発したり、警察や権力を攻撃するようなラップの内容よりも、ソラーはむしろ純粋に言葉による表現を志向している。ことわざやクリシェをパロディ化し、シラブルと韻を自在にあやつる高度な技巧は賞賛に値するだろう。それゆえ、ヒップホップの系譜よりも、レオ・フェレ、ジョルジュ・ブラッサンスなど詩人=ミュージシャンの系譜に数えられ、とりわけ「コーヒー色のゲーンズブール」と呼ばれている。このように文学的に洗練されたソラーのラップはインテリにも支持され、ル・モンド紙がアルバムや発言を取り上げたり、高校や大学でソラーのラップが授業の題材になったりしている。
そういうソラーを政治家も放っておかなかった。1994年に国民議会の演説で当時の文化大臣、ジャック・トゥーボンがフランス語の擁護者としてソラーの名を挙げたのは有名だ。移民系のミュージシャンによって、フランス語の顕揚とナショナリズムが担われるというのも皮肉な話だが。演説の一節を最後に引用しよう。
みなさん、MC Solaarをお聞きください。彼以前にはボビー・ラポワントやボリス・ヴィアンがやろうとしていたことを、今度は彼がフランス語でやるのを聴くことになるでしょう!
Qui Seme le Vent Recolte le Tempo
posted with amazlet on 06.09.10
MC Solaar
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フランス語がわからなくても気軽に楽しめます。
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