
昨今の映画界においても最も勢いがあるのは、おそらく中国でしょう。北京五輪に向けて急速に発展しつつある国の内情を反映するがごとく、新しいタイプの作品が次々と生み出され、世界各国の映画祭でノミネートされる数も少なくありません。日本でもおなじみのチャン・イーモウ(代表作:「初恋のきた道」「HERO」「
LOVERS」など)や、チェン・カイコー(代表作:「
さらば、わが愛-覇王別姫」「北京ヴァイオリン」「PROMISE」など)監督らは、「第五世代」と呼ばれ、すでに巨匠の風格が感じられますが、今回ご紹介する「
青の稲妻」(2002)を制作したジャ・ジャンクー(賈樟柯)は、その後の「第六世代」に属する監督です。1970年生まれ、という若さでこれまでに撮影した長編作品はまだ5本であるにもかかわらず、ヨーロッパで非常に高く評価されており、今年のヴェネツィア映画祭では、最新作「三峡好人」が最高賞である金獅子賞を獲得しました。「青の稲妻」は3作目の長編にあたり、2002年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞しています。

ジャ・ジャンクー作品では、激変する中国社会に生きる若者たちがたびたび取り上げられていて、この作品の主人公シャオジイとビンビンもそうです。大同という地方都市に暮らし、北京へのあこがれを抱きつつもやはりこの土地を離れられない二人の顔にはなんと生気がないのでしょうか。職にもつかず行き当たりばったりにその日を暮らす彼らには、未来への期待も希望もあまり感じられません。都市が活気づき豊かになるなかで、「今」をただ生きるしかない若者たちの姿を象徴しているのが、この二人のうつろな眼差しなのです。二人を演ずるのは素人の役者なのですが、彼らを選んだ決め手となったのは、強い印象を与える彼らの目だったと監督はあるインタビューで語っています。
髪型や服装を気にしながら、煙草をひっきりなしに吹かし、ディスコに通ったりバイクを乗り回しては女の子を追っかける・・二人は最新の若者の姿であるといえるでしょうが、彼らの目は外の世界へは全く開かれていません。中国がWTOへ加盟したり、北京がオリンピック開催地に選ばれるというニュースにも無関心、おまけに1ドルの価値すら知らないのです。そのような国と個人のあり方のギャップをこの作品は暗に批判しているようにも見えます。そのためもあってか、ジャ・ジャンクー作品は長い間自国では上映禁止でした。

実はこの作品は北野武監督の映画プロダクションであるオフィス北野がサポートしています。かつてジャ・ジャンクーは「あの夏、いちばん静かな海。」に感動したそうで、彼の作品にも北野作品に通じるクールさが感じられます。一方で、映画終盤にはゴダールの「気狂いピエロ」のラストシーンを思わせる場面があるのですが、その後の展開はあまりにもお粗末で、二人はジャン=ポール・ベルモンド演ずるフェルディナンのようにカッコよく自分の生活にケリをつけることもできません。そのようにクールなまま映画を終わらせないこの若い監督のセンスに、これからも大いに期待したいです。
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posted by exquise at 20:12| パリ |
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