今季のケベック州は2月になってから大雪が続いて、ケベックシティの旧市街周辺も、まだまだ雪国の佇まいだった(写真、上)。前日のボタン雪の嵐が止んで一転、澄み切った青空が広がり、風は冷たいものの、春を思わせる陽光の射す朝を迎え、車に食料を積み込み出発した。1時間あまりの後、アスファルトの高速道を降り、雪解けでぬかるんだ小道を進むと、木立の中に、煙突から蒸気が空に向かって勢いよく上がる緑の屋根、白い壁の建物が現れた(写真、下)。2年前に電気系統の故障から火災にあって、その後に新築されたという、友人の実家の真新しい砂糖小屋である。この辺りのメープルシロップ農家は、毎年1月末から準備を始める。夜は氷点下で、昼の気温が、ようやく0℃を上回る2月下旬に、冬の眠りから覚めたサトウカエデの樹液は、芽吹きに向けて活発になる。そして、昼間の気温が3〜5℃の日が数日続く3月中旬から4月中旬に繁忙期を迎え、5月14日に仕事納めとなる。気温が上昇し、新芽が出てからは、味の良い樹液は採れない。友人の実家では、28000本のサトウカエデから樹液を採取している。自然林で、幹の太さ、高さも様々で、樹齢は150年から200年のものが多い。樹液が取れるまでに約40〜60年かかっている。春の雪解けの頃、成長期に幹に蓄えられた澱粉が酵素の働きによって糖分に変わる。そして、糖分は根元から吸収された水分に溶けて樹液となり、成長エネルギーとして導管内を流れる。それを採取して濃縮したものがメープルシロップである。色や品質によって5段階3等級がある。
サトウカエデは、カナダと合衆国の一部に生育する。昔、この地の先住民であるアメリカインディアンは、サトウカエデの樹液をリスが吸っていたのを見た。さらに、戦闘用の斧でサトウカエデの木を伐った時、樹液がしたたり落ちたので、それを容器に集め、焚き火にかけた鍋で煮詰め、メープルシロップを作った。1534年フランスの探検家ジャック・カルチエがセントローレンス河をたどって上陸以来、フランスの植民地内で先住民とフランス人は毛皮貿易などを通して友好関係を保ちながら暮らしてきた。メープルシロップの製法も先住民から伝えられた。19世紀後半になって道具の改良、牛から馬車へと運搬手段の変化、さらに1970年代初めの技術の大幅な革新によってカナダのメープルシロップ産業は活性化した。しかし、シロップを煮詰めて作る基本の工程は今も同じである。ケベックのフランス系の人々にとっては、まだ雪の残る砂糖小屋に友人親戚が集って、メープルシロップの収穫を祝い楽しむのは早春の風物詩であり、恒例の伝統行事となっている。
Sophie
PROFILE:頭の中で手順を追いながら、料理のレシピ本を読むのが大好き。フランスの料理の単語への興味は、フランス文化から歴史へ。そしてただ今はカナダ東部のフランス植民地時代に心惹かれています。フランス、カナダ(特にケベック)、二つの国を繋ぐ歴史の舞台を訪れるたびに新しい発見があり、写真記録を残しています。フランス語の研修の場としても注目のケベックを少しづつご紹介します。
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