怖い映画は巷にたくさんあれど、私にとって最も恐ろしいのは、デヴィッド・リンチの映画です。「ロスト・ハイウェイ」(1996)みたいに、何者かが自宅を撮影したビデオテープを次々と送りつけてくる・・なんて考えたら、気が遠くなりそうです。長編デビュー作「イレイザー・ヘッド」(1976)に至っては、ビデオで手元にあるものの怖くて手が付けられません。リンチ作品は、わかろうとしてもどうにも理解できない、そのような不条理な恐ろしさが満載です。けれども観終わった後ではまたその不可解な世界をまたかいま見たくなる、というどうにも不思議な魅力をも兼ね備えているのです。今回ご紹介する「マルホランド・ドライブ」(2002)を観た後も、あれこれ考えてしまってなかなか眠れなかったことを覚えています。皆さんもデヴィッド・リンチ監督の仕掛けた美しい迷宮をご覧になってはいかがでしょうか。女優になる夢を抱いてハリウッドにやってきたベティ(ナオミ・ワッツ)は、下宿する叔母のアパートに忍び込んでいたリタ(ローラ・エレナ・ハリング)と出会う。リタは何か事件に巻き込まれたらしいのだが、記憶を失っており、手持ちのバッグには大金と青い鍵が入っている。優しいベティは彼女の足跡をたどろうとする一方で、女優としての才能も開花させる・・
と、ここまでの物語はよくあるサスペンス映画のようですが、後半からナオミ・ワッツはダイアン、ローラ・エレナ・ハリングはカミーラと役名が変わり、雰囲気も一変、ダイアンは恋人であるカミーラに裏切られ、人に頼んでカミーラを殺してしまい、女優としてもパッとすることなく人生にも絶望している状態です。全く違う物語に見えながらも、ベティとダイアンには共通点もあるし、前半の登場人物が名前や性格を変えて再び現れるなど、混乱を招く展開になっています。この前半と後半をどう受け止めればよいのでしょうか。あまり説明すると映画の面白さが半減してしまいますので、いくつかヒントを挙げておきましょう。
1 映画冒頭部にナオミ・ワッツが眠っている場面がある
2 「目覚めよ」というセリフ
3 前半部の物語がベティに都合よく展開する
さらに、前半の登場人物やモノが、後半では違う人物やモノに「置き換え」られているといえば精神分析を少しでもかじった方なら、ははーんと思われることでしょう。そこで再度映画を観直すといろいろと「見えてくる」わけで、「マルホランド・ドライブ」はデヴィッド・リンチ作品のなかでもかなり「わかりやすい」ほうだといえます。
しかし、ひとつの読み方だけではすっぱりと理解できないのが彼の持ち味です。上のヒントをもとにひとつの解釈を試みても、あれこれの要素がぴったりと合わさらず、必ずそこからはみでる部分が出てきて、やっぱり「わけわからん」状況に陥ってしまいます。でもそうやって、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら、個性的な俳優たちやリンチ作品におなじみの小道具が醸し出す怪しげな雰囲気を楽しむのがよいのかもしれません。タイトルになっている「マルホランド・ドライブ」は実在する道の名前で、ハリウッドを一望できる高みにあり、リンチ監督が作品をこの映画の都に捧げていることを暗示しています。それは前半部の2人の女性の名前ベティとリタが、ベティ・デーヴィスとリタ・ヘイワースという往年のハリウッド大女優を思い出させることからも明らかで、映画への情熱に燃えて集まってくる数えきれないほどの人びとが味わう成功と挫折を描いた作品という見方もできます。
デヴィッド・リンチはフランスから愛されているアメリカ人監督でもあります。この「マルホランド・ドライブ」もテレビドラマを想定して制作されたものの、内容の過激さゆえにアメリカの会社から配給を拒まれていたところ、救いの手を差し伸べたのはフランスのテレビ会社 Canal Plus だったのでした(というわけで、厳密に言うと「非・フランス映画」ではないのですが・・)。そうしてできあがった作品は、カンヌ映画祭で監督賞を獲得しました。フランスは近年のリンチ作品制作にも多く関わり、監督はカンヌの常連になっています。
さて、4年のブランクを経て昨年発表された最新作「インランド・エンパイア」はついに日本でも7月公開予定となりました。今回も映画がテーマの作品で、なんと3時間の大作! またしても妖しく美しいリンチ・ワールドに悩まされそうです。
マルホランド・ドライブ
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観終わった時の満足感も疲労感も最高レベル
よく見て!exquise@extra ordinary #2
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