夏の名残の苛烈な日差しもようやくトーンダウンしてきましたが、こんな時期に聞きたくなるのが映画『インディア・ソング』のテーマ。けだるくやるせない中毒性のあるリフレインは、夏と秋にまたがったどっちつかずな雰囲気にぴったりだと思うのですが。言わずと知れたマルグリット・デュラスの代表作であるこの作品でヒロインを演じていたのがデルフィーヌ・セイリグ(1932-1990)。背中が大きく開いたドレスを身にまといダンスに興じる彼女の存在そのものが、演技力といったわかりやすい物差しでは計れない、強烈な印象を残します(銀幕の奇跡、なんて大げさな言葉で讃えたくなるぐらい)。現世との繋がりを感じさせない、この世のものならないムードがこの女優さんにはあります。
事実「謎めいた」という言葉は、セイリグのフィルモグラフィーを読み解くキーワードになります。妖精や吸血鬼など異界の住人にも扮していますし、生身のヒトを演じても不可解であったりする。例えば、サスペンス大作『ジャッカルの日』で演じた上流階級の未亡人。同情されるべき役回りなのですが、暗殺者に利用される女性の哀れさより、承知の上でずるずると危険に巻き込まれてゆくワカラナさ加減のほうが印象に残るのです。
ハリウッドの職人監督としてキラリと光る仕事をし、「監督」クリント・イーストウッドを育てたドン・シーゲルが、自ら製作も務めた映画『ドラブル』(1974)にセイリグをキャスティングしたのも、そんな「謎めいた」魅力に惹かれたからかもしれません。
舞台はロンドン、そしてパリ。マイケル・ケイン扮するイギリス諜報部員が謎の組織に息子を誘拐され、単身捨て身の作戦に打って出る、というお話で、セイリグは主人公を翻弄する組織のメンバーとして登場します。犯罪組織の一味の女、というと色仕掛けでヒーローを陥れようとする衣装も見かけも豪勢な美女を連想しがちですが、彼女が演じるのは年増のボヘミアン風の女。ヴィジュアル的なインパクトはあまりありません。
しかし、いわゆる「危険な香り」とは違うベクトルのきなくささを、この映画のセイリグは濃厚に漂わせています。彼女の演じる女性、シールが属する組織は思想も目的も判然としない謎だらけの存在。それだけでもうさんくさいのに、彼女が組織の一味である理由がわからない。仲間の男に惚れているらしい、とかろうじて臭わされるだけで、本当はきなくさい雰囲気が心底好きだからなんではないかという印象すら与えるのです。セイリグがキャスティングされた理由は、そんな読み解けない役柄故かもしれません。
監督の期待に応えて、セイリグは心の琴線なぞとうに切れてしまった犯罪者を喜々として、魅力的に演じています。誘拐したコドモを哀れむ素振りは一切なく、時に非情ですらあるのですが、「何が彼女をそうさせた?」と考えさせる余地を与えないウラオモテのない清明な悪人ぶりは、清々しささえ感じさせます。
ことに、主人公をハメるべくアジトで偽装工作をするシーンにはぞくぞくさせられます。ファンキーなビートの音楽に載って、真っ白なカシミヤのトレンチ風コート姿で颯爽と登場するプラチナブロンドの悪女が何をするかは見てのお楽しみ!唖然とすること請け合いです!
□『ドラブル』(原題は”The Black Windmill”)
この夏ついにDVDが発売されました。主たる舞台がロンドンという事もあり地味ではありますが、引き締まった小味な娯楽作品です。昨今の大げさな謀略物と違って楽しめる事請け合い。
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