2007年12月16日

フランス文化の死(1) THE DEATH OF FRENCH CULTURE

frenchculture01.jpgフランス文化の死。アメリカの雑誌「タイム」(※2007年12月)によるこのセンセーショナルな記事は、「フランス24」で話題になっていて知った。この手の議論は今に始まったことではないが、かなりの衝撃をフランスにもたらしたようだ。それに対して、アカデミー会員が4日付の「フィガロ紙」で、Non, la culture francaise n'est pas morte!(いや、フランス文化は死んでない!)と題した反論記事を書いている。アカデミー会員が出てきて反論するところなんか、さすがフランスだ。こんな人たちがまだいたのかって感じだが、確かにこういうときに活躍しなければ40人もの終身会員を囲っておく意味がない。

かつての文化大国に仕掛けられるこの手のセンセーショナリズムは昔からよくあるし、「タイム」の記事なんて読むに値しないという人もいるかもしれない。しかし、この記事はよく読むとそれなりにリーズナブルなことも言っている。「タイム」の記事に対しては各紙が反応していて、「ル・モンド紙」にコレージュ・ド・フランスの先生が合衆国の友人たちの忠告にも一理あるので、謙虚に耳を傾けようと書いていたのが印象的だった。

なぜフランス文化は死んだのか。あるいは死んでいるように見えるのか。この議論は今の文化のあり方や国と文化の関係を考える上で非常に興味深い。さらには、それじゃ、フランス文化を死んだと言っているアメリカ文化って何なの?、とか、英語で歌っていて、日本のアニメまで取り込んでいるダフト・パンクってフランス文化って言えるの?っていう問いにつながっていく。今年流行った Justice がフランスのグループだということに誰も気がつかないことにコレージュ・ド・フランスの先生が触れていた。

記事ではフランスが文化保護のために補助金を惜しまないことが問題視されている。今もフランスのそういう政策に対して、何て素晴らしい、さすが伝統的な文化国と賞賛の声が上がり、それに引き換え日本ときたら…、という展開になる。しかし、フランスがそのような政策をとっているにもかかわらず、現在の文化的影響力に関しては日本の方が上なのだ。フランスの文学や芸術に魅了された私たちと同じように、今はフランスの若者が日本のサブカルチャーの虜になっている。文学とマンガを一緒にするなという声も聞えそうだが、フランス文化の危機はハイカルチャー(高級文化)の危機としても考えられる。「タイム」の記事が言うように、フランスが売りにできるものは過去の遺産ばかりで、もちろん保護する価値のあるものだが(一方で、過去の遺産だからこそ、国家的な管理や演出が可能だと言える)、現在、文化的なバイタリティーに満ちているのは明らかに市場原理の世界をしたたかに生き抜くサブカルチャーなのである。

それでは、まず前半部を。これは全訳ではなく、ところどころ適当に端折り、わかりにくい部分は適当に補足している。この記事には「失われた時を求めて In search of lost time 」という副題がついているが、いうまでもなくプルーストの小説のタイトルである。


「失われた時を求めて」

フランス人ほど文化を真面目に考える人々はいない。彼らは寛大にも文化に補助金を出す。フランスのメディアは文化に多くの放送時間を割き、多くのコラムを書く。フランスのファッション雑誌には真面目な書評欄があり、さらに11月5日のゴンクール賞(900以上あるフランスの文学賞のひとつ)の発表は全国ニュースのトップを飾る。どのフランスの町にも年間を通してのオペラ上演や演劇祭があり、ほとんどの教会では週末にオルガンや室内楽のコンサートが開かれる。

しかし、フランスの文化にかげりがみえている。かつて作家や芸術家や音楽家の卓越した素晴らしさによって賞賛されたフランスも今やグローバルな文化市場では力を失っている。サルコジはフランスの復興に乗り出しているが、文化に関しても、彼のできる仕事に着手するだろう。

フランスの新刊本の中でフランス国外で出版されるはわずかしかない。多い年でも10冊にも満たない。一方でフランスで売れるフィクションの約30%は英語から翻訳されている。この数字はドイツと同じだが、ドイツではここ10年で英語からの翻訳が半分に減ったのに対して、フランスでは増え続けている。前世代のフランスの作家、モリエール、ユゴー、バルザック、フロベールからプルースト、サルトル、カミュ、マルローまで、外国での読者を欠かしたことがなく、またフランスの作家はノーベル文学賞の常連で、他の国よりも受賞者が多いが、最後の受賞者は、2000年の高行健(Gao Xingjian中国江西省出身だが、パリ在住でフランス国籍を持つ)で、彼の作品は中国語で書かれている。

一世紀前は世界最大を誇っていたフランスの映画業界も、トリュフォーやゴダールのような監督が映画のルールを塗り替えた1960年代のヌーベル・ヴァーグの輝きを取り戻していない。フランスは今も年間約200の映画を生み出し、ヨーロッパの他のどの国よりも多いが、国内マーケットのための低予算の小作品である。一方、フランスの映画館で売れるチケットの半分はアメリカ映画である。

フランスはドビュッシー、サティ、ラヴェル、ミヨーのような20世紀の巨匠に匹敵する作曲家や指揮者を今は輩出していない。ポピュラー音楽においては、エディト・ピアフのような歌手が世界中で聴かれたこともあったが、ポップシーンを席巻するのはアメリカとイギリスだ。ジョニー・アリディ以外のフランスのポップスターの名前を挙げることがきるだろうか?(ジョニー・アリディは日本の矢沢永吉的存在)

もし、フランスがフランスでなくなってしまったら、だんだんと薄れていくフランスの文化的な輪郭は、イタリアの低出生率やロシアのウオッカ好きのような奇想天外なものになってしまうだろう。フランスでは長い間、文化的な影響力を行使することが国家的な政策だった。その中で論争好きな哲学者たち(おそらくフランスの現代思想の論客のこと)や人目を引く美術館(80年代のルーブル美術館のピラミッドやオルセー美術館、最近ではケ・ブランリー美術館など)がプライドと愛国心の象徴になっていた。

さらにフランスは「文化特例」を主導してきた国だ。フランス政府は外国のエンターテイメント製品を排除し、自国の文化に対しては補助金を与える。フランス政府はこのような文化の保護主義はハリウッドの絶対的な力から文化的な多様性を守るのに不可欠だと信じている。スピルバーグの「ジュラシック・パーク」をフランスのアイデンティティーに対する脅威だと非難し、そして文化特例を2005年のユネスコの合意として正式に認めさせることに成功した。

加えてフランスは同盟国や植民地を同じように文明化するミッションを引き受けてきた。2005年にフランス政府は高校にフランスの植民地主義のポジティブな役割を教えるように通達した。つまり、植民地主義は現地の人々の生活を向上させたというわけだ。この通達はあとで撤回された。サルコジ大統領は最近、「フランスとアメリカは世界を啓蒙するように運命づけられている」と述べた。サルコジはこの運命を実行することに熱心だ。新しい大統領はフランスの経済を補強するだけでなく、倫理的、外交的な地位を高めることを誓った。彼はまたフランスの文化的な活動を今の時代にふさわしいものにし、深化させることを約束している。詳細は明らかではないが、政府はすでに美術館の入場を無料することを提案しており、他の予算は減らしている一方で、文化省の予算を引き上げている。

このような努力が外国の認識を変えるインパクトがあるかは別の問題である。9月にフィガロが1310人のアメリカ人を対象に行った調査では、フランスが文化的に優位にあると考えられる分野は2割だけだった。国内で行った調査も同じ結果であった。多くのフランス人は、フランスとフランスの文化は衰退の一途をたどっていると思っている。衰退の節目となる年を拾ってみると、1940年の屈辱のドイツによる占領、1954年のアルジェリア戦争、そして1968年の5月革命。それはサルコジのような保守主義者が、フランスが教育とふるまいのレベルを下げたカジュアルな世代の影響下に入ってしまったと非難する革命的な年である。

どんな政治的な立場にあるフランス人にとっても「デクリニスム(déclinisme =文化的、地政学的、また経済的にフランスが衰退していることをフランス人が認める傾向を意味する軽蔑的な言い方)」は最近、ホットな話題である。書店では「フランスの衰退」という嘆き節が書かれた本でいっぱいだ。トークショーのゲストもコラムニストも、落ちぶれていくフランスをけなす。フランスのラグビーチームの敗退もそれに結び付けられる。しかし、その多くの嘆きは経済問題であり、サルコジの台頭は彼がその建て直しに専心することを約束したことが大きい。
(続く)

★この記事は2007年12月1日、main blog に掲載されたものです。



cyberbloom

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posted by cyberbloom at 00:26| パリ | Comment(0) | TrackBack(0) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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