DVD発売のおかげで久しぶりに見る事ができた映画『影の軍隊』。圧倒され、沈黙してしまったのはこれまでと同じでしたが、新たな「発見」もありました。女性活動家を演じたシモーヌ・シニョレが何とも魅力的なのです。シニョレが演じたのは、ハイティーンの娘を持つ母親でありながら、家族に知らせずにレジスタンス活動に身を投じた中年女性、マチルド。活動グループの中心的存在として実績を積んできた「驚くべき女性」で仲間からもマダムと呼ばれ一目置かれる存在。しかしその外見はいわゆる女闘士とはほど遠い。細い脚とは対照的な、がっしりと厚みのある上半身。年輪が刻まれた顔。結婚指輪だけが光る、よく働いた手。ソックスを履くような地味で慎ましい服装。無線機を隠した買物用のバッグにカモフラージュのための薪を詰めてアジトを後にする姿は平凡な主婦そのもの。「ジャック・ベッケルの映画”Casque d’or”で匂い立つようなGolden Marieを演じた、あのシニョレもこうなるのか」という感慨がまずあったのは否めません。
しかしそれなりの年月を経て再び接したシニョレについての印象は、あきれるほど大きく変わりました。すっくと立った姿勢。無駄のない所作。年期の入った煙草を吸う仕草。お洒落を感じさせるアイテムはゼロに等しいのに、女性らしさと気品を失わない着こなしの良さ。変装して厚化粧の商売女に化ける短いカットでのあだっぽさ(板についている、という点がマチルドという女性の過去をちょっと連想させもします)。こういっちゃ何ですがいちいちが実に「カッコよい」のです。
そして極め付きは深みのある瞳の表情。もともと大きな瞳の持ち主ですが、相手をじっと見つめる淡い青のまなざしが、口にする事のできない思いを雄弁に語ります。アクターズスタジオ的ないかにもの演技が大嫌いと公言するメルヴィル監督の、抑制されたミニマムな演出の成果とも言えるのかもしれませんが、この瞳なくしてはこの映画の魅力は半減していたといっても過言ではありません。
若いとはいえなくなってからのシニョレの魅力を貫禄、姉御肌と称すひともいますが、個人的にはちょっと違う感じがします。清濁併せ飲む凄みというより、曲折を経てなお残った清々しさとでもいいましょうか。
左翼的な映画人であり続け、アルジェリア戦争への発言で夫イヴ・モンタンと共にフランス芸能界から閉め出され、アメリカでの生活を余儀なくされた時代もありました。モンタンとマリリン・モンローの不倫関係に傷つき自殺未遂を起こした過去も。亡くなるまで保ち続けた「発言する女優」のスタンスも、数カ国語をこなす国際派女優でもあった彼女のキャリアに常にプラスに働いたとは言い難いところがあります。しかしそんなあれこれを「私は私」とくぐり抜けてきた人生の姿勢が、女優シモーヌ・シニョレの魅力をつくる助けとなったのではないか、とも思います。
豊かな金髪を結い上げ「ルーベンスの絵から抜け出たような」はちきれんばかりの女性美を体現していたGolden Marie としてのシニョレは歳月を経て失われました。しかし、時を刻み変容したシニョレでなければ、平穏な人生を捨て敢えて活動を選んだ、きびしさを抱いた中年女性を造形することはできなかった。過去のイメージを遠くはなれて手にした「美しさ」に、この映画を通じてぜひ触れて頂ければと思います。
GOYAAKOD@ファッション通信NY-PARIS
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