映像はモノクロですが、20分弱の番組のために毎回複数のアレンジャーを起用、ストリングスを含むフルオーケストラに、番組専属のバックヴォーカルグループまで抱えた豪華な内容で、BBCの力の入れようが伝わってきます。
そんな期待にダスティは見事に応えます。持ち歌より他人の歌をたくさん歌うという挑戦的な趣向もなんのその。モータウンからシャンソン(例のジャック・ブレルの曲)、ブロードウェイの最新ヒット曲からトラッド、ブロッサム・ディアリーが得意とするようなジャズ小唄まで、いいメロディ、という条件で選ばれた雑多な楽曲を汗もかかず歌いこなしてしまいます。その完成度たるやライブ映像だとはとても思えないほどで、どんな曲も自分のものにして完璧に歌い上げるのだからオドロキ。こういうのを無敵の状態というのでしょうか。
その反面、いわゆるエンターテイナーになりきれないでいるのも興味ぶかい。踊れるでなし、トークも苦手らしく、決められた口上を言うのがせいぜい。観客の万雷の喝采にもどう応えていいのかわからず、手を胸の前で組んで小さく礼をするのがやっと。どうやら大変にシャイな人柄、のようなのです。
しかし、歌となると別人に変身。バラードのストリングスにもアップテンポのビートにもすっと身を委ね、時に奔放に、時に細心の注意を払って声を重ねてゆきます。音楽の一部となる喜び、歌う喜びをここまで率直に「見せて」しまうシンガーは見た事がありません。かといってスターにありがちな自己陶酔はみじんもなく、そんな振舞いを禁じるストイックさすらも漂わせているのです。スターにもエンターテイナーにもなりきれない、しかし音楽に対してだけはどこまでも貪欲に、そして誠実でありたい—そんな真摯な姿勢には、大げさに聞こえるかもしれませんが感動すら覚えます。
翌1968年にはアメリカ深南部へ乗り込み、ホワイト・ソウルの金字塔的アルバム『Dusty In Memphis』を製作。しかし移り気な世の中はまたたくまにダスティを過去の物にしてしまいました。享年59歳、セクシュアリティやドラッグ等の問題のせいで波風の耐えない短い人生でしたが、後に残った音楽は今でも傾聴に値するものです。お気に入りの持ち歌 ”Some of Your lovin’” で「私はよくばりじゃないわ、少しでいいからあなたの愛を分けてちょうだい」と歌ったダスティ。スターとして栄光を手にした時代は決して長くはありませんでしたが、彼女が真摯に追い求め作り上げた音楽は今も輝きを失っていません。
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