セビールさんはその2日前、ディジョンの地方裁判所に対し、これ以上の苦痛には耐えられず、病状も悪化する一方で回復は見込めないとして、主治医に安楽死を許可するよう求めていた。同裁判所は17日、現行法では安楽死は認められていないとする検察側の主張を支持し、この訴えを退けた。判決は「患者の苦痛に同情する」としながらも「自殺ほう助は犯罪と言わざるを得ない」と述べ、バシュロナルカン保健相も地元ラジオで「病状がどうであれ、安楽死は違法だ」と話した。セビールさんは控訴せず、安楽死が合法化されているオランダやベルギーで医師に相談することにしていた。
セビールさんが自ら命を絶った同じ日に、ベルギーの国民的な作家、ユーゴ・クラウス Hugo Claus が安楽死を遂げた。アルツハイマーにかかり、意識が明晰なうちに死にたいと、安楽死を選択したのだった。新聞は彼の死を、「明晰で、決然とした、穏やかな、美しい死 Une mort lucide, décidée, sereine et belle 」と書いた。ベルギーでは安楽死が合法化されており、ユーゴ・クラウスは死の数分前までシャンパンを飲んでいたという。
ユーゴ・クラウスは1929年生まれ。小説はオランダ語で書いていたが、ベルギー全体のアイデンティティーを考え、フランス語圏の人々にも支持されていた。代表作は『ベルギー人の嘆き Le chagrin des Belges 』(下は英訳)。何度もノーベル文学賞候補になったが、結局果たせなかったことになる。
ベルギーの新聞、ル・ソワール Le Soir が「ふたつの人生の終わり、ふたつの倫理観 Deux fins de la vie, deux éthiques 」というタイトルで二人の死を並べて大々的に報じた。セビールさんの死の方は、「Une mort secrète et mystérieuse, entourée de géne et débats 気まずさと論争に取り巻かれた、秘密のミステリアスな死」と評されている。
2月にセビールさんはサルコジ大統領に法改正を求める手紙を送り、またテレビでもインタビューに応え、安楽死の権利を訴えており、フランスで論争を巻き起こした。あるメディアには発病前と後の写真に加え、顔を見ると子どもが怖がって逃げ出すとの本人のコメントが掲載された。先述の Le Soir にも彼女の発病後の写真が大きく掲載されているが、日本ではおそらく自主規制されているのだろう。AFPには発病前の写真だけが載っている。
□「安楽死を求めていた仏女性、自宅で遺体発見」(3月20日、AFP)
□ベルギーの新聞 Le Soir(21 mars 2008)を参照。この新聞はK大学K学部のI先生に見せていただいた。またユーゴ・クラウスに関してもご教授いただいた。
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The sorrow of Belgiumは原題もHet Verdriet van Belgieであり、「ベルギー人」というのは誤訳です。「ベルギー」です。