2008年04月13日

パトリシア・プティボンがやってきた!

Airs Baroques Français パトリシア・プティボン(Patricia Petibon)は、近年高い評価を得ているフランス人ソプラノ歌手である。1970年生まれの彼女は、トゥール大学やパリ国立高等音楽院で学んだあと、ウィリアム・クリスティやニコラウス・アルノンクールの薫陶を受けつつ、バロックオペラを中心とした、メインストリームからはいくぶん離れたレパートリー群で少しずつ評価を高めてきた。ここ数年はヨーロッパ各地の大劇場のオペラ公演に重要な役どころで出演するようになっている。だがこのプティボン、たんに歌や演技がうまいオペラ歌手というのとはわけが違う。実は彼女、かなり規格外のパフォーマーなのだ。

 私は6年前、F2のニュースで彼女を初めて見た。フランスのある地方都市で開催された音楽祭についてのルポの中で、髪を中華風シニョン(いわゆるおだんご頭)に結った、少女めいてはいるが年齢不詳の女性歌手が、安っぽいサングラスをおでこにのせ、亀を模した子供用の浮き輪を首にかけ、ものすごい形相で、しかもどたどたはね回りながら歌っていた(あとからわかったことだが、そのとき彼女が歌っていたのは「プラテー」(ジャン=フィリップ・ラモー)のフォリーのアリアだった)。一度見たら決して忘れられない衝撃的なパフォーマンスで、歌の場面はほんの数十秒だったが、その短い時間に、私はその女性歌手――パトリシア・プティボンの圧倒的な魅力にすっかりまいってしまった。

petibon01.jpg CDを探していろいろ聞いてみると、彼女が思いのほか筋の通った、そしてまた幅広い音楽性を身につけた非常に優れた歌手であることがわかってきた。だが音を聴いているだけでは、最初の衝撃に比べやはりなにか物足りなかったことも事実である。その後、パリのサル・ガヴォーでのリサイタルを収録したDVD「French Touch」(2004)を見るに及んで、私はプティボンの歌手としての実力を、またコメディエンヌとしての並々ならぬ才能を再確認した。いろんな小道具を使い、数々の楽しい演出を施したステージは、クラシックの歌手のリサイタルとしてはずいぶん型破りのものであったが、くすくす笑いとともに、大いなる芸術的感興とカタルシスを私に与えてくれた。

 そのパトリシア・プティボンの初来日公演に行って来た(4月6日、大阪、ザ・シンフォニーホール)。ピアニストとふたりだけの簡素な構成で、DVD「French Touch」に比べれば地味な舞台であったが、それでもステージに様々な小道具・小楽器類を持ち込み、あるときは情感をこめて、あるときは茶目っ気たっぷりに、またあるときはベタなギャグ(それも日本語で!)を披露しつつ、ほんとうに楽しいステージを展開してくれた。コープランドの何曲かや「フィガロの結婚」のアリアなど見どころはたくさんあったが、白眉はやはり、彼女の十八番といっていいアブルケルの「愛してる」とアンコールで歌われた「ホフマン物語」のオランピアのアリアだろう。プティボンの最大の魅力は、天上の聖性と地上の下世話さのあいだを一瞬にして往還する表現の自在さにあると思う。この二曲にはそんな彼女の一番素晴らしい部分が十全に現れていて、鳥肌が立つほどの感動を覚えた。

今度はぜひオペラの舞台に立つ彼女の姿を見てみたいものである。


■プティボンのCDはオペラの全曲盤を含めればかなりの数が出ているが、まず一枚といわれれば、彼女の多様な魅力が堪能できる「フレンチ・タッチ」(国内盤あり)だろうか。また、彼女の出発点を示す「AIRS BAROQUES FRANCAIS」(フランスバロックアリア集。国内盤なし)の明るく親しみやすい世界もすばらしい。

■プティボンの姿を見ることのできる映像作品はさほど多くない。比較的簡単に手にはいるのはジャン=フィリップ・ラモーの「優雅なインドの国々」のDVD(日本国内対応のNTSC盤)。酋長の娘ジマに扮するプティボンの最高にキュートな姿を堪能できる。仏盤DVD(PAL盤)では、上記「French Touch」が絶対のオススメ。ほかにはフロラン・パニー(フランスの超人気男性歌手)のライブDVD「BARYTON」中の数曲で彼女の姿を見ることができる。フレディ・マーキュリーの名曲「Guide me home」をパニーとデュエットしているほか、「キャンディード」(バーンスタイン)の"Glitter and Be Gay"(名演!)やオランピアのアリアをソロで歌っている。彼女が出演している「オルフェオとエウリディーチェ」(グルック)の仏盤DVDも存在するが、現在は品切。

■ちなみにフランスも日本もDVDの地域コードは「2」。したがって仏盤DVDを日本国内で視聴しようとするとき、地域コードがネックになることはない。ただ、仏盤DVDはカラー方式が日本のNTSCとは違うPALなので、国内用の普通のDVDプレイヤでは再生できない(NTSC/PAL両方式対応のプレイヤなら再生可)。パソコンなら、DVD再生環境(DVDドライブ+再生ソフト)が整っていれば、ふつうはPAL盤も再生可(保証は出来ませんが)。



MANCHOT AUBERGINE

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posted by MANCHOT AUBERGINE at 20:32| パリ ☁| Comment(6) | TrackBack(1) | いろんなふらんす―音楽を中心に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちょくちょく拝見しています。
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Posted by サトシ at 2008年04月15日 18:44
パトリシア・プティボン 記者会見映像(4月3日 日仏会館)
http://www.music.co.jp/classicnews/interview/index.html

1)初来日の喜びと抱負。
2)音楽学の勉強から声楽に移行したことやレパートリーの話題。
3)アーノンクールとの出会い。
4)自分の声に関すること。
5)個性的なファッションについて。
6)独唱二曲
 ・ファリャ「ムーア人の衣装」
 ・コープランド「河にて」
Posted by 福田 幸夫 at 2008年04月16日 04:57
サトシさん  コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。MANCHOT AUBERGINE
Posted by MANCHOT AUBERGINE at 2008年04月18日 11:38
福田さん  情報提供ありがとうございます。見ようとしたんですが何らかの支障で動画ファイルが見られませんでした。また試してみます。MANCHOT AUBERGINE
Posted by MANCHOT AUBERGINE at 2008年04月18日 11:40
初めまして♪

今日BSクラシック倶楽部にて、偶然パトリシアプティボンを目にし、魅力的な歌とお洒落でキュートな様子に釘づけになってしまいました。
バロックとモダンなものの融合、フランス歌曲...どれも私のツボで、感激しております。

沢山の情報を有り難うございました。
Posted by 人見珠代 at 2008年06月19日 15:09
人見珠代さん

返事が遅くなり申し訳ありません。コメントありがとうございます。拙稿が多少ともお役に立てたとすれば、喜ばしい限りです。わたしもBSの番組、見ました。プティボンの表情をつぶさに観察することができ、感動を新たにしました。

追加情報を申し上げておきます。
1.プティボンが出演している「カルメル会修道女の対話」のDVDがHMVのカタログに載っております(日・仏のアマゾンでは品切れ扱い)。日本語字幕付・NTSC盤です。http://www.hmv.co.jp/product/detail/140527
2.ご存じかとは思いますが、プティボンはドイツ・グラモフォンと契約をし、今秋アルバムをリリースするそうです。

MANCHOT AUBERGINE

Posted by MANCHOT AUBERGINE at 2008年06月21日 21:51
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BShi放送決定 パトリシア・プティボン リサイタル
Excerpt: BShiにて、2008年 5月26日(月)午前6:00〜午前6:55放送です。 ...
Weblog: Bravo Classic !
Tracked: 2008-05-22 13:51

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