2008年05月15日

STAR GUTAR

Star Guitar/Base 6バカンスのたびにTGVに乗ってあちこち出掛けたお気楽な時代が夢のようだが、高速の車窓の風景も意外と見飽きないものだ。TGVは去年の4月に公式走行試験で574.8km/hを樹立し、世界の高速列車の王者(非浮上式部門)として君臨し続けている。その試験走行の映像にも引き込まれる。徐々に加速し、最後は弾丸のようだ。スピードがあるレベルを超えると窓から見える風景はまるで溶けていくように非人間化していく。さらに飛行機の窓から見える風景は、すでに人間が生きられない世界である。飛行機の速度と外の風景に自分の日常的な感覚や感情を結びつけることができない。離陸と着陸のあいだに決定的な断絶があり、飛行機の速度に身を任せることはタイムマシーンのような体験だ。

TGV 574 km/h 3 avril 2007

ケミカル・ブラザース Chemical Brothers の「スター・ギター」のミュージック・ビデオをMTVで初めて見たとき、静かな衝撃を受けた。見覚えのある風景だと思ったら、TGVの車窓からの風景だった。ただ流れる風景を映しているだけなのに、奇妙に魅入ってしまうのだ。速度と反復が風景をスペイシーな質感に変えていく。工業地帯に立ち並ぶ、宇宙船のような建築物。だから「スター・ギター」なのだ。TGVに乗るときは、ぜひこの曲をipodに入れて行こう。

Chemical Brothers - Star Guitar

このミュージック・ビデオを撮ったのは、マイケル・ゴンドリー Michael Gondry(フランス語だとマイケルはミシェルになる)。ヴェルサイユ生まれで、グローバルに活躍するフランス人のひとりだ。この作品やビヨークの "Human Behaviour" など、斬新なミュージック・ビデオで知られている(最初の仕事はフランスのロックバンド Oui Oui のビデオ)。一方で、映画監督として「恋愛睡眠のすすめ」(exquiseさんがすでに紹介してくれている)なども撮っている。とりわけ今年はレオス・カラックス監督らとオムニバス映画「TOKYO!」に参加し、カンヌ映画祭でも注目されている。また彼は "bullet time" というコンピュータ・シミュレーション技術のパイオニアで、それが「マトリックス」の弾丸を仰け反って避ける有名なシーンに採用された。つまりは速度を操る魔術師というわけだ。

Matrix - bullet time

「スター・ギター」のメイキング・ビデオも面白い。こんなふうにシミュレーションを重ね、計算され尽くしたものなんだ、と素人は驚いてしまうのだが、このビデオは、メンバーが登場して楽器を弾いているわけでもないし、ストーリー仕立てでもないし、「スター・ギター」というタイトルとも関係がない。純粋に曲のパターンを視覚化しているだけだ。TGVの風景は何も意味していない。速度とリズムの理想的な対応物に過ぎない。意味性や参照性をそぎ落とされ、ただ視覚的なものが全面化している。それゆえ、見ていると痴呆的に気持ちが良い。

Chemical Brothers - The Making Of Star Guitar Video

この「スター・ギター」を最近、大沢伸一(Mondo Grosso ではなくソロアルバム)がカバーした。大沢のヴァージョンは、ギターの音を生かしたソリッドでメタリックなバージョン。これもかっこいい。マシンガンのように強迫的なギターを、悪夢のようなイメージの反復でうまく表現している。このヴィジョンも徹底的に脱意味化され、チープの極みにある。ボーカルには、以前「春の音楽」で紹介した Au revoir Simone をフィーチャー。普段はテンションの低いシモーヌの3人の狂おしげな姿も素敵だ。

Shinichi Osawa - Star Guitar




cyberbloom

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posted by cyberbloom at 01:50| パリ ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | サイバーリテラシー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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