
昨年公開された映画のベストテンが各メディアを賑わすなか、フランスのカイエ・デュ・シネマ誌でも発表されました。編集者が選んだ10本を下にご紹介します(日本公開および公開予定のものはタイトルを『 』で表しています)。
1. Les Herbes folles , Alain Resnais (ぼうぼうの草 アラン・レネ)
2. Vincere , Marco Bellochio(ヴィンチェレ(勝利) マルコ・ベロッキオ)
3. Inglourious Basterds , Quentin Tarantino (『イングロリアス・バスターズ』 クエンティン・タランティーノ)
4. Gran Torino , Clint Eastwood (『グラン・トリノ』 クリント・イーストウッド)
5. Singularités d’une jeune fille blonde , Manoel de Oliveira(ある金髪娘の特異性 マノエル・デ・オリヴェイラ)
6. Tetro , de Francis Ford Coppola(テトロ フランシス・フォード・コッポラ)
7. Démineurs , Kathryn Bigelow (『ハート・ロッカー』 キャスリン・ビグロー)
8. Le Roi de l’évasion , Alain Guiraudie(逃走の王 アラン・ギロディ)
9. Tokyo Sonata , Kiyoshi Kurosawa (『トウキョウソナタ』 黒沢清)
10. Hadewijch , Bruno Dumont( Hadewijch ブリュノ・デュモン)
日本各誌のベストテンとはまたずいぶん違っていますね。1位に輝いたアラン・レネ監督作品は昨年のカンヌ映画祭でも好評で特別功労賞を受賞しました。ある女性がバッグを盗まれたことから変化していく人間模様を描いたもので、話だけ聞いているとちょっとコーエン兄弟が撮りそうな内容ですね。
2位のマルコ・ベロッキオもカンヌ出品組で、ムッソリーニ時代のある封印された物語を扱ったもの。3、4位はここでも紹介された映画で、フランスでも人気が高い。5位のマノエル・デ・オリヴェイラ監督は何と御年101歳! しかその精神はまだまだ若く、静かながらも前衛的な作品を次々と発表しています。8位はゲイの独身中年男性が若い娘と結婚してしまうコメディードラマ。10位は狂信的な娘が危険な方向へ進んでいく話・・とバラエティ豊かな作品が挙がりました。嬉しいことに黒沢清監督の作品も9位にランクイン。彼はフランスでは評価が高く、この作品はカンヌでもある視点部門の審査員賞を獲得していました。
またカイエの面白いところは、娯楽性の高い映画もベストテンに入っていること。6位のコッポラ作品はヴィンセント・ギャロ主演(!)のミステリー仕立てのドラマ、7位は爆弾処理班の青年を描いたアクション作品。この『ハート・ロッカー』は今年度のアカデミー賞にも多くの部門でノミネートされていて、日本では3月公開(ちなみに彼女の元夫は『アバター』のジェームズ・キャメロン監督)。
さらに今年は2010年ということもあり、2000年からの10年間ベストテンも発表されました。
1. Mulholland Drive, David Lynch(『マルホランド・ドライブ』 デヴィッド・リンチ)
2. Elephant, Gus Van Sant(『エレファント』 ガス・ヴァン・サント)
3. Tropical Malady, Apichatpong Weerasethakul(トロピカル・マラディー アピチャッポン・ウィーラセタクン)
4. The Host, Bong Joon-ho(『グエムル 漢江の怪物』 ポン・ジュノ)
5. A History of Violence, David Cronenberg(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 デヴィッド・クローネンバーグ)
6. La Graine et le mulet, Abdellatif Kechiche(粒とボラ、アブドゥラティフ・ケシシュ)
7. A l’ouest des rails, Wang Bing(『鉄西区』 王兵(ワン・ビン))
8. La guerre des mondes, Steven Spielberg(『宇宙戦争』 スティーヴン・スピルバーグ)
9. Le Nouveau monde, Terrence Malick(『ニュー・ワールド』 テレンス・マリック)
10. Ten, Abbas Kiarostami(『10話』 アッバス・キアロスタミ)
全体的にカンヌに出品された作品が多いようです。1位、2位は納得の順位。私も大好きな2作品です。3位はタイの作品で、2004年のカンヌ映画祭で審査員特別賞、さらに東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞。中島敦の「山月記」(中国の人虎伝)をモチーフにタイの男性カップルの生活をドキュメンタリーとフィクションが交錯したような独特なスタイルで描いたものだそう。
『グエムル』が4位というのもすごい。ポン・ジュノ監督は新作『母なる証明』もよさそうだし、今韓国で最も注目すべき監督でしょう。8位の『宇宙戦争』や9位の『ニュー・ワールド』も驚きですが、ハリウッドの娯楽作品だからといって妙な偏見も持たないのがカイエのいいところ。一方で中国東北部瀋陽の廃れゆく地域を三部構成で描き出した9時間(!)におよぶ長編ドキュメンタリーである『鉄西区』が7位に選ばれています。
残念ながら日本の作品は入っていませんが、3、4、7、10位はアジア系というのもカイエならではでしょうか。それに対してフランス人による映画は、マグレブ系のアブドゥラティフ・ケシシュ監督の作品(6位)のみ。自国の映画には厳しいのかな・・
exquise@extra ordinary #2

↑クリックお願いします