2011年02月06日

2010年の3冊

流麗な文章で綴られた端正な小説ばかり読んでいると、突然正反対のタイプのものを読みたくなる。2010年はそういう年で、実験的、暴力的、破壊的といった性格の文章を好んで読んでいたように思う。


名もなき孤児たちの墓 (文春文庫)そのきっかけは2009年に初めて読んだ中原昌也の作品だった。ノイズ・ミュージシャンあるいは映画好きとしての彼は前から知っていたが、小説を読んだときはかなりの衝撃を受けた。作品の内容が不条理、というどころかストーリー性を求めること自体に意味がなく、話者が突然変わるなど小説のきまりごとと思い込まされている要素がことごとく無視されているのである。一方で全体が破綻のない冷静な文章で語られていて、そのギャップから生まれる得体の知れぬおかしさがたまらない。昨年文庫化された『名もなき孤児たちの墓』に入っている「点滅…」はついに芥川賞の候補にまでなったのは快挙だと思うが、やはり彼の作品は万人にはおすすめしない。「ワッケわからん。金返せ」とか言われそうだし・・


高慢と偏見とゾンビ(二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)ジェイン・オースティンは、同じ作品でも新訳が出れば読むようにしているくらい大好きな作家で、なかでも『高慢と偏見』はいちばんのお気に入りなのだが、セス・グレアム=スミスの『高慢と偏見とゾンビ』はその名の通りゾンビもののパロディ小説である(より正確に言うとマッシュアップ小説と言うらしく、オースティンの原文そのものに文章を加える、という手法で書かれたものである(*))。内容も基本的には原作を踏襲して登場人物たちの恋愛を描きながらも、彼らの周囲に出没するゾンビたちに少林拳(!)で立ち向かうという荒唐無稽な内容なのだが、案外違和感なく楽しく読めてしまうのは、原作がもともと持っているアイロニーがうまく活かされているからだろうか。ところどころに散りばめられたお下劣なユーモアも苦笑を誘う。ハリウッドで映画化が決まり、一時はナタリー・ポートマンがエリザベス役との話があったのだが、どうやらこのキャスティングはポシャった様子で残念。

*:マッシュアップとは既存の2作品を組み合わせることだそうなので、厳密に言うとこの表現も当てはまらない。


猫にかまけて (講談社文庫)さて昨年は総じて町田康イヤーだった。それまでは文体が苦手そうで食わず嫌いだったのだが、本屋で『猫にかまけて』なんていうタイトルが目に飛び込んでくると、猫バカの身としては手に取らざるをえない。ひとたび本を開けば、その独特の言葉遣いとリズムの文章に取り込まれて、次々と他の作品も読み進むことになった。『猫に・・』は町田家に暮らす猫との日々を綴ったもので、それぞれ性格が違う猫たちの行動を面白おかしく読んでいたが、一見おどけたようなそれらのエッセイは、実はとても真摯な言葉でもって愛情深く描かれていることが次第にわかってくる。猫バカ本は多数あれど、個人的にベスト3に入るくらい好きになった。この本に出てくるゲンゾー君という猫さんが家の猫を思い出させて、読むのがとても楽しかったのだが、この本の続編『猫のあしあと』を読んだ今では、彼の写真を見るだけで目がうるんでしまう。


今年に入ってからはまた反動でクラシックな小説を好んで読んでいる。只今は夏目漱石を再発見中。芥川賞を受賞した対照的な2人の作品も気になってます。


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2011年01月31日

2010年の1本

2月になろうかというこの時期に、今さら去年のベスト作品を挙げるのも恐縮なのですが、どうぞおつきあい下さい。

brightstar.jpg昨年観た映画のなかで最も印象的だったのは、ジェーン・カンピオン監督の『ブライト・スター〜いちばん美しい恋の詩(うた)〜』だった。19世紀の英国の詩人キーツとファニー・ブローンとの恋愛を描いたもので、ともすれば安っぽいメロドラマに陥りそうな要素たっぷりなのに、非常に繊細で美しい作品に仕上がっており、140分という長さを感じさせなかった。2009年のカンヌ映画祭に出品されたときから観たくてたまらなかったが、期待を裏切らない出来だった。

物語の中心を、夭折した青年詩人ではなく、その恋人の女性に据え、彼女が日々行う縫い物を詩人の活動と等しく扱っている点に、女性の複雑な心理描写に長けたカンピオン監督らしさが表れている。そのファニーの縫い上げた衣装がまたすばらしく、完璧といっていいほどのスタイリングで着こなされていた。登場人物の衣装のほか、部屋のインテリアや庭などセットにも隅々まで神経が行き届いていて、どの場面を切り取っても美しい絵になっており、それを背景にファニー役のアビー・コーニッシュの凛とした姿とキーツ役のベン・ウィショーの母性本能をくすぐるルックスが映える。この映画には大きな白黒猫が出てきて場をなごませているのだが、パルム・ドッグならぬパルム・キャットがあったなら、ぜひこの猫さんにあげたい。


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2010年12月07日

音楽で観るフィギュアスケート 2010-2011 The Up-And-Comers!

またまたこの投稿を書く季節がやってきました。オリンピックが終わって、今シーズンはトップ選手が引退したり競技に出なかったりするなか、若いスケーターたちが試合に次々登場しています。なかでも男子シングルはショートプログラムから4回転ジャンプを取り入れる積極的な選手が増えて活気があります。今回は、ショートプログラムで印象的な音楽を使用している若手の男子選手を何人かご紹介しましょう。


Moanin' by Art Blakey, Drum Thunder Suite by Art Blakey - Kevin REYNOLDS (CAN)

reynolds.jpgピノッキオみたいな少年だったカナダのレイノルズ選手も身長がぐんと伸びて大人っぽくなり、アート・ブレイキーの渋いジャズも似合うようになりました。彼は今季4回転ジャンプをショートで2回、フリーで3回入れるという驚異的なプログラムを予定しています。ジャンプが全部決まったら、技術点はすごいことになりそう・・ もちろんこのショートはジャンプだけでなく、彼の長い手足とジャズの雰囲気を活かした振付けも楽しめるプログラムです。昨季はカナダ選手権で3位に終わり、残念ながら地元バンクーバーのオリンピックに出場することができませんでしたが、今季はカナダの2番手に上がってきそうな勢いです。

Kevin REYNOLDS's 2010 short program


Selection of music by Pink Floyd- Artur GACHINSKI (RUS)

gachinski.jpgプルシェンコ以降の選手が伸び悩んでいるロシアにとって、今季のニース杯、フィンランディア杯で立て続けに優勝したアルトゥール・ガチンスキー選手は希望の星だといえるでしょう。弱冠10歳で3回転アクセルを飛んだ彼は、幼い頃から周囲の注目を集めていましたが、今季本格的にシニアの競技会にも出場してきました。ショートプログラムで使われているのはピンク・フロイドの曲を編集したもので、キャッシャー?の音で曲が始まりその音で終わるという、ちょっと変わった構成の音楽です。その独特の音楽に負けず劣らず自己主張の強い彼のスケーティングには、すでに王者のプライドが感じられます。名前も強そう・・

Artur GACHINSKI's 2010 short program


Histoire d'un amour, Nu Pogodi (Russian cartoon soundtrack) - Javier FERNANDEZ (ESP)

fernandez.jpg珍しくスペインから頭角を現してきたハビエル・フェルナンデス選手。バンクーバーでもすでにその表情豊かな演技が観客に人気でした。今季のショートプログラムでは高橋大輔選手と同じ曲を使っていますが、アプローチが全く違って面白い。彼は「ヌ・パガヂー」というロシアのアニメのキャラクター(ちなみに彼のコーチはロシアのニコライ・モロゾフ)になりきって踊っていて、このハデハデな衣装もそのアニメからの引用らしいです。コミカルなポーズやステップが満載のこのプログラムで、今季も会場から大きな歓声を浴びています。高橋選手の色男路線も音楽をうまく活かしたプログラムですが、こちらも一見の価値ありです。

Javier FERNANDEZ's 2010 short program


White Legend by Petr Tchaikovski, arranged by Ikuko Kawai - Yuzuru HANYU (JPN)

hanyu.jpg今季ジュニアからシニアへと上がってきた羽生結弦選手。普段は穏やかな16歳の少年ですが、ひとたびリンクに上がり川井郁子さんの艶やかなヴァイオリンにのせて滑り出すと、表情が一変してまるで歌舞伎の女形のような妖しさです。けれども彼の長所はそのルックスだけではなく、4回転ジャンプもプログラムに取り入れる実力の高さと度胸の良さ。手足が長く顔が小さい、そしてこの演技力と技術力ですから、現時点では次のオリンピックへの最有力候補のひとりといってもいいでしょう。ちなみにこの曲にぴったりな彼のロマンティックな衣装はあのジョニー・ウィアー選手がデザインしたもの。そのうち彼は「和製ジョニー・ウィアー」とか「氷上の玉三郎」とか呼ばれちゃうのだろうか・・

Yuzuru HANYU's 2010 short program


Primavera Porteno by Astor Piazzolla - Denis TEN (KAZ)

ten.jpgバンクーバー・オリンピックで11位に入り、注目されたカザフスタンのデニス・テン選手。今季はフランク・キャロルに師事し、練習拠点をロシアからアメリカへ移しました。アストル・ピアソラのタンゴを使ったこのショートプログラムは、ステファン・ランビエールが振付けしたものです。今季はジャンプに精彩を欠き、競技会では苦戦していますが、それでもプログラム後半のステップに見られる彼の熱いパッションは、ピアソラのバンドネオンの音にぴったりで、やはり観るに値するものだと思います。ぜひ世界選手権にも出場して、より完成度の高いプログラムを披露してもらいたいですね・・

Denis TEN's 2010 short program


amodio.jpgBroken by Lisa Gerard, Apologize by Taio Cruz, Imma Be by Black Eyed Peas, Don't Stop Til' You Get Enough by Michael Jackson - Florent AMODIO (FRA)

昨季のフランス選手権で第一人者のブライアン・ジュベール選手を抑えて優勝し、オリンピックでは12位、世界選手権では15位の成績を収めたフローラン・アモディオ選手。今季のグランプリシリーズでは NHK杯で3位、フランス大会で2位となり、グランプリファイナルへ駒を進めました。マイケル・ジャクソンの曲も取り入れたこのプログラムでは、めまぐるしく変化するスケートで私たちの視線を釘付け。そのアピール度の高い演技は、かつて日本でも人気だったフィリップ・キャンデローロ選手を彷彿とさせます。ただしエンターテインメント性の高い振付けだけでなく、ジャンプもきっちり飛んでくるのが彼の強み。それにしてもフランスには次から次へと個性的な選手が登場してきますね。

Florent AMODIO's 2010 free skating


北京で行われるグランプリファイナルにはアモディオ選手が出場します。日本の3選手ともども活躍を期待しましょう。


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2010年11月28日

『ノルウェイの森』を観る前に(4)

アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン 通常版 [DVD]トラン・アン・ユン監督は、過去にFBNでも『夏至』と『シクロ』を取り上げたほど、個人的に大好きな映画監督の一人です。『ノルウェイの森』の前に何か一作観るとしたら、今回はあえて『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009)を挙げます。「あえて」と言ったのは、この作品がトラン作品のなかではあまり評判がよろしくないからです。それは物語が観念的、キリスト復活のモチーフがわかりにくい、という理由だけでなく、ハリウッドやアジアの映画スター、さらには木村拓哉まで出演させたという「派手な外見」が「監督らしくない」と思われたからかもしれません。

『夏至』が2000年に公開された後、この作品についてのプロットや出演者の情報は早くから発表されていたにもかかわらず、なかなか製作まで至らず、結局公開されたのは9年後でした。そしてその9年の間に、トラン監督は念願の村上春樹氏との会談を果たし、シナリオを練り上げ、『ノルウェイ・・』製作の準備を並行して進めていました。つまりこの2作品は非常に近い時間のなかで製作されたわけですから、『アイ・カム・・』には『ノルウェイ・・』につながる監督の最近の方向性が見られるかもしれません。

『アイ・カム・・』には「現代のキリスト」のイメージとして木村拓哉演じるシタオという青年が登場します。彼は他人の苦痛を吸い取る(それゆえ吸い取った自分はその苦しみに耐えなければならない)特殊な能力の持ち主で、このシタオを見ていたら『ねじまき鳥クロニクル』の登場人物で、ありとあらゆる苦痛に耐えなければならなかった加納クレタという女性を何だか思い出しました。姿を見せない父親の依頼による行方不明の息子(シタオ)を探す探偵、その探偵のトラウマとなっている猟奇的殺人、マフィアの男がふりかざす絶対的な暴力、などこの映画に現れるモチーフはどこか村上作品に出てきそうなものばかりですが、トラン監督は『ノルウェイ・・』を撮影するまで他の村上作品を読まないようにしていたそうだから驚きです。村上氏も、もともとトラン監督の映画が好きだったそうですから、この二人はやはりどこか通底する部分を持っているのでしょう。

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2010年11月25日

『ノルウェイの森』を観る前に(3)

花様年華 [DVD]トラン・アン・ユン監督の作品にかかせないのが、えも言われぬその映像美。『ノルウェイの森』についても、スチール写真を見るだけで、ため息が出るくらいです。今回撮影監督を務めたのは台湾出身のリー・ピンビン。トラン監督とは『夏至』(2000年)以来、2度目のタッグです。『夏至』で表現された、濡れたような透明感あふれる映像は、作品の内容と絶妙にマッチしていましたが、今回でもその手腕を存分に発揮しているようです。

リー・ピンビンは主にホウ・シャオシェンなどアジアの監督と組んですばらしい仕事を続けてきました。日本の作品でも、三島由紀夫原作、行定勲監督の『春の雪』や、是枝裕和監督の『空気人形』などに参加し、やはりはっとするような美しい映像を残しています。どの作品の撮影も捨てがたいのですが、一作挙げるとすれば、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華(かようねんか)』でしょうか。

ともに伴侶がいる男女の秘めた恋愛を描いたこの作品では、暗めの渋い色調の映像が展開され、日本版ポスターに使われた写真からもわかるように、特に赤い色が印象的です。マギー・チャンとトニー・レオンという美男美女のカップルをバックで彩るこの赤い色は、控えめではあるけれども深く濃厚な色合いで、大人同士の許されぬ恋の官能性を強調しているかのようです。

ウォン・カーウァイの美意識に応えた完成度の高いこの映像の効果もあってか、この作品はフランスでも一大ブームとなりました。マギー・チャンの着こなす美しいチャイナ・ドレスもすばらしく、まさに目の保養となる映画です。

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2010年11月18日

『ノルウェイの森』を観る前に(2)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]『ノルウェイの森』の音楽を、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが手がけると聞いたとき、大げさですが「奇跡」が起きたように感じました。レディオヘッドのフロント・マン、トム・ヨークは村上作品のファンだそうだし、村上氏も『海辺のカフカ』で主人公のカフカ少年が聴いている音楽として挙げるくらいレディオヘッドを愛好しているようだし、トラン・アン・ユン監督もこれまでの作品のサントラにレディオヘッドの曲を使っているし、三者は相思相愛状態なのはわかっていたのですが、まさか映画作品の音楽全体を本当にバンドメンバーが担当するとは思ってもみませんでした。何でもジョニー・グリーンウッドは最初にオファーを受けたとき断っていたらしいですから・・。

そういう夢のサントラが実現したのは、ジョニー・グリーンウッドが過去に音楽を提供した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の存在があったからなのは確実でしょう。彼が初めて音楽を手がけたこのメジャーな映画作品は、ポール・トーマス・アンダーソンという一癖も二癖もある監督によるもので、油田に取り付かれた強欲な男と、彼に土地を奪われた狂信的な牧師の青年との確執が描かれたものです。映画の重苦しさに負けぬほど、緊張感に満ち、不安をかきたてるジョニーの抽象的な音楽は、ロック・ミュージシャンが映画のサントラを担当したものでも、今までに聴いたことのないような非常に特異な音で、物語ともども深く印象に残りました。158分という長さで、内容的にも鑑賞にエネルギーを要する映画ですが、見応えは十分ですので、音楽ともどもじっくり味わってみてはいかがでしょうか。

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2010年11月17日

『ノルウェイの森』を観る前に(1)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)村上春樹原作、トラン・アン・ユン監督による『ノルウェイの森』がいよいよ12月11日に公開されることになり、各メディアでも頻繁に取り上げられるようになってきました。原作で、監督で、出演俳優で、などいろいろな理由で公開を楽しみに待っておられる方も多いことでしょう。ワクワクしながら待つ時間をもっと楽しんでもらえたらと、この映画に関連するいくつかの作品を集めてみました。

村上作品のファンであれば、原作はもちろん他の著作もたくさん読んでおられることでしょうが、一方でこれから読もうかなと考えている人も多いかと思います。原作は長編なのでなかなか手が伸びない、という方には短編集『蛍・納屋を焼く・その他の短編』をまずおすすめします。それは、短編集のタイトルにも含まれている『蛍』という短編が、後に長編化されて『ノルウェイの森』となったからです。

『蛍』は『ノルウェイの森』の冒頭部分と物語がほぼ共通しており、『蛍』の登場人物「僕」「彼女」「同居人」は、それぞれ『ノルウェイの森』での「ワタナベ」「直子」および「突撃隊」にあたっています。登場人物に固有名詞が与えられず、シンプルな文章で書かれた短い物語であり、短い作品であるがゆえに「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という一文が全体に大きく響く ー 『蛍』は『ノルウェイの森』のエッセンスを抽出した作品だとも言えるでしょう。

「僕」と「彼女」との静かで物悲しいやり取りをバランスよく中和するように、「僕」と「同居人」とのエピソードが配置されているのもこの短編の魅力のひとつです。映画では「同居人」ー「突撃隊」を演じるのは柄本時生(柄本明の息子さん)で、スチール写真を見る限りではイメージにぴったりです。


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2010年06月19日

雨の日に聴きたい3曲

5月用の音楽を考えていたら、いつの間にか月が変わり梅雨に入ってしまいました。もともと初夏の爽やかな気候に合うように選んだ曲なのですが、このうっとうしい季節に気分をスカッとさせる効果もあるかなと思ってここにご紹介します。軽快なリズムやメロディーが楽しめる3曲です。

Alzo & Udine "Rain (de Rain)"カモン・アンド・ジョイン・アス

日本で企画されたソフト・ロックやフォーク・ロック系のコンピレーションアルバムに、この2人組の曲がちょこちょこ入っていて、いつも聴くたびにその歯切れのよいサウンドと美しいコーラスを清々しく感じていました。そのなかにあったこの曲は、軽やかなギターとパーカッションをバックに、Rain, rain, go away...というフレーズが繰り返され、まさに今の季節にぴったり。60年代後半に作られた曲ですが、今聴いても古さを感じないフレッシュな曲です。

Alzo & Udine "Rain (de Rain)"


Aztec Camera "Oblivious"ハイ・ランド、ハード・レイン

アズテック・カメラは、80年代初頭ごろからUK音楽シーンに登場してきたネオ・アコースティック(略してネオアコ)と呼ばれる流れを代表するグループで、日本でもフリッパーズ・ギターを初め、多くのアコースティック・ポップ系のバンドに影響を与えた存在です。グループの中心人物であった当時19歳のロディ・フレイムは、美しいルックスと甘やかな声だけでなく、優れたソングライティングの才能の持ち主で、彼がほとんどすべての作詞作曲アレンジを手がけたこのファーストアルバムは、ネオアコの名盤として語り継がれています。そのデビューアルバムの1曲目に入っているこの曲はまさに青春、という感じの若々しいギターの音が弾ける、瑞々しくポップな曲で、いつ聴いても晴れやかで楽しい気分にさせられます。

Aztec Camera "Oblivious"


Pizzicato Five "Homesick Blues"女王陛下のピチカート・ファイヴ


ピチカート・ファイヴといえば、小西康晴を中心に80年代後半から90年代の日本の音楽シーンで活躍し、欧米でも知名度の高かったグループ(cyberbloomさんもお気に入りですね)。約15年の活動期間中に何人かヴォーカルが変わったのですが、私が好きなのは2代目の田島貴男が在籍していた80年代終わり頃です。「架空のスパイ映画のサウンドトラック」をコンセプトに制作された89年の作品『女王陛下のピチカート・ファイヴ』には、「夜をぶっとばせ」など名曲ぞろいのアルバムで、なかでもサイモン&ガーファンクルを多分に意識した、この「ホームシック・ブルース」は今でもよく聴いています。タイトルとはイメージが異なり、フェンダー・ギターの音が心地よく流れるなか、まだ20代前半の田島貴男のちょっと艶っぽくて乾いた声が響く爽やかな曲で、「6時半のバスで〜」とついつい口ずさんでしまう魅力的な歌です。

Pizzicato Five "Homesick Blues"(Youtubeで見当たらなかったので、こちらで試聴してみてください)





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2010年05月26日

カンヌ映画祭結果発表

cannes101.jpg23日、第63回カンヌ映画祭の各賞が発表されました。下馬評ではマイク・リー監督の Another Year(アナザー・イヤー)、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の Biutiful (ビューティフル)、グザヴィエ・ボーヴォワ監督の Des Hommes et Des Dieux(人間たちと神々)、マチュー・アマルリック監督の Tournée (巡業)などの人気が高かったのですが、受賞結果にはちょっとしたサプライズがありました。


カメラ・ドール(新人監督賞):Ano Bisiesto (Année Bissextile)(うるう年/ Michael Rowe)

最優秀脚本賞:イ・チャンドン(作品:Poetry(詩))

審査員賞: Un Homme Qui Crie(叫ぶ男/Mahamat-Saleh Haroun)
        
最優秀監督賞:マチュー・アマルリック(作品:Tournée(巡業))

最優秀男優賞 : ハビエル・バルデム(作品:Biutiful(ビューティフル) /アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)
エリオ・ジェルマーノ(作品:La Nostra Vita/ダニエレ・ルケッティ)

最優秀女優賞:ジュリエット・ビノシュ(作品:Copie Conforme (サーティファイド・コピー)/アッバス・キアロスタミ)

グラン・プリ:Des Hommes et Des Dieux (人間たちと神々/グザヴィエ・ボーヴォワ)

uncleboonmee.jpgパルム・ドール:Lung Boonmee Raluek Chat (Oncle Boonmee celui qui se souveint de ses vies antérieures)(前世を呼び出せるブーンミーおじさん/アピチャッポン・ウィーラセタクン)


『ブーンミーおじさん』は一部のプレスで絶賛されていたものの、パルム・ドール受賞はかなり意外だったようです。しかし、ティム・バートンが後に「この映画は私が見たこともない、ファンタジーの要素があり、それは美しく、奇妙な夢を見ているようだった」と語っているように、審査委員長の好みにはピッタリだったのではないでしょうか。主人公の前に死んだ妻や弟が幽霊の形、それも弟は類人猿となって現れる独創的な内容の映画にさすがのバートン監督も魅了されたようです。


タイ初のパルム・ドールという快挙を成し得たウィーラセタクン監督(タイの政情不安で来仏できるかどうか危ぶまれていましたが、当日会場ににこやかに登場)はこれまでもカンヌで高い評価を得ていました。しかし、以前審査員賞を受賞した『トロピカル・マラディー』は東京フィルメックスでも最優秀賞を穫ったにもかかわらず、いまだ日本で一般公開されていないとはどういうことなんだ! 今回のパルム・ドール受賞を機に、何らかの形で観られることを切に望みます。


cannes102.jpg最優秀男優賞と女優賞は実力派の俳優たちが受賞しました。ジュリエット・ビノシュは感謝と喜びの言葉を述べるとともに、今回イランで拘束されており、審査員で参加するはずだったジャファル・パナヒ監督のネームプレートを手に彼の解放を祈りました。一方ハビエル・バルデムは同席していた恋人のペネロペ・クルスに感謝のキスを送り、会場はこの美しいカップルにやんやと喝采を送りました。




cannes103.jpg場内がいちばん湧いたのはマチュー・アマルリックが監督賞を受賞したときでしょう。4本目(初監督作品ではありませんでした・・すみません)の作品での受賞です。「ショーの世界へのラブレター」と評されたこの作品の華やかさは壇上で彼を囲む出演女優たちを見ればわかりますね。今回は彼を含めてフランスの作品や映画人が多くの賞を獲得しました。


このところ政治的または社会的な主張があったり、アクの強い作品が各賞を受賞していたカンヌですが、今回は全体的に物静かな映画が多く選ばれたようです。監督賞の『人間たちと神々』も宗教を扱った作品ですが、大げさな演出はなく、あくまでも静かなタッチで描かれているようです。物議をかもした Hors La Loi や、イラク問題を扱い、ショーン・ペン、ナオミ・ワッツが出演したダグ・リーマン監督のFair Game(フェアー・ゲーム)といった一種「派手な」作品、そして名匠ケン・ローチやマイク・リーの作品も受賞を逃しました。


また注目を集めた北野武監督の『アウトレイジ』はその露骨な暴力描写のためか、「カイエ・デュ・シネマ」など一部のメディアには好評でしたがプレス全体の評価は芳しくありませんでした。審査員の面々を考えると今回賞に選ばれるのは厳しかったかもしれません。しかし多くのメディアに注目され、公式上映ではスタンディング・オベーションも起こるなど、フランスでの人気は相変わらず高く、監督自身も「コンペティションに選んでもらえただけで嬉しい」とカンヌへ参加した喜びを素直に語っていました。


palmdog2010.jpg最後に恒例のパルム・ドッグ賞はスティーヴン・フリアーズ監督の Tamara Drewe(タマラ・ドリュー)に出演したボクサー犬の Boss に、さらに審査員賞が監督週間に上映されたイタリアのMichelangelo Frammartino監督の Le Quattro Volte に出演したVuk (山羊飼いの犬:写真)に授与されました。Vuk君可愛いな〜。


その他注目作品についてはまた後ほど。


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2010年05月15日

カンヌ映画祭開幕

cannes10affiche.jpg第63回カンヌ映画祭が12日に開幕しました。今年コンペティションの審査委員長をつとめるのは、新作『アリス・イン・ワンダーランド』が日本でも好調なティム・バートン監督(左下の写真の左から4人目、写真をクリックして拡大してご覧下さい)です。開会式にはバートン監督を初めとする審査員の面々と、オープニングを飾ったオリヴァー・ストーン監督の『ロビン・フッド』に出演したラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット(今は亡きアレクサンダー・マックイーンのオリエンタルな雰囲気のドレスでレッドカーペットを歩く彼女は本当に美しかった!)などが登場して華やかな雰囲気に包まれました。




cannes10jury.jpg今年のコンペの審査員はその他ケイト・ベッキンセール、ベニチオ・デル・トロといった俳優陣の名も見られますが、個人的に注目したいのはスペインのヴィクトル・エリセ監督(左の写真右端)です。『ミツバチのささやき』『エル・スール』といった美しい作品を世に出しながら、あまりにも寡作であるためなかなかメディアに登場しない彼が、こういう形で姿を現してくれただけでも嬉しい。しかしいつも以上に今年は審査員に統一感が見られないので審査結果の予想がまったくつきません(笑)。このほか短編映画部門ではカナダのアトム・エゴヤン監督、「ある視点」部門ではフランスのクレール・ドゥニ監督が審査委員長に選ばれています。


さて、今回のコンペについて日本で最も話題になっているのは何といっても北野武監督の『アウトレイジ』が選ばれたことでしょう。北野監督というと、ベネチア映画祭の常連というイメージが強いですが、11年前に『菊次郎の夏』を出品したほか、第60回を記念して製作されたオムニバス映画『それぞれのシネマ』にも参加しています。久々のバイオレンスもの(それもかなり徹底した形で描かれているもよう)で、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和といった個性的なキャストも気になるところ。


hommesetdieux.jpgコンペにはその他アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、マイク・リー、アッバス・キアロスタミ、ダグ・リーマン、ニキータ・ミハルコフなど有名監督の作品が数々登場しています。またフランスからの作品も多く選ばれているのも特徴的です。フランス勢で気になるのはグザヴィエ・ボーヴォワ Xavier Beauvois 監督の Des Hommes et Des Dieux(人間たちと神たち)。90年代、アルジェリアのとある修道院で平和に暮らすキリスト教とイスラム教修道士たちの物語で、スチール写真の美しさに惹かれました。また俳優のマチュー・アマルリックのおそらく初?監督作品 Tournée (巡業)。ストリッパーのチームをアメリカから引き連れてフランスを巡業してまわる男の話で、アマルリックは脚本も担当したうえ、主演もしています。俳優ではその個性が印象的な彼がどんな映画を作ったのか早く観てみたいですね。


今回はアジアからの参加作品も多く、北野監督のほか、韓国のイ・チャンドン、イム・サンス監督、中国のワン・シャオシュアイ監督、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が出品しています。ウィーラセタクン監督はインスタレーションや写真などアート作品も手がける映像作家で、かつてカンヌの審査員賞を受賞した『トロピカル・マラディー』は、「カイエ・デュ・シネマ」誌の2000年以降のトップ10にも選ばれていましたね。今回のLUNG BOONMEE RALUEK CHAT(ブーンミーおじさんは過ぎ去った命を呼び戻す)でも余命僅かの男性のもとに死んだはずの妻と失踪した息子の幽霊が現れる話だそうで、斬新な映像が期待できそうです。


chatroom.jpg「ある視点」部門は、大御所ジャン=リュック・ゴダールやマノエル・デ・オリヴェイラ監督から、カンヌの常連ジャ・ジャンクー、そして若手にいたるまで世界各国からヴァラエティに富んだ内容の作品が集められました。そのなかには日本の中田秀夫監督の作品も選ばれていますが、今回彼はイギリスからの出品。Chatroom(チャットルーム)と題されたこの映画は、アイルランドの作家 Enda Walsh の脚本によるインターネットをテーマにしたホラー作品だそうで、アーロン・ジョンソンをはじめイギリスの俳優が出演。スチール写真からすでにそそられます。


受賞式は23日。結果発表およびその他気になる作品をまたそのときにご報告します。


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2010年02月12日

カイエ・デュ・シネマのトップテン 2009年度編

cahier652.jpg昨年公開された映画のベストテンが各メディアを賑わすなか、フランスのカイエ・デュ・シネマ誌でも発表されました。編集者が選んだ10本を下にご紹介します(日本公開および公開予定のものはタイトルを『 』で表しています)。






herbesfolles.jpg


1. Les Herbes folles , Alain Resnais (ぼうぼうの草 アラン・レネ)
2. Vincere , Marco Bellochio(ヴィンチェレ(勝利) マルコ・ベロッキオ)
3. Inglourious Basterds , Quentin Tarantino (『イングロリアス・バスターズ』 クエンティン・タランティーノ)
4. Gran Torino , Clint Eastwood (『グラン・トリノ』 クリント・イーストウッド)
5. Singularités d’une jeune fille blonde , Manoel de Oliveira(ある金髪娘の特異性 マノエル・デ・オリヴェイラ)
6. Tetro , de Francis Ford Coppola(テトロ フランシス・フォード・コッポラ)
7. Démineurs , Kathryn Bigelow (『ハート・ロッカー』 キャスリン・ビグロー)
8. Le Roi de l’évasion , Alain Guiraudie(逃走の王 アラン・ギロディ)
9. Tokyo Sonata , Kiyoshi Kurosawa (『トウキョウソナタ』 黒沢清)
10. Hadewijch , Bruno Dumont( Hadewijch ブリュノ・デュモン)


日本各誌のベストテンとはまたずいぶん違っていますね。1位に輝いたアラン・レネ監督作品は昨年のカンヌ映画祭でも好評で特別功労賞を受賞しました。ある女性がバッグを盗まれたことから変化していく人間模様を描いたもので、話だけ聞いているとちょっとコーエン兄弟が撮りそうな内容ですね。

2位のマルコ・ベロッキオもカンヌ出品組で、ムッソリーニ時代のある封印された物語を扱ったもの。3、4位はここでも紹介された映画で、フランスでも人気が高い。5位のマノエル・デ・オリヴェイラ監督は何と御年101歳! しかその精神はまだまだ若く、静かながらも前衛的な作品を次々と発表しています。8位はゲイの独身中年男性が若い娘と結婚してしまうコメディードラマ。10位は狂信的な娘が危険な方向へ進んでいく話・・とバラエティ豊かな作品が挙がりました。嬉しいことに黒沢清監督の作品も9位にランクイン。彼はフランスでは評価が高く、この作品はカンヌでもある視点部門の審査員賞を獲得していました。

またカイエの面白いところは、娯楽性の高い映画もベストテンに入っていること。6位のコッポラ作品はヴィンセント・ギャロ主演(!)のミステリー仕立てのドラマ、7位は爆弾処理班の青年を描いたアクション作品。この『ハート・ロッカー』は今年度のアカデミー賞にも多くの部門でノミネートされていて、日本では3月公開(ちなみに彼女の元夫は『アバター』のジェームズ・キャメロン監督)。


さらに今年は2010年ということもあり、2000年からの10年間ベストテンも発表されました。

mulholland.jpg


1. Mulholland Drive, David Lynch(『マルホランド・ドライブ』 デヴィッド・リンチ)
2. Elephant, Gus Van Sant(『エレファント』 ガス・ヴァン・サント)
3. Tropical Malady, Apichatpong Weerasethakul(トロピカル・マラディー アピチャッポン・ウィーラセタクン)
4. The Host, Bong Joon-ho(『グエムル 漢江の怪物』 ポン・ジュノ)
5. A History of Violence, David Cronenberg(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 デヴィッド・クローネンバーグ)
6. La Graine et le mulet, Abdellatif Kechiche(粒とボラ、アブドゥラティフ・ケシシュ)
7. A l’ouest des rails, Wang Bing(『鉄西区』 王兵(ワン・ビン))
8. La guerre des mondes, Steven Spielberg(『宇宙戦争』 スティーヴン・スピルバーグ)
9. Le Nouveau monde, Terrence Malick(『ニュー・ワールド』 テレンス・マリック)
10. Ten, Abbas Kiarostami(『10話』 アッバス・キアロスタミ)

全体的にカンヌに出品された作品が多いようです。1位、2位は納得の順位。私も大好きな2作品です。3位はタイの作品で、2004年のカンヌ映画祭で審査員特別賞、さらに東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞。中島敦の「山月記」(中国の人虎伝)をモチーフにタイの男性カップルの生活をドキュメンタリーとフィクションが交錯したような独特なスタイルで描いたものだそう。

『グエムル』が4位というのもすごい。ポン・ジュノ監督は新作『母なる証明』もよさそうだし、今韓国で最も注目すべき監督でしょう。8位の『宇宙戦争』や9位の『ニュー・ワールド』も驚きですが、ハリウッドの娯楽作品だからといって妙な偏見も持たないのがカイエのいいところ。一方で中国東北部瀋陽の廃れゆく地域を三部構成で描き出した9時間(!)におよぶ長編ドキュメンタリーである『鉄西区』が7位に選ばれています。

残念ながら日本の作品は入っていませんが、3、4、7、10位はアジア系というのもカイエならではでしょうか。それに対してフランス人による映画は、マグレブ系のアブドゥラティフ・ケシシュ監督の作品(6位)のみ。自国の映画には厳しいのかな・・


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2010年02月10日

音楽で観るフィギュアスケート バンクーバー五輪男子シングル編

前回の女子編に引き続き、バンクーバー・オリンピックに出場する男子フィギュアスケーターのなかから、音楽とプログラムが印象的な選手何人かをご紹介します。

A Day in the Life by The Beatles - Jeremy ABBOTT (USA)

Jeremy.jpg全米選手権2連覇で見事初のオリンピック代表となったジェレミー・アボット選手。もともと彼は音楽表現に優れていて、毎年素敵なプログラムを披露してきましたが、ビートルズの人気曲を使ったこのプログラムは、今シーズンのベスト・ショートプログラムだと思います。特に曲調が変わる部分から始まる2種類のステップシークエンスを滑り切ってスピンへ移行し、最後のあの「ジャ〜ン」という音で終わるまでの盛り上げ方が素晴らしい。彼は毎年雰囲気が変わるのだけれど、去年のロマンティックな王子様風から今年は爽やかな好青年風へと変わったのもこの曲に合わせてのことでしょうか。シーズン後半にかけてジャンプも安定してきたので、オリンピックではメダル争いに加わってきそうです。ちなみにコーチは日本人の佐藤有香さんです。

Jeremy ABBOTT Short Program




Wish Me Well by Willi Dixon, Memphis Slim / Whammer Jammer by The J. Geils Band - Samuel CONTESTI (ITA)

samuel.jpgもともとフランスの選手でしたが、トリノオリンピック出場をめぐるいざこざからイタリアへ移住し、そこから急に頭角を現してついにイタリア代表にまで上り詰めたサミュエル・コンテスティ選手。コーチと振付けは奥様だそうで、まさに愛の力が実を結んだのでしょう。彼はいつもユニークなプログラムで会場を沸かせてくれますが、今回もカントリー風の出で立ちでブルース音楽をバックに、エキシビションのような楽しい演技を披露してくれます(アンデスの音楽を使ったフリーも個性的)。豊かな表情に加えてダイナミックなジャンプも魅力で、観客を味方につけるのがうまい選手です。


Samuel CONTESTI Short Program





Go Chango by Les Baxter / Harlem Nocturne by Earle Hagen and Dick Rogers /Topsy by Eddie Durham - Vaughn CHIPEUR (CAN)

vaughn.jpgカナダ選手権で2位に入り、オリンピック出場を果たしたヴォーン・チッパー選手(名字の表記にちょっと迷いましたが、選手権では「チッパー」または「チップール」と聞こえるアナウンスがされていました)。すごい速さで滑ってきては豪快なジャンプを飛び、168センチの身長がひとまわりもふたまわりも大きく見えるダイナミックな演技をする選手です。彼のようなガッチリ体型のパワフルスケーターは今の男子選手ではあまり見られないので、ジャンプを決めてグイグイ押してくれば逆に目立つ存在となるでしょう。荒削りな部分も見られ、繊細さには欠けるかもしれないけれど、今季の「ハーレム・ノクターン」といったムーディーなジャズ音楽を使ったプログラムでは彼のよさがうまく活かされています。

Vaughn CHIPEUR Free Program




Teardrop by Massive Attack / Insane in the Brain by Cypress Hill / Smack my bitch up by Prodigy - Adrian SCHULTHEISS (SWE)

adrian.jpgスウェーデン代表となったアドリアン・シュルタイス選手は、金髪のソフト・モヒカンと口ピアス姿でシニアの大会に登場してきたときから、ちょっと気になる選手でした。外見も個性的ながら、プログラムに使う曲も他の選手とは少々異なっています。今季のフリーでは、マッシヴ・アタックといったエレクトロニカやヒップホップ系の音楽を組み合わせたものを使用していて、特にエンディングに聞こえるクレイジーな笑い声が印象的。彼自身もこういう曲が好みのようで、クラシックや映画のサントラを使ったプログラムよりもこういう音で滑っているときのほうが生き生きとして見えます。ルックスと比べると、演技はまだ薄味、という感じなんですが、これからも自分のキャラクター色を押し出したプログラムを期待しています。

Adrian SCHULTHEISS Free Program




La Strada (soundtrack) by Nino Rota - Daisuke TAKAHASHI (JPN)

daisuke.jpg怪我による1年のブランクを経て高橋大輔選手がこのフリープログラムを滑ったとき、全身からスケートができる喜びがあふれているように見えて、思わず目頭が熱くなってしまいました。以前は自ら語っていたように「エロカッコいい」路線だったので、イタリアのフェデリコ・フェリーニ監督の名作「道」のサントラを選んだのは少々意外でしたが、彼のコミックな一面が新たに開拓されていて、演技者としてさらに深みが増したように思います。映画の内容に沿うように、大道芸人のパントマイムを織り込んだこのプログラムは、ちょっと物悲しく、でもしみじみとあたたかいニーノ・ロータの音楽にしっくりマッチしていて、何回見ても大好きなフリー演技です。あとは4回転ジャンプが決まってくれたら・・

Daisuke TAKAHASHI Free Program




実力が伯仲している男子シングルですが、前回のメダリスト、プルシェンコ選手とランビエール選手も参戦してますます状況が混沌としてきました。個人的にはアボット選手と高橋選手にメダルをあげたいんですが、こればかりはどうにもなりません。せめて実力を出しきって悔いのないオリンピックにしてもらいたいですね。


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2010年02月07日

音楽で観るフィギュアスケート バンクーバー五輪女子シングル編

いよいよカナダのバンクーバーで冬季オリンピックが開幕します。楽しみな競技はいろいろありますが、やはり皆の関心を集めるのはフィギュアスケート。メディアでは連日有力選手が特集されていますし、ジャンプなどの技術の紹介もよく見かけますので、ここではまた音楽という観点から選手をご紹介したいと思います。五輪シーズンということもあり、今季はフィギュアで定番のクラシック音楽や、有名な映画のサントラを用いる選手が多いなか、個性的な音楽や、自分のキャラクターに合った曲を使っているスケーター何人かに注目してみましょう。


Pirates of the Caribbean - Dead Man's Chest (soundtrack) by Hans Zimmer / Fragile Dreams by Joe Hisaishi / He's a Pirate (from Pirates of the Caribbean) by Klaus Badelt and Hans Zimmer - Mirai NAGASU (USA)

mirai2.jpgアメリカ代表は10代の若い2選手に決まりましたが、その1人長洲未来(ながすみらい)選手はご両親が日本人ということもあり、私たちにも親近感がわく選手。「パイレーツ・オブ・カリビアン」のあのおなじみのメロディーに合わせて、屈託のない笑顔でのびのびと滑る彼女を観ていると、こちらも元気がわいてきます。ここ1、2年で身長が急激に伸びたために、昨年はジャンプに体を合わすのに苦労していたようでしたが、今季はそれも調整し、スラリと長い手足を逆に武器にしていよいよ実力を発揮してきました。美しいスパイラルや軸のぶれないスピンにぜひご注目ください。


Mirai NAGASU Short Program




Fever by Davenport - Elene GEDEVANISHVILI (GEO)

elene.jpg4年前のトリノ・オリンピックで、ショートプログラムで次々とジャンプを決め、フリー演技の最終滑走グループに残ったエレーネ・ゲデバニシビリ選手。当時はあまり知名度はなかったものの、その愛くるしいルックスが記憶に残った人も多かったはず。今回もグルジア代表で出場です。プログラムには明るくてかつ色っぽい感じの曲がよく使われていて、彼女の溌剌とした演技や健康的なセクシーさにぴったりです。最近はジャンプに失敗が多いので最終成績が今ひとつなのですが、決まってくれば上位をおびやかす存在になるでしょう。


Elene GEDEVANISHVILI Short Program





Air by Bach / Cello Concerto by Antonio Vivaldi - Carolina KOSTNER (ITA)

carolina.jpgスケート技術で常に高い評価を得ているイタリアのカロリーナ・コストナー選手。びっくりするほどのスピード感と女の子らしい振付けが魅力的なスケーターです(コスチュームもいつも素敵)。彼女はいつもその可憐な雰囲気に合うクラシック曲を選ぶことが多いのですが、今季のフリープログラムではバッハの「G線上のアリア」とヴィヴァルディのチェロ・コンチェルトを選びました。ゆったりしたストリングスをバックにすると、逆に彼女のスピードがより感じられるようです。彼女もジャンプに苦しみ、イタリア代表になれるかすらも危ぶまれる状況でしたが、1月の欧州選手権で優勝してようやく代表に決まりました。この上がり調子のままでオリンピックに臨んでほしいです。


Carolina KOSTNER Free Program




Adios Nonino performed by Gary Burton / Fuga y Misterio performed by Gary Burton - Laura LEPISTÖ (FIN)

laura.jpg以前、 「秋の音楽」でご紹介したアストル・ピアソラの「アディオス・ノニーノ」をプログラムに使っていたのは、フィンランド代表のラウラ・レピスト選手でした。お人形のようなノーブルな顔立ちの彼女がタンゴのメロディーに合わせて演技しているといつも見とれてしまいます。赤い衣装の彼女が踏むキビキビとしたステップや、急速に回転するスピンは、真っ白い氷に実によく映えます。彼女も一昨年の欧州チャンピオンですので、最終滑走グループでこのフリー演技を観られる可能性は大いにあるでしょう。


Laura LEPISTÖ Free Program




Prelude No. 3 op. 2 ("Bells of Moscow") by Sergei Rachmaninov - Mao ASADA (JPN)


mao.jpgショパンの名曲でニンフのように軽やかに滑っていた浅田真央選手が、今季このラフマニノフの曲を選択したとき、果たしてこの「重々しさ」を彼女が表現しきれるのだろうかと不安でした。昨季から彼女は同じ旋律が繰り返される、悪く言えば「一本調子の」曲をフリープログラムに使用しているのですが、それは「動ー静ー動」といったわかりやすい構成の曲を敢えて避け、微妙な音の変化をいかに演技で表現するかという挑戦でもあると思うのです。オリンピック・シーズンであっても、今の状態に甘んぜず、常に新しいことに果敢に挑む彼女の姿勢には本当に感服させられます。その成果がバンクーバーで遺憾なく発揮されますように。
いつもトリプル・アクセルばかりがクローズアップされていますが、このプログラムでは最後のストレートライン・ステップがすばらしい。彼女がすごい速さでクルクルと旋回する姿を観ていると、自然とトゥルビヨン(tourbillon つむじ風)という単語が頭に浮かんできます。


Mao ASADA Free Program




女子シングルでは、今季圧倒的な強さを見せる韓国のキム・ヨナ選手や地元カナダのジョアニー・ロシェット選手などが有力視されていますが、ここでご紹介した選手たちも、持っている力を十分に出せばメダル争いに加わってくることでしょう。皆のすばらしい演技を期待しています。

次回は男子シングル編をお届けします!


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2010年02月04日

2009年の3点(映画編)

昨年の年末企画のエントリー期間に間に合わず、2月に入ってようやく2009年度のベスト映画の発表です。何を今さら、と思われるかもしれませんが、どうぞおつきあいください。例年通り、去年何らかの形で発表されたもののなかからベスト3を選びました。


第1位
クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』

inglorious.jpg第1章の冒頭から、スケールの大きな映像が目前に迫ってきて、何が次に起こるんだろうと自然とワクワクさせられる・・ ぽつりと建つ家の横で洗濯物を干したり、薪を切ったりする人々や、その家から草原へ駆け出していく少女をとらえた場面を見ていると、舞台はフランスであってもこの作品が西部劇へのオマージュであることがしみじみとわかってくる。

マカロニ・ウェスタンのリメイクと聞いていたが、こんなにヒネリのあるリメイクだとは思わなかったし、戦争映画という体裁をとっていても、いたるところに「映画」への言及が散りばめられていて、やはりこの作品は「映画のための映画」なんだなあと思う。タランティーノという監督はこの媒体が本来持っている魅力をじゅうぶんに知っていて、近年の作品では私たちにも存分にそれを味わわせてくれている。『デス・プルーフ』ほどのはじけっぷりはなかったものの、長丁場を感じさせない楽しい作品だった。

もちろん、この面白さは、黒カナリアさんも指摘していたように、クリストフ・ヴァルツの怪演に寄るところも大きい。カンヌ映画祭で男優賞を獲得したのも納得の、ブラピがかすんでしまう存在感だった。アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされたし、ぜひオスカーも穫ってもらいたい。


第2位
ジム・ジャームッシュ『リミッツ・オブ・コントロール』

limits2.jpg待望のジャームッシュの新作は、ロードムーヴィーというおなじみのスタイルでありながら、これまでになく抽象的で難解な作品であり、ファンの間でも好き嫌いが分かれたようである。事実、ネット上に載せられたいくつかの感想を見ても、あまり好ましいものがなかったし、一緒に観に行った家人ですら横の席で何度かウトウトしていたほどである。

私は『デッドマン』やジャームッシュ作品で最も好きな『ゴースト・ドッグ』、果てはデビュー作『パーマネント・バケーション』を思い出させる雰囲気と、非常にスタイリッシュな空間を背景に、クールなスーツを着こなして黙々と歩く殺し屋の姿に魅せられて、退屈することはなかった。ラストに現れるメッセージが示すように、想像力は何の制限も、何の制御も課せられるべきものではなく、「映画でできないことは何もない」ということを体現したかのような作品だった。

アレックス・デスカス、ビル・マーレイそして工藤夕貴など、これまでのジャームッシュ作品に出演してきた俳優たちが次々と登場してくるのも嬉しいが、今回はブリジット・バルドーへのオマージュと思われる謎の女性、パス・デ・ラ・ウエルタが大変印象的だった。


第3位
クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』

gran-torino12.jpg80歳を過ぎてさらに活動が加速化しているイーストウッド監督、次から次へと映画を撮影しているが、それがどれも一定のレベルを保っているのがすごい。投稿させてもらった『チェンジリング』もよかったが、現代のアメリカが抱える諸問題をこんなにもさりげなく取り込み、無理に力むことなく軽やかに描ききったこの作品は、今まで観た彼の作品のなかでもベスト3に入る(アメリカでは2008年公開なのだが、なんでこの映画が昨年のオスカー候補になっていないのか??)。あんな結末を迎えたにもかかわらず、観終わった後は実にすがすがしい気分だった。とくに今回は脚本が秀逸で、会話の場面の多くが記憶に残っている(なかでも床屋のシーンはどれもよい)。

憎まれ口ばかり叩いて終始渋面の俳優イーストウッドもよいが、何といってもこの映画ではモン族の姉弟を演じた二人の少年少女たちが光る。映画に負けず劣らず若々しくのびのびとした演技だった。


今回はすべてアメリカ映画になりました。昨年は、ほかにも惜しくもここに入らなかったけれども、mandolineさんの選んだ『ラースと、その彼女』や『ベンジャミン・バトン』などアメリカ映画に面白いものが多かったです。今年はフランスやヨーロッパものをもっと観たい。まずはペドロ・アルモドバル監督の『抱擁のかけら』を観に行きます!


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2009年11月17日

秋に聴きたい3曲 Musique pour l'automne 2009

11月に入ってようやく秋らしくなってきました。この季節になるとなぜかしんみりとした音楽が聴きたくなります。cyberbloom さんはスペーシーな音を聴かれるそうですが、私はしんみりした音を選ぶことが多いです(我ながら単純すぎ・・・スペーシーな音は冬になると俄然聴きたくなります)。最近耳にして「秋」を感じた曲を3曲ご紹介します。

Nick Drake - At the Chime of the City Clock

Bryter Layterすばらしい才能を持ちながらも、世間にほとんど認められぬまま短い生涯を終えた不遇のシンガーソングライター、ニック・ドレイク。彼の死後、多くのミュージシャンたちに再発見され、残された3枚のアルバムは今ではどれも高い評価を確立しています。元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケールも参加したセカンド・アルバム「ブライター・レイター Bryter Layter 」は、3枚中最もポップと言われる作品で、70年代の作品とは思えないような現代的なアレンジがされています。繊細でメランコリックな旋律とニックのはかなげなヴォーカルが融合した美しいブリティッシュ・フォークの名曲は、この季節になるとじっくり聴き込みたくなります。

At the Chime of the City Clock


Astor Piazzolla - Adios Nonino

Adios Noninoフィギュアスケートのシーズンが始まり、例のごとく各競技会を観ているのですが、タンゴをプログラムに使っている選手が何人もいて、そのなかでも「アディオス・ノニーノ」の使い方がとても印象的でした。アルゼンチン・タンゴに革命を起こしたと言われるアストル・ピアソラの代表作で、「ノニーノ」とは彼の父親の愛称です。巡業中に訃報に接し、旅費もなく故郷に帰ることのできなかったピアソラが、遠く離れたニューヨークで亡き父に捧げて作ったのがこの曲で、バンドネオンの音色がことさら哀愁を帯びて聞こえます。ピアソラのモダンタンゴの名曲の数々は、秋から冬にかけての風景にしっくりはまります。

Adios Nonino


Chet Baker - Born to be Blue

チェット・ベイカー・シングス学生時代、行きつけのレコード屋さんに、手始めにジャズを聴くなら何がいいかと尋ねたら、ちょうどその当時 LP が再発されたばかりの「チェット・ベイカー・シングス Chet Baker Sings 」を薦められました。チェット・ベイカーはトランペッターですが、ヴォーカリストとしても人気があり、その気怠くて色気のあるヴォーカルを初めて聴いたとき、まだまだ未熟者だった私はその大人びた空気に圧倒されたのを記憶しています。このアルバムに収められた、どこが「ファニー」なのかすら分からなくなっているほど暗い「 マイ・ファニー・ヴァレンタイン My Funny Valentine 」もいいのですが、その後ジャズ好きな友人に、「すっごいカッコいいんだ〜」と薦められた「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」は、タイトルもずばりだし、陰のある彼の声が最も魅力的に聞こえる曲だと思います。この曲は Baby Breeze というアルバムに収録されています。

Born to be Blue



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2009年09月10日

My Favourite Beatles

ラバー・ソウル80年代のUKロックシーンにどっぷり浸かっていた10代の頃、ビートルズは初期のアイドル時代のイメージと耳に馴染みすぎる名曲の数々が古臭く思えて自分から聴きたいと思うことはなかった(今となれば80年代の方がはるかに安っぽくて古臭く見える)。それが大学生になって、ビートルズ世代の先生からまとめてアルバムを聴かせていただく機会を得て、特に中〜後期の音の斬新さに驚いた。彼らを「発見」した当時はずいぶんと繰り返し聴いたもので、今ではヘビロテとはいかないけれど、定期的に無性に聴きたくなる。


いちばん好きなアルバムはどれか、と言われれば、THE BEATLES (通称WHITE ALBUM)も捨てがたいのだが、やはり RUBBER SOULだろうか。アイドルから本格的ミュージシャンへ脱皮しようと、新しい試みを次々盛り込んだ革新的アルバム、という位置づけもさることながら、かつてドライブ用ソングとして挙げた "Drive My Car"をはじめ、"Norwegian Wood", "Michelle","I'm Looking Through You" などポップでかつ旋律の美しい曲がずらりと揃っていることが、この作品の魅力である。



ザ・ビートルズそれではいちばん好きな曲は、と聞かれると名曲が山のようにある中から1曲だけ選ぶのは難しすぎるので、せめて3曲にさせてもらえるなら、名曲中の名曲、ももちろんいいのだけれど、今でもよく聴くのは、わりと小品、というか何でもない感じの曲が多い。



Lovely Rita (SGT.PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND)
サイケな香りがするイントロと終盤の「チク・チク」コーラスがとても好きな曲。この「可愛いリタ」とは駐車違反取締りの婦人警官のことである。

Rocky Raccoon (WHITE ALBUM)
アコースティック・ギターの美しい調べと古き時代のアメリカを思わせるようなホンキー・トンク・ピアノの間奏が印象的な曲。「ラクーン(アライグマ)」という言葉の響きとイメージも好きだ。

Mother Nature's Son (WHITE ALBUM)
これもアコースティック・ギターのシンプルな音色が美しい曲。ポール・マッカートニーのヴォーカルが優しく響く。


おまけ:山ほどあるビートルズのカヴァーで気に入っているのは、The Black Keys の "She Said, She Said"である。オリジナルのサイケな雰囲気も好きなのだけれど、このアメリカ出身の2人組によるカヴァーは、さらにブルージーなアレンジがされていて、クールで渋い音になっている。



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2009年07月09日

夏に聴きたい音楽 Musique pour l'été 2009

梅雨空のうっとうしいお天気が続いていますが、これが終わればもう夏。ライターの皆さんが夏向きの音楽をボサノヴァ中心に挙げておられるので、私も考えてみました。とはいうものの、前にも述べたように、普段はほとんどボサノヴァを聴きません。一方で家人はラテン・ボサ好きで、両者の持ち曲が収められた iPod には、ボサとロックの曲がぎゅうぎゅうにせめぎあっています(そして中立的な立場にあるのがブラック・ミュージックというわけです)。シャッフルモードで聴くと、それらが入れ替わり立ち替わり流れてきて、ロック一辺倒の私でも、むむと思う曲がたまに登場してきます。今回はそんな音楽をご紹介しましょう。


Ela E' Cariocaもろボサノヴァ、というのはちょっとな〜と思っていた私でも、ジョアン・ジルベルトの Ela E' Carioca (1970)を聴いたときは、さすがにじーんとしてしまいました。このアルバムは、ボサノヴァブームが終焉の時を向かえた後、妻アストラッドとの離婚しアメリカを離れたジョアンがメキシコで不遇な生活を送っていた時期に録音されたもので、美しい旋律は同時にどこか物悲しさも漂わせています。非常にシンプルな作りだけに、彼の声の温かみがストレートに伝わってきて、文字通り「心の琴線に触れる」音楽であり、この作品は彼の最高傑作とも言われています。アコースティック・ロックやフォーク・ロックが好きな人にぜひ聴いてもらいたいです。

Joan Gilberto - Farolito



マルコス・ヴァーリ(1970)そのジョアン・ジルベルトに影響を受けつつも、ジャズ、ロック、ポップスなどの要素を取り入れ、ボサノヴァを都会的な音楽へと進化させたのがマルコス・ヴァーリです。チャーミングでお洒落なアレンジと彼の明るいヴォーカルを聴いているだけで顔がほころんでくるような楽しさが感じられ、夏にぴったりの音楽でしょう。おすすめのアルバムは色々あるけれど、まずはその名も Marcos Valle (1970) をご紹介します。フランスのミシェル・ルグランを思い出させるようなオーケストラをバックに従えた華やかな音から、メロウなしっとりとした音まで実に耳に心地よく響き、彼のヴァラエティ豊かな音楽性が味わえます。傑作はほかにもあれど、このアルバムを挙げたのは、何といっても奥さんとのデュエット Êle E Ela (彼と彼女)があるから。聴いてるこちらが赤面しそうなぐらいラブラブ〜なスキャットが流れてくると、しあわせのお裾分けをいただいた気分になります。

Marcos Valle - Os Grilos(残念ながら「彼と彼女」は見つからず)



Secret Life of Harpers Bizarre最後は・・ボサノヴァではなくソフト・ロックからのご紹介。1960年代の後半から70年代にかけて、ハリウッドの北にオフィスを構えたワーナー・ブラザーズは、「バーバンク・サウンド」と呼ばれる独特な音楽を生みだしました。その象徴となったのがハーパース・ビザールというグループで、わずか2年の活動期間に印象的な4枚のアルバムを残し、なかでも The Secret life of Harpers Bizarre(1968) は、あのピチカート・ファイヴの小西康陽氏をして「最高のロック・アルバム」と言わしめました。架空のサウンド・トラックとして作られたこの作品は、どこかで聴いたようなノスタルジックで幻想的な音楽で、白昼夢を見ているような気分にさせられます。どこにも行きたくないような暑い夏の昼下がりに聴いて、脳内トリップを楽しみたいです。

Harpers Bizarre - Me, Japanese Boy



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2009年07月05日

カンヌ映画祭 その他の注目作品

カンヌ映画祭が閉幕してからかなり時間があいてしまいましたが、出品された映画からいくつか気になるものをご紹介します。


springfever.jpgまずはコンペティション部門に出品され、脚本賞を受賞したロウ・イエ監督の「スプリング・フィーバー Nuits d'ivresse printanière」から。夫が青年と浮気をしているのではないかと疑う妻に雇われた探偵は、次第にこの二人の男の関係に魅了され、恋人ともどもその官能的な狂気に巻きこまれていく・・という多分にエロティックな内容ですが、嫉妬と妄想の描き方に秀でていて、同性愛版「突然炎のごとく」のようだという高い評価も見られます(一方で観客受けは今ひとつみたいですが)。ロウ・イエ監督は前作「天安門、恋人たち」が、その激しい性描写のため、本国中国で上映禁止となっており、今作も検閲の目を逃れつつ撮影が行われたのだとか。それでも果敢にタブーに取り組もうとする監督の姿勢は、カンヌでも注目を集めました。


brightstar.jpg久々に長編作品を発表したオーストラリアのジェーン・カンピオン監督。19世紀イギリスの詩人、ジョン・キーツとファニー・ブラウンの恋物語を描いた「ブライト・スター Bright Star」は、ファニー役のアビー・コーニッシュの演技も含め、批評家からも観客からもおおむね好意的に受け入れられたようです。美しい詩を生みだした若い二人の恋というロマンティックな内容に加え、スチール写真がどれもこれも美しく、監督独特の鮮やかでフワフワした映像がこれらからも想像できます。大きなスクリーンでじっくり観たい映画ですね。


chaneletstravinsky.jpgお次はコンペ外の映画から。今年はシャネルを取り上げた映画が数本作られましたが、カンヌでもフランスのヤン・クーネン監督による「ココ・シャネルとイゴール・ストラヴィンスキー Coco Chanel et Igor Stravinsky」がクロージング作品として上映されました。すでに名声を獲得したココ・シャネルが、ロシア革命のためにパリに逃げてきたストラヴィンスキーの家族を自分の別荘にかくまったことで、二人の間に恋が芽生える・・というもので、批評家筋にはウケが悪いようですが、観客には好評です。何といっても、シャネル役にアナ・ムグラリス(彼女自身シャネルのイメージ・キャラクターでした)、ストラヴィンスキー役にマッツ・ミケルセン(「007 カジノ・ロワイヤル」で血の涙を流す悪役だった人です)、という魅力的なキャスティングがこちらの興味をそそります。カンヌのレッド・カーペットでもこの麗しき二人は華々しいオーラを放っていました。




iloveyou_philipmorris.jpg監督週間に出品されたジョン・レクアとグレン・フィカーラによる「アイ・ラヴ・ユー・フィリップ・モリス I love you Philip Morris」は実話をもとにしたコメディーで、妻子もちの詐欺師が刑務所で同じ房の男と恋に落ちてしまい、一緒に脱獄をしようとする物語。先行して上映されたサンダンス映画祭でも大いにウケたそうです。ブラック・コメディ「バッド・サンタ」を手がけたコンビによる映画で、おまけにこの二人の男を演じるのがジム・キャリーとユアン・マクレガーということですから、毒が効いていて相当楽しそう。ヨーロッパでは秋に公開ということですから、日本でも今年中にお目にかかれるかもしれませんね。







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2009年05月26日

カンヌ映画祭受賞結果

第62回カンヌ映画祭の授賞式が24日の日曜日に行われました。プレスの間では、ジャック・オディアール監督の Un prophète、ケン・ローチ監督の Looking for Eric 、エリア・スレイマン監督の The Time that remains などが高評価を得ていましたが、主な賞は以下の通りとなりました。


cannes09michael.jpgカメラ・ドール(新人監督賞):Samson and Delilah(ワーウィック・ソーントン)
さらに特別賞として:Ajami(Scandar Copti)

特別功労賞:Les Herbes Folles (アラン・レネ)

高等技術院・技術賞:録音技術アイトール・ベルンゲル
(作品:Map of the sounds of Tokyo (Carte des sons de Tokyo)/イザベル・コイシェ)

審査員特別賞: Fish Tank(アンドレア・アーノルド)
        Bak-Jwi(Thirst, ceci est mon sang..)(パク・チャヌク)

最優秀脚本賞:メイ・ファン(作品:Chun Feng Chen Zui De Ye Wan (Nuits d'ivresse pritanière)/ロウ・イエ)

最優秀監督賞:ブリリャンテ・メンドーサ(作品:Kinatay)

最優秀男優賞 : クリストフ・ワルツ(作品:Inglourious Basterds /クエンティン・タランティーノ)

cannes09charlotte.jpg最優秀女優賞:シャルロット・ゲンズブール(作品:Antichrist/ラース・フォン・トリアー)

グラン・プリ:Un prophète (ジャック・オディアール)

パルム・ドール:Das Weisse Band (Le ruban blanc)(ミヒャエル・ハネケ)


今回は、各賞がまんべんなく振り分けられた感がありますが、意欲的な内容に挑んだ作品が選ばれているようです。ロウ・イエ(中国)、パク・チャヌク(韓国)、ブリリャンテ・メンドーサ(フィリピン)とアジアの監督の作品も多く選ばれています。

グラン・プリとパルム・ドールは妥当な線でしょうか。「リード・マイ・リップス」や「真夜中のピアニスト」で知られるジャック・オディアール監督の Un prophète(預言者)は、若くして刑務所に入れられた青年が、読み書きも出来ない身から次第にのし上がっていく物語で、2時間半近くある大作。緊張感たっぷりのスリラーで力強さもあると批評家筋は褒めまくりで、主演の Tahar Rahim も好評です。

パルム・ドールの Das Weisse Band (Le ruban blanc 白いリボン)は、かつて今回の審査委員長イザベル・ユペール主演による「ピアニスト」でグラン・プリと女優・男優賞を受賞したミヒャエル・ハネケ監督の作品です。1913年のドイツのとあるプロテスタントの男子校に起こった奇妙な事件とそれを機に次第に変わっていく学校の姿を描いたもので、モノクロの映像が美しい作品です。この作品はパルム・ドールのほか、批評家連盟賞など複数の賞を獲得しており、最高賞受賞も納得の結果でしょうか。

最優秀男優賞は、タランティーノの戦争映画 Inglorious basterds(地獄のバスタード)で主演のブラッド・ピットを差し置いて、ナチの大佐を演じたクリストフ・ワルツが受賞。第二次世界大戦における復讐劇で、監督曰く「戦争ものとマカロニ・ウェスタンを融合させたアクション映画」だそうで、上映後の会場も大喝采でとても盛り上がっていました。公開が待ち遠しいですね。

最優秀女優賞は、ラース・フォン・トリアー監督の Antichrist (アンチ・キリスト)に主演したシャルロット・ゲンズブールへ。激しい性描写が物議を醸したこの映画。俳優たちを精神的に追い込むことが多いこの監督の作品に、あのか弱そうなシャルロットが出演すると聞いて絶えられるのだろうかと心配でしたが、夫イヴァン・アタルに見守られて舞台に上がった彼女はいつもどおりもの静かな調子で喜びを語り、ああ彼女も芯の強い大人の女優になったものだなあとしみじみしてしまいました。
「『アンチ・キリスト』のような映画を大胆にも選んでくれたカンヌに感謝しています・・・ラースは私がこれまで知る中で最も強烈で、最も辛く、最もエキサイティングな経験をさせてくれました。父(セルジュ・ゲンズブール)はきっと私を誇りに思うと同時にショックを受けたことでしょう」という彼女の言葉のなかにもこの映画の壮絶さがうかがえます。

cannes09Resnais.jpg授賞式のクライマックスは特別功労賞にアラン・レネ監督が選ばれたときです。ヌーヴェル・ヴァーグの時代から現在に至るまで独自のスタイルを追求してきた、86歳のこの監督が登場すると、会場ではスタンディング・オベーションが。今回の作品 Les herbes folles は、クリスチャン・ガイイの小説 L'incident を映画化したもので、「小説にはおかしな要素はないのに、映画になったらどこかユーモラスになった」のだそう。出演した女優が「私、監督に恋してしまったの。結婚したいわ!」と語ったくらいですから、人としても大変魅力的なのでしょう。


さて、パルム・ドールに便乗して各メディアがいろいろ賞を発表しますが、以前にも触れたパルム・ドッグ(最も印象的だった犬に与えられる賞)は、オープニング上映されたディズニー&ピクサーによる「カールじいさんの空飛ぶ家」に登場する犬 Dug で、アニメーションの犬としては2匹目の受賞だとか。


それから Comme au Cinéma. com が独自に選んだ各賞が面白かったので少しご紹介しましょう。パルム・ドール( Un prophète )やグラン・プリ( Étreintes Brisées (壊れた抱擁)/ペドロ・アルモドバル)といった真面目な賞がある一方で、こんな賞もありました。

Le prix de la coupe de cheveux la plus bizarre : Vincent Cassel vole la vedette à notre Pedro Almodovar préféré. L’acteur s’est pointé sur la Croisette la tête et les sourcils rasés.
(最もヘンな髪型賞:ヴァンサン・カッセルがみんなの大好きなペドロ・アルモドバルから主役の座を奪ってしまった。頭も眉毛も剃り落としてクロワゼット通りに現れたものだから)

Le prix de l’acteur le plus timide sur les tapis rouges : Ben Whishaw, pourtant si lumineux dans Bright Star.
(レッド・カーペットで最も恥ずかしがりやさんだったで賞:ベン・ウィショー、だけど出演した映画「ブライト・スター」(ジェーン・カンピオン監督)ではピカイチ)

Le prix du film qui fait mal aux yeux : Soudain Le Vide… on a encore mal.
(最も目にイタかったで賞:「エンター・ザ・ヴォイド」(ギャスパー・ノエ監督)・・まだイタいし)

Le film qui empêche de dormir : Antichrist. A-t-on encore besoin de vous expliquer pourquoi ?
(眠れなかったで賞:「アンチ・キリスト」。まだ理由を説明する必要がある?)

コメントが効いてますね。その他話題作、気になる映画はまた次回に。



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2009年04月29日

春に聴きたい3曲

4月も半ばを過ぎて、初夏の兆しも感じられるようになってきました。そこで暑くもなく寒くもない今の陽気に聴きたくなる音楽を集めてみました。

pelican-west.jpg私が10代半ば頃、イギリスではロックやポップスに、ファンクやラテン系の音楽のテイストが組み合わされた音が流行りました。「ファンカラティーナ」と命名されたその音楽ジャンルで、アイドル的存在だったのがヘアカット100 Haircut 100 です。ポップな曲調に、中心人物であるニック・ヘイワードのお洒落で可愛らしいルックスも手伝って、日本でも音楽誌のグラビアを賑わすほどでした。彼らの最もヒットした曲 "Favourite Shirts (Boy Meets Girl)" は、イントロのギターとパーカッションを聴くだけでウキウキしてくる曲で、日本ではバイクの CM にも使われていました。これから夏にかけて聴きたい楽しい曲です。

Favourite Shirts (Boy Meets Girl)




Lilactime.jpgフランスの漫画の主人公に似ていることから、「タンタン」と呼ばれていたスティーヴン・ダフィーが結成したライラック・タイムは、ロックというよりもほとんどフォークに近い、素朴で物静かな音楽を奏でるバンドです。彼らのファーストアルバム The Lilac Time は繊細で美しい曲の詰まった名作で、春の穏やかな気候にぴったりです。そこに収録された "You've Got to Love" は、チャーミングという形容詞がぴったりで、ほのぼのとしたリズムとメロディーに優しい気持ちになれる1曲です。素朴で優しそうなお兄さんたちが楽しそうに遊園地で演奏したりはしゃいだりしている PV も微笑ましい。

You've Got to Love




silvermorning74.jpgニューヨーク出身のケニー・ランキンは、都会的で軽快なギターサウンドと、「シルキー・ヴォイス」と評される甘く柔らかいヴォーカルが印象的なシンガーソングライターで、特に60年代後半から70年代にかけてソフト・ロックにジャズやボサノヴァのテイストを加えた数々の名曲を発表しました。"Haven't We Met" は、74年に発表された Silver Morning に収められた曲で、軽やかなギターの音色をバックに、爽やかなケニーのヴォーカルがのびのびと響き、まさに春のそよ風のような曲です(実際の歌詞では「雨」が小道具として使われているんですが)。

Haven't We Met(比較的最近のヴァージョン)


今回ご紹介した曲はどれも20年以上も前に発表された曲ばかりですが、私の iPod ではしょっちゅう流れてくる曲で、今聴いても新鮮です。皆さんの耳にもそうでありますように。



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2009年04月28日

第62回カンヌ映画祭 ー 今年のラインナップは

cannes09affiche2.jpg第62回カンヌ映画祭が5月13日に開幕します。プレスに向けてその内容が発表されました。今年も魅力的な審査員や出品作の名前が次々登場しています。ポスターもヒッチコック風で素敵ですね。


まず、今回の長編映画部門の審査委員長は、フランス女優のイザベル・ユペール(写真中)です。これまで数々の女優賞に輝いた彼女は今やフランスを代表する女優の一人ですが、大女優の地位に甘んずることなく、さまざまな役に意欲的に取り組むチャレンジ精神にあふれた人です。そのような彼女がどんな映画を選ぶのか、今から興味津々。


彼女を筆頭に、昨年監督賞を受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、一昨年に「シークレット・サンシャイン」がノミネートされたイ・チャンドン監督、94年にヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞のほか、これまでカンヌでも作品が多くノミネートされたアメリカのジェームズ・グレイ監督、作家で映画の脚本も多く手がけているイギリスのハニフ・クレイシ、そして台湾のスー・チー、イタリアのアーシア・アルジェント(写真下)、そしてアメリカのロビン・ライト・ペンという3女優が名を連ねています。

Huppert.jpgスー・チーは多くの台湾映画に出演しているほか、リュック・ベッソン製作の「トランスポーター」にも出演。アーシア・アルジェントは映画監督ダリオ・アルジェントの娘で、自らも作品を監督することもありますし、女優としても個性的(彼女を画像検索していただくと、その大胆さがおわかりになるとお思います)。ロビン・ライト・ペンは「フォレスト・ガンプ」の想い人、といったら分かる方もおられるでしょうか、昨年の審査委員長ショーン・ペンの奥さんでもあります。何だか今回の審査員は女優パワーが強力そうですね〜。


短編映画部門では、イギリスのジョン・ブアマン監督を審査委員長に迎え、フランスのベルトラン・ボネロ監督や、中国の女優チャン・ツィイーなどが審査員になっています。


asia-argento.jpgさて、審査員に個性的な名前が並んだのに比例するかのように、コンペティション部門に選ばれたのも錚々たる面々です。カンヌ常連のなかでもオリジナリティ豊かな作品を作る映画人たちがずらりと集まりました。ペドロ・アルモドバル、ジャック・オディアール、ミヒャエル・ハネケ、アン・リー、ケン・ローチ、ギャスパー・ノエ、パク・チャヌク、クエンティン・タランティーノ、ジョニー・トー、ツァイ・ミンリャン、ラース・フォン・トリアー・・・、こっちが圧倒されそうな豪華メンバーだし、中身も濃そう。常連とはいえ、アルモドバル、ハネケ、チャヌク、タランティーノ、ノエ、フォン・トリアーあたりの名前に問題作やぶっとんだ衝撃作が飛び出してきそうな不穏な感じがするのもいい(笑)。そのほかジェーン・カンピオンやイザベル・コイシェ(菊池凛子主演で東京が舞台だそう)といった女性の監督や、フランスの大御所アラン・レネの作品も選ばれています。


日本作品では、「ある視点」部門に是枝裕和監督の「空気人形」が出品されます。今回もコンペ作がないのが少々寂しいですが。


個人的には、最近なぜか我が家でブームになっているペドロ・アルモドバルの新作(ペネロペ・クルス主演の恋愛映画)が登場するのが嬉しいです。また前作「デス・プルーフ in グラインドハウス」が痛快だったクエンティン・タランティーノ(何とブラッド・ピット主演の戦争映画だとか)や、女性の心の動きを独特の繊細さで描くジェーン・カンピオン(久々の長編作品!)に期待しています。注目作品の内容は次回お伝えしたいと思います。



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2009年03月17日

新作映画情報「チェンジリング」

changeling.jpg昨年カンヌ映画祭のコンペティション作品に選ばれたクリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」を観ました。


1920年代のアメリカ。シングルマザーとして電話会社で働くクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)が、ある日仕事から帰ってくると息子のウォルターがおらず、母親の懸命の捜索にもかかわらず数ヶ月行方不明だった。ある日警察からウォルターが見つかったとの知らせが入り、喜び勇んでクリスティンが駅へ迎えに行くと、そこに現れたのは息子とは別人の少年だった。彼は息子ではないと彼女は再三訴えるが、警察は全く取り合わない・・


無理がありすぎ、と思えるこの物語が実話である、というのですから驚きです。無駄のない冷静な語り口で、当時の警察の権威主義や腐敗が徐々に暴かれていくさまはさすがイーストウッド!という感じで、「許されざる者」や「硫黄島からの手紙」でのように、「正義の味方=善」だとか「敵=悪」というような固定化されがちなイメージを打破しつつ、ものごとを客観的に見つめる姿勢は今回も変わりません。しかし、この映画は単なる社会派ものというわけではなく、子供の失踪事件がやがて別の大きな事件へと繋がっていき、思いもよらぬ結末へと至るサスペンス映画でもあり、一級の娯楽作品として成立しています。


changeling01.jpg暗めの色調のざらりとした画面に、20年代の風景が映し出され、そこへ細身のアンジェリーナがこれまたほっそりした素敵なデザインの20年代ファッションを着こなして登場すると惚れ惚れしますが、ここでの彼女は決して「美しいセレブ女優」として撮られているわけではありません。彼女の気の強そうな大きな目は目深にかぶった帽子の下に隠され、遠目ではすぐには誰かわからないくらいです。


逆に彼女のもうひとつの特徴である厚い唇は真っ赤なルージュで強調されていて実に表情豊かです。ウォルターにキスする唇、不安や驚きであっと開かれた唇、子供の手がかりを求めて終始受話器に寄せる唇、そして「私の息子ではない!」と低いながらも強い声で叫ぶ唇・・・言葉を発する発さないにかかわらず(クリスティンは決して「おしゃべり」ではありません)彼女の唇は常に何かを語っています。


そしてその「何か」とは、必ず自分の息子に関わることです。クリスティンは警察の過ちや虐げられている女性たちのために行動を起こしますが、もともとそれはただ息子を見つけたいがためで、いつ何時でもウォルターのことを忘れることはありません。支援する人々が(神父さんですら)あきらめの態度を見せても、彼女だけは息子の生存を信じています。そのような意志の強さと愛情の深さを備えた母親役は、日頃から子供たちに対する関心の高いアンジェリーナ・ジョリーにはまさに適役でした。


changeling03.jpgクリスティンを支援するブリーグレブ神父役のジョン・マルコヴィッチは、警察の不正を明るみにすることにやっきになる姿が神父に見えないし、これまでの役柄のイメージが強すぎてうさんくさく見えてしまいました。一方でその他の脇役は、主にテレビで活動する俳優が多かったようですが、なかなかよいキャスティングだったように思います。特に後半から登場するゴードン・ノースコットを演じたジェイソン・バトラー・ハーナーの天真爛漫な表情と澄んだ瞳(最初に登場する場面の爽やかなこと)は、物語の顛末を知った後では深く複雑な印象を残しました。


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2009年02月17日

新作映画情報「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

curious_case_of_bbutton_ver.jpg一昨年のカンヌ映画祭で「ゾディアック」が高く評価されたデヴィッド・フィンチャー監督の最新作「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」を観に行きました。


もうすぐ永遠の眠りにつこうとしているデイジー(ケイト・ブランシェット)に頼まれて、娘キャロライン(ジュリア・オーモンド)が読み始めた古い回想録。第一次世界大戦終結のニュースが流れる1918年のニューオーリンズ、初めての子供が生まれたバトン氏(ジェイソン・フレミング)が家に飛んで帰ってみると、妻は力つきて息絶えてしまった。残された子供を一目見るなりバトン氏は抱きかかえ、老人ホームの玄関先に置き去りにする。子供を見つけたクイニー(タラジ・P・ヘンソン)は、その老人のような風貌に驚愕するが、引き取ってベンジャミンと名付け育てることにした。ベンジャミン(ブラッド・ピット)はホームの老人たちと生活をともにするが、成長するにつれて次第に若返っていくのだった・・


1918年から約80年間にわたり、人とは逆向きに人生を歩む男を描いた物語ですが、その時代時代の雰囲気がセットや小道具などで自然にわかるようになっていて、まず背景の表現がしっかりしているなあと感じました。またデイジーが死の床にある現在とベンジャミンの過去の人生という二つの時間を行き来するという、普段ならうるさく感じられる構成も、編集の技のためかすんなり受け入れることができました。ストーリー自体は一種のファンタジーで、ツッコミどころも多い(なぜベンジャミンの背丈と精神は普通に成長するのか、等々)けれども、それを忘れさせるような印象深いシーンの連続で、3時間近くあった上映時間も気にならずあっという間にエンディングを迎えていました。


bbutton3.jpgベンジャミンとデイジーの恋物語を軸に、彼を取り巻く人々との挿話がちりばめられ、彼の家が老人ホームだったということが象徴するように、特に「別れ」の場面に重きが置かれています。とりわけ彼と「親たち」ー実の父親であるバトン氏、育ての母親、そして人生の師ともいえるキャプテン・マイク(ジャレッド・ハリス)ーとのエピソードは胸打たれるものばかりです。


ベンジャミン自身は特異な体に生まれついたものの、何かを成し遂げたわけでもなく、英雄的存在でもありません。デイジーは好きだけれど売春宿にも行けば他の女性ともつきあうし、酒もやるし、バイクやヨットで遊ぶし、いわゆる普通の男として描かれています。80年間という長い時間の描き方もスピーディーというよりまったりという感じで、そういった要素が作品に奇妙なリアリティを与えていて、ファンタジーが苦手な私でも楽しめたのでしょう。


原作はスコット・フィッツジェラルドだそうですが、時代設定などかなり監督の手が加えられているように思います。前作「ゾディアック」のときのように、今回も奇をてらったような演出や仕掛けはほとんどなく、誠実に作られた作品になっていて、今年のアカデミー賞に多数ノミネートされているのもうなずけます。作品、脚本、編集あたりで受賞してもらいたいなあ。


bbutton6.jpg日本ではブラッド・ピットの主演が強調されているようで、アカデミー賞でも主演男優賞の候補になっていますが、彼の演技はそれほど・・という感じに見えました(もちろん悪くはなかったし、ビジュアル的には文句はないですが)。一方でケイト・ブランシェットの奔放なバレリーナ、ティルダ・スウィントンの陰のある人妻など、女優陣の存在感が大きかったです。とりわけ印象的だったのは、慈悲深く心から息子を愛する母親クイニーを演じたタラジ・P・ヘンソンで、アカデミー賞でも助演女優賞にノミネートされています。


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2009年01月31日

カイエ・デュ・シネマのトップ10

cahiers.jpg各国の映画誌が続々と昨年度のベスト10を発表していますが、今回はフランスの映画誌「カイエ・デュ・シネマ Les Cahiers du cinéma」が選出した映画作品10本をご紹介しましょう。

「カイエ」といえば、その昔フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールといったヌーヴェル・ヴァーグの作家たちが携わり、その後もアンドレ・テシネやオリヴィエ・アサヤスなどの映画監督を輩出した由緒ある映画誌です(数日前イギリスの出版社に買収されたというニュースが飛び込んできましたが・・・)。

自国の作品だけでなく、アジアや南米、またインディーズ系の作品にもいち早く注目するこの雑誌が選んだ10本は、他とはひと味もふた味も違うようです。

まずは執筆陣が選んだ10本(カッコ内は日本で劇場公開用(予定のものも含む)の邦題)。


redacted.jpg1. Redacted (「リダクテッド 真実の価値」)/Brian De Palma(写真)

2. En avant, jeunesse(「コロッサル・ユース」)/Pedro Costa

3. Cloverfield (「クローバーフィールド/HAKAISHA」)/Mat Reeves

4. No Country for Old Men(「ノーカントリー」)/Joel & Ethan Coen

5. Two Lovers /James Gray

6. Valse avec Bachir (「戦場でワルツを」)/ Ari Folman

7. Dernier maquis /Rabah Ameur-Zaïmeche

8. Hunger /Steeve McQueen

9. A Short Film About the Indio Nacional /Raya Martin

10. De la guerre/ Bertrand Bonello


ほとんどが昨年のカンヌ映画祭で上映されていた作品で、アニメもあればドキュメンタリーもある、バラエティ豊かな結果となっています。1位に選ばれたブライアン・デ・パルマの「リダクテッド 真実の価値」は、イラク戦争で実際に起こった事件を下敷きに、マスメディアや政府が隠す残酷な場面や不都合な映像に敢えて焦点をあてたドキュメンタリー仕立ての作品で、いつもは凝った映像が見どころのデ・パルマ監督が、意外にも反戦的なメッセージを打ち出し、ベネチア映画祭では銀獅子賞を受賞しました。アメリカでは絶対上位には入ってこないであろう作品がトップに選ばれたのがフランスらしい。

これとは反対に驚いたのは3位の「クローバーフィールド/HAKAISHA」です。人気TVドラマ「LOST」「エイリアス」を手がけ、トム・クルーズの「M:i:III」を監督したJ・J・エイブラムス製作の SF パニックもので、玄人好みな作品が並ぶなか、こういう娯楽性の強い作品がぽっと入っているのが面白い(「シックス・センス」以降アメリカではウケが悪い M・ナイト・シャマラン作品がよく選ばれていたりするし)。残念ながら未鑑賞なのですが、観た人の感想を読むと、こちらもドキュメンタリータッチの作りだそうです。今回はドキュメンタリーやドキュメンタリー風の作品が多く選ばれていたり、戦争をテーマにした作品が多いのも特徴的でした。良くも悪くも世相を反映しているのか。


さて「カイエ」では読者投票によるベスト10も発表されています。


silence-lorna.jpg1. Le Silence de Lorna (「ロルナの祈り」)/Luc et Jean-Pierre Dardenne(写真)

2. No Country for Old Men (「ノーカントリー」)/ Joel & Ethan Coen

3. Valse avec Bachir (「戦場でワルツを」)/Ari Folman

4. Un Conte de Noël de Arnaud Desplechin

5. There Will Be Blood (「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」)/ Paul Thomas Anderson

6. Two Lovers / James Gray

7. Vicky Christina Barcelona (「それでも恋するバルセロナ」)/Woody Allen

8. Hunger/Steeve McQueen

9. La Vie moderne / Raymond Depardon

10. Entre les murs / Laurent Cantet


批評家の選んだものとはまた違った結果になりました。1位の「ロルナの祈り」はカンヌ映画祭で脚本賞を獲得したダルデンヌ兄弟の作品で、日本でも現在公開中。またフランス人はウディ・アレン好きと聞きますが、それを証明するかのように「恋するバルセロナ」が7位にランクイン。日本では6月公開予定です。またフランス人好みといえば、アルノー・デプレシャンも4位に入っています。カンヌでパルム・ドールを受賞したローラン・カンテの Entre les murs (壁の間で)は10位、また昨年末発表されたルイ・デリュック賞を受賞したレイモン・ドパルドンの La Vie moderne(モダン・ライフ、これも農家についてのドキュメンタリー)が9位に入りました。

ベスト10にもお国柄が表れていて面白いですね。ここに選ばれている作品は、日本ではこれから公開のものや未公開のものもあるので、今後作品を観るときの参考にしてみたいなあと思っています。


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2009年01月17日

2008年の3点(書籍編)

前回に引き続き昨年をふりかえってみたいと思います。去年は小説をほとんど読まず、エッセイや旅行記ばかり手にしていました。外国へ旅したり、そこで暮らしたりした人たちの文章を読み、ふだん行けない場所へ脳内トリップすることで、一種の現実逃避してたのか・・ 今年何らかの形で出版された作品のなかから3点挙げてみます。


愚か者、中国をゆく』(星野博美、光文社新書)

orokamono.jpg中国返還前の香港へ留学していた筆者が、中国内部を友人と二人でバックパックを背負って鉄道旅行した記録。若さゆえの無謀な計画に挑んだものの、1980年代中国の融通のきかない交通事情から生じた、快適な旅行に慣れた私たちには思いもつかない問題が次々とふりかかり、次第に疲れ果て二人の仲も険悪になっていく。カメラマンとして独り立ちしている今だから、その頃を冷静に見つめ直すことができるのでしょう。彼女の文章はごつごつとしていて無骨でとっつきにくいのですが、それだけに噛みごたえがあって、味も濃いです。中国という国がそんな彼女を引き寄せるのもわかる気がします。


役にたたない日々』(佐野洋子、朝日新聞出版)

yakuni.jpg絵本作家でもある佐野さんのエッセイは毒があって、おかしくてたまらない。毒は毒でも金井美恵子のような知性に裏打ちされたプライドから出てくるものではなくて、もっと人がもともと持っている本能的なもので、読んでいてもすうっと自然に体に入ってきて、スカーッといい気分になる不思議な毒なのです。実の母に冷たい仕打ちを受けていた少女時代、二度の離婚、そしてガンで医者に余命わずかと宣告されている現在と、「大変ですねえ」と思わず同情の声をかけてしまいそうになる人生を歩みながらも、そんな薄っぺらい同情心を蹴散らすような痛快な文章で、逆にこちらを圧倒するようなパワーを彼女は発しています。母親についてのエッセイ『シズコさん』と並行して読むのをおすすめします。


芝生の復讐』(リチャード・ブローティガン、新潮文庫)

shibafu.jpgまずキャベツ頭の男さんが投稿で触れていた『アメリカの鱒釣り』の表紙の写真が気になって(本人の写真だったんですね)読んでみたところ、その奇妙でかつ詩的な内容に衝撃を受けました。不勉強でこれまでこの作家のことを全く知らなかったのですが、たちまち虜になり他の作品も読んでさらにファンになりました。そのなかから今年文庫化されたこの作品を。シュールで斬新な文章なのにどこか懐かしくてほのぼのとしている。おかしみもあるのになぜかひっそりとしていてさみしい。今まで味わったことのない感覚を体験させてくれたこれらの美しい作品に出会えてほんとうによかった(キャベ男さん、ありがとう)。今は訳者藤本和子さんの書いた彼の伝記を読んでいます。


毎年読む幸せを感じさせてくれる作品に巡りあえるのは嬉しいことです。今年もその巡りあいを願って一冊でも多く本を読みたいです。



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