2006年12月15日

新作映画情報 「父親たちの星条旗」

flags_of_our_fathers.jpg久々に映画館へ行き、新作映画を観ました(フランス映画ではないのですが・・)。クリント・イーストウッド監督が硫黄島を舞台にして制作した戦争映画二部作の第1部、「父親たちの星条旗」です。


太平洋戦争末期、アメリカ軍が硫黄島への上陸作戦を展開するなかで撮られた歴史的に有名な写真にまつわる物語です。その写真は全くと言っていいほどドラマティックでない状況下で撮影されたにもかかわらず、そこに写る兵士たちは、アメリカ本国で「英雄」として祭り上げられ、戦争の資金を集めるための格好の材料とされてしまいます。写真に写っていた6名の中で、生き残って帰国した3人(ドク、レイニー、アイラ)は、「英雄」扱いとされることに違和感を覚えながらも、国債を販売して費用をかせぎ、いまだ最前線にいる戦友たちを助けなければならない、という思いで各地を回ることになりますが、何かにつけて戦地での経験がフラッシュバックしてきます・・


ブルーグレーがかった色調でかなりの時間を割いて繰り広げられる戦地でのシーンは、非常にグロテスクなものも多々ありますが、全体として淡々と描かれています。製作にスティーヴン・スピルバーグが参加しているので、このあたりではスピルバーグ色が強く感じられ、「プライベート・ライアン」などの作品と比較されることも多いようですが、感情的な要素は極力抑えられており、そのために名もなき兵士たちが、単なる「モノ」として扱われる悲惨さが強く迫ってきます。「戦死」とひとくくりにされる者たちのなかには、味方に見放されたり撃たれたりして命を落とす兵士たちもいて、これでもか、というくらい見せつけられるこの戦闘シーンにむなしさ、やるせなさをいやというほど感じさせられます。


生き残った3人を演じたのは、いわゆるビッグ・ネームの俳優ではありませんが、それぞれ感じのよい演技をしていました。中心人物となるドクを演じたライアン・フィリップはヒーロー扱いされてとまどっている普通の人、という役柄にぴったりだったと思います。また写真に写っていたなかで戦死した一人のマイク役のバリー・ペッパー(「25時」などに出演)も皆に慕われるリーダーを好演していました。なかでも胸を打つのはネイティヴ・アメリカンの血を引くアイラを演ずるアダム・ビーチで、彼の流す涙にもらい泣きした人も少なくないでしょう。来年のアカデミー賞候補になるのでは、と思っています。


戦闘時、帰国後、終戦後、そして現在、と4つの時間が交錯するために、特に最初のほうは物語を追うのに混乱するのと、終盤が少々長引かせすぎかな、というのが難ですが、終始ニュートラルな視点で戦争を見つめるイーストウッド監督の姿勢には感服します。このような内容の映画がいまのご時世でアメリカ資本で作られたことにも驚きですが、逆にこのようなスケールの作品はアメリカでしかできなかったでしょう。


第2部の「硫黄島からの手紙」は、早くもLA批評家協会最優秀作品賞を受賞しました。渡辺謙、二宮和也、中村獅童ら日本人俳優が出演するこの作品は、「父親〜」とは逆の日本軍の立場から作られたものです。「父親〜」では、日本軍はほとんど具体的に登場せず、「匿名」と化した存在だっただけに、こちらの映画ではどのように扱われているか興味深いです。この作品も近々鑑賞予定ですので、感想をまたお伝えできれば、と思っています。



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2006年12月01日

この俳優とこの映画(1) ジェラール・フィリップと「夜ごとの美女」

Gerard_PHILIPE.jpg今年度ある大学の授業でフランス映画を題材にしたテキストを使っています。そこでは色々な時代の作品が取り上げられていて、毎回その一部を学生さんたちとビデオで観ているのですが、フランス映画にはいわゆる「二枚目」というのが案外少ないなあと思います。美男子よりも印象深いとかアクが強いとかどこか特徴ある顔立ちの男優(そういう男優たちはおのずとキャラクターや演技も個性的なんですが)のほうが受け入れられるのでしょうか。そんななかで、逆に一人異彩を放っているのがジェラール・フィリップ Gérard Philipe でしょう。授業では彼の最も若い頃の出演作である「肉体の悪魔」(1947)を鑑賞したのですが、それから現在に至る60年近くの間にこんなにきれいな顔をしたフランス男優はそう出現していません。


1922年にカンヌに生まれ、40年代前半にスクリーンデビュー、そして59年に36歳の若さで世を去るまでに、彼は常に二枚目スターとしてフランス映画界で活躍していました。とりわけ前出の「肉体の悪魔」をはじめ、「パルムの僧院」「赤と黒」「危険な関係」といった文芸ものの主役や、「モンパルナスの灯」のモディリアニのような芸術家役などは、演技から滲み出るノーブルさも手伝ってはまり役といえます。一方で彼には、陽気でコミカルな役もお似合いで、その代表作はファンファン・ラ・チューリップを演じた「花咲ける騎士道」(1952)でしょう。この作品は近年ヴァンサン・ペレーズ主演でリメイクされましたが、やっぱり元祖ファンファンにはかなわないんじゃないかなあ〜。



yogoto-no-bijo1.jpg私の好きなジェラール・フィリップの出演作は、その明るい一面が見られる「夜ごとの美女」(1952)です。周囲の人々や生徒たちに馬鹿にされる、貧しくてさえない音楽教師クロードが、夜ごとに見る夢のなかではさまざまな時代の美女たちと恋を楽しむ、というストーリーで、下町で暮らしているという設定ながらもどこか育ちのよさを感じさせる青年の役柄が楽しそうに演じられています。ルネ・クレール監督の映像や笑いのセンス(「昔はよかった・・」という老人のセリフとともに時代が逆行していくところなどは秀逸です)も冴えていて、コメディ映画の傑作といえるでしょう。「愛人ジュリエット」(1950)のような不幸な青年役(この映画も泣けます)や、「狂熱の孤独」(1953)のような汚れ役も魅力的ですが、南仏育ちの彼にはやっぱりこういう屈託なく若々しい役がぴったりだと思います。


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2006年11月17日

飲みました

henryfessy.jpg奇しくも今回の投稿日はボジョレー・ヌーヴォー解禁の翌日。最近のフランスではワイン離れが目立っているというし、先日の tk さんのエントリー を読んでも、解禁日をありがたがっているのは今では日本人だけなのかなあと思う。毎年踊らされているなと感じつつ、今年も我が家にはネット経由で解禁日当日に届いたボジョレーが3種類もある。私はふだん食後(というより寝る前)に、もっぱら白ワインかスパークリングものばかり飲んでいるし、赤を飲むとしたら軽いものが好みなので、ワイン飲みとしては邪道な部類に入るのかもしれない。だから逆に若い味のボジョレーは自分には飲みやすいし、先日日本酒の新酒を飲んで、作りたてのフレッシュな味というものにあらためて感心したところなので、早速到着したばかりのボジョレーを開けてみた。Pst さんを差し置いて恐れ多いのだけれど、しろうとの感想だと思って軽く聞き流して下さい。


さて、今回購入したのは

1. Beaujolais vin de primeur 2006 Philippe Pacalet
2. Beaujolais villages nouveau tradition 2006 Henry Fessy
3. Beaujolais villages primeur Château du Montceau "Les lapins monopole" 2006


の3種。今日は2のアンリ・フェッシー(写真)を飲みました。これは去年も飲んだのだが、一緒に飲んだ方に、「ボジョレーはあまり好きではないけれど、これはおいしいですね」と言われたので、今年も買ってみた。アンリ・フェッシーのボジョレーは「トラディション」という名前が象徴しているように、昔ながらの作り方を重要視して、樹齢50年以上の古樹のブドウを用い、補糖もなし、フィルターを軽めにして瓶詰めしているワインだそうです。


「ブーケが・・タンニンが・・」と表現できたら最高なのだろうけれど、年がら年中鼻があまりきかない味音痴なので繊細に言い表すこともできず、言うならば第一印象は「あっさり」(何てヒネリのない言い方・・トホホ)。去年のほうが濃くて深みがあったような気がする。けれども、たまたま家にあった合鴨のサラダをアテにすると、とても美味しくなったし、時間が経つと味わいが増してきたように感じる。何よりも鼻にぬける香りがフンワリ快い。今日は1本飲みきれなかったので、明日の夜残りを飲んでみようと思うのだが、それでまたひと味変わってきそうで、これも楽しみ。


明日はまた、1のフィリップ・パカレのボジョレーを大学の先生方と飲んでみる予定。フィリップ・パカレのワインはブドウの出来具合で、酸化防止剤である亜硫酸塩を入れたり入れなかったりするそうで、よりブドウの味そのものを味わえそうです。これからしばらくはボジョレー三昧の日々が続きそう・・でも Pst さんもおっしゃるようにお祭り気分で楽しみたいな〜。ところで Pst さんの飲まれたボジョレーは何でしょうか。感想を期待してます!



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2006年11月03日

フランス映画好きに捧げる非・フランス映画(3)ー「青の稲妻」

plasirs1.jpg昨今の映画界においても最も勢いがあるのは、おそらく中国でしょう。北京五輪に向けて急速に発展しつつある国の内情を反映するがごとく、新しいタイプの作品が次々と生み出され、世界各国の映画祭でノミネートされる数も少なくありません。日本でもおなじみのチャン・イーモウ(代表作:「初恋のきた道」「HERO」「LOVERS」など)や、チェン・カイコー(代表作:「さらば、わが愛-覇王別姫」「北京ヴァイオリン」「PROMISE」など)監督らは、「第五世代」と呼ばれ、すでに巨匠の風格が感じられますが、今回ご紹介する「青の稲妻」(2002)を制作したジャ・ジャンクー(賈樟柯)は、その後の「第六世代」に属する監督です。1970年生まれ、という若さでこれまでに撮影した長編作品はまだ5本であるにもかかわらず、ヨーロッパで非常に高く評価されており、今年のヴェネツィア映画祭では、最新作「三峡好人」が最高賞である金獅子賞を獲得しました。「青の稲妻」は3作目の長編にあたり、2002年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞しています。


Plaisirs2.jpgジャ・ジャンクー作品では、激変する中国社会に生きる若者たちがたびたび取り上げられていて、この作品の主人公シャオジイとビンビンもそうです。大同という地方都市に暮らし、北京へのあこがれを抱きつつもやはりこの土地を離れられない二人の顔にはなんと生気がないのでしょうか。職にもつかず行き当たりばったりにその日を暮らす彼らには、未来への期待も希望もあまり感じられません。都市が活気づき豊かになるなかで、「今」をただ生きるしかない若者たちの姿を象徴しているのが、この二人のうつろな眼差しなのです。二人を演ずるのは素人の役者なのですが、彼らを選んだ決め手となったのは、強い印象を与える彼らの目だったと監督はあるインタビューで語っています。


髪型や服装を気にしながら、煙草をひっきりなしに吹かし、ディスコに通ったりバイクを乗り回しては女の子を追っかける・・二人は最新の若者の姿であるといえるでしょうが、彼らの目は外の世界へは全く開かれていません。中国がWTOへ加盟したり、北京がオリンピック開催地に選ばれるというニュースにも無関心、おまけに1ドルの価値すら知らないのです。そのような国と個人のあり方のギャップをこの作品は暗に批判しているようにも見えます。そのためもあってか、ジャ・ジャンクー作品は長い間自国では上映禁止でした。


plaisirs3.jpg実はこの作品は北野武監督の映画プロダクションであるオフィス北野がサポートしています。かつてジャ・ジャンクーは「あの夏、いちばん静かな海。」に感動したそうで、彼の作品にも北野作品に通じるクールさが感じられます。一方で、映画終盤にはゴダールの「気狂いピエロ」のラストシーンを思わせる場面があるのですが、その後の展開はあまりにもお粗末で、二人はジャン=ポール・ベルモンド演ずるフェルディナンのようにカッコよく自分の生活にケリをつけることもできません。そのようにクールなまま映画を終わらせないこの若い監督のセンスに、これからも大いに期待したいです。


青の稲妻
青の稲妻
posted with amazlet on 06.11.03
おすすめ度の平均: 5
5 傑作中の傑作
5 19歳!


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2006年10月20日

眠れない夜のための音楽=ロバート・ワイアット

寝るときに音楽を聴く、という習慣が私にはありません。寝場所まわりに音響設備がない、というのもありますが、最大の理由は、音楽を聴くと頭が冴えてしまうから。まぶたが落ちそうなときも、音楽を聴き出すと目が覚めてくる。だから私にとって「眠れぬ夜のための音楽」、とは結局のところ、その音楽をしみじみ聴いて「眠らないための音楽」、ということになりましょうか。ボリュームを絞ったプレーヤーで夜静かに聴いていたい音楽として真っ先に思い浮かぶのは、ロバート・ワイアットのアルバムです。


nothingcan.jpgロバート・ワイアットは1945年イギリス生まれ。もともとソフト・マシーン、マッチング・モウルというジャズ・ロックグループのドラマーでしたが、73年に転落事故に遭って下半身不随の身となりました。車椅子での生活になってから、彼はソロ・シンガーとして新しい音楽人生をスタートさせ、今でもすばらしいアルバムを発表し続けています。

彼の魅力は何と言ってもその歌声です。髭もじゃのおじさん、という風貌からは想像できない、まるで天から降ってきたかのような澄んだ声を聴くと、月並みな表現ではありますが「心が洗われる」気分になります。素朴でゆったりとした音をバックに流れてくる彼の清らかな声を、秋の夜長に電気を消した部屋のなかでしんみりと聴くのは感慨深いものです。

これまで数多く発売された彼のアルバムのなかで選ぶとすれば1982年発売の「ナッシング・キャン・ストップ・アス」でしょうか。かつて Cyber French Café 時代に書いたミュージック・バトンのエントリーで、「思い入れのある曲」として選んだ At Last I Am Free はこのアルバムに収録されています。残念ながら国内盤は廃盤のようですが、輸入盤はネットショップなどで入手できます。試聴はこちらで可能です(お姿も拝めます)。彼はジャズの名曲をカヴァーすることも多く、このアルバムでも Strange Fruit (奇妙な果実)を歌っていて、ビリー・ホリデイのそれとはまた異なった不思議なひとときを味わわせてくれます。


※今回は cyberbloom さんが Data Base のほうでされたエントリーを受けての投稿です。サイト違いなんですが、どうぞご勘弁を。

■「ヒズ・グレイテスト・ミッシーズ −ロバート・ワイアット30年の軌跡」(このベスト盤はAmazonでも入手可能です。At Last I am Free も収録)



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2006年10月06日

フランス映画好きに捧げる非・フランス映画(2)−「乙女の祈り」

ニュージーランド、というと皆さんはどんな印象をお持ちですか? 自然が豊かで、食べ物やワインがおいしくて、人々が大らかで・・と我々が勝手に健康的なイメージを抱いてしまうこの国で作られた、ちょっと風変わりな映画「乙女の祈り」(1994)をご紹介しましょう。


heavenly_creatures-1.jpg女子高生のポウリーンは、転校してきた魅力的な少女ジュリエットに好意を抱き、二人はすぐに意気投合します。空想好きな彼女たちは、共同で壮大な物語を考えだし、登場人物になりきるほど、深くのめりこんでいきます。二人のあまりにも親密な関係を心配したジュリエットの両親は二人の交際を禁じますが、それに憤った彼女たちは、憎むべき母親を亡きものにしようと計画を立てます・・


heavenly2.jpg1954年に起こった実話をもとにしたこの映画は、内容だけ聞くと陰惨に思えますが、実際の映像はとてもあっけらかんとしていて、ちょっと感じやすい女の子たちがキャーキャー騒いで冒険している青春映画と錯覚しそうなくらいです。けれども画面にあふれる鮮やかな色彩と明るさは、どこかクレイジーな一面を潜めていて、それが彼女たちの妄想シーンで一挙に炸裂するところが奇妙にも面白く、この映画の魅力となっています。



heavenly3.jpgこの作品を監督したのはピーター・ジャクソン。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や「キング・コング」で、今ではファンタジー系映画の大家となっていますが、ハリウッドに進出する前に母国のニュージーランドで作った映画にはこんなユニークなものがあるのです。またジュリエットを演ずるのは「タイタニック」(1997)でブレイクする前のケイト・ウィンスレット。すでにこの時点で大輪の花のような輝きを全身から放っています。


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2006年09月22日

シャルロット、久々の新アルバム

charlotte.jpgセルジュ・ゲンズブールといえば、フレンチ・ポップスを語る上では避けられない大御所。みずから歌うのはもちろんのこと、ブリジット・バルドー、ジャンヌ・モロー、そしてジェーン・バーキンなど数々の女優たちを歌わせては、彼女たちの新たな魅力を世に知らしめました(ついでに浮き名を流しちゃったりもしてました)。ゲンズブール・プロデュースの名盤はいろいろあれど、私がいちばん好きなのはバーキンとの間の娘、シャルロットが15歳のときに出した「シャルロット・フォーエヴァー」。これはセルジュが自分と彼女を主演(おまけに親子という設定)にして監督した同タイトルの映画のサントラで、映画もアルバムも、父と娘というには濃厚すぎる関係を描いたかなりヤバーイ内容だったんですが、それをサラリと表現するシャルロットは、別段いやらしい感じもせず、不思議な雰囲気のある女の子だなあと思っていました。にしても、自分の父親とデュエットして、 "Amour de ma vie" と語りかけるなんて、日本人ではなかなかできませんな〜。


セルジュはその後もスキャンダラスな人生を歩みますが、シャルロットは父親に対して愛情と尊敬を失うことはありませんでした。「フォーエヴァー」以降、シャルロットがマイクの前に立つことはなく、91年にセルジュが亡くなったときは相当ショックだったようで、彼女の歌声は永遠に聞かれないかと思われました。


5:55それから5年ののち、「ラブ etc.」(1996)という映画のなかで彼女が1曲だけ披露してくれたことは嬉しい驚きでした(いい曲でした)。それでも彼女が本格的に歌うことはないだろう、と思っていたら、なんとここへきて20年ぶりに新アルバムが出るというニュースが。それも映画とタイアップしたものではないオリジナルもので、バックにフランスの2人組エールが、さらにプロデュースにレディオヘッドも手がけるナイジェル・ゴドリッチがつくという、私のツボをおさえまくった人選!早速先日発売されたこのアルバム「5:55」を手に入れてまいりました。


1曲目から、エールとすぐ分かる気怠い音に、シャルロットのはかなげなヴォーカルが重なり、「フォーエヴァー」のときとはまた違う彼女の一面を発見できます。大人っぽくなった彼女の声(当たり前か)は、ちょっとお母さんのジェーンを思い出させるときもあります。エールの2人も、彼女の声の魅力を損なわない、じつに「いい仕事」をしていて、両者のファンの期待を裏切らない好アルバムです。


CDは輸入盤ではすでに発売されていて、大手のCDショップなどで購入することができます。もちろんアマゾンでも買えます。国内盤は11月8日発売予定です。



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2006年09月08日

フランス映画好きに捧げる非・フランス映画(1)ー「エレファント」

ガス・ヴァン・サント監督が2003年に発表した「エレファント」(注1)は、ここ数年観たなかで、最も印象深い映画です。


Alex.jpgアメリカの高校を舞台に、少年少女たち数名の1日がドキュメンタリー風に描かれます。登場する高校生たちは、部活に情熱を燃やしたり、恋愛とダイエットのことばかり考えていたり、家のことで悩んだり、授業中にいじめられたり様々(注2)ですが、ひどく変わった子が出てくるわけではなく、高校生活でよくある風景が静かに映し出されているように見えます。


少なくとも中盤までは。


girls.jpg静けさを保ちつつも映像が行き着く最後のシーンを、のどかそうな空が映し出される冒頭の時点ではよもや想像することはできないでしょう。それまで私たちが好感をもったり、反感を感じたりした高校生たちが、すべてひとつの事件に、いわば「対等に」巻き込まれ、それぞれの行く末をたどっていく図を見せつけられると、やるせない気分にさせられ、どうしても「不条理」という言葉が頭をよぎります。


観終わったあとでは、この映画がアメリカの高校で実際に起こったある悲惨な事件を題材にしていることがわかるでしょう。けれども作品自体はあくまでも「フィクション」という立場で、特定の高校を名指ししているわけではなく、高校生たちのほとんどはファーストネームのみ、ナレーションも解説も何もありません。一方で、ありふれた日常の場は、ある時突然に、非日常的な空間へと変わってしまい、平々凡々と暮らす私たち誰にでもその体験の可能性がいくらでもあるのだ、という事実を、この極端に寡黙な映像は強く語りかけてくるのです。


john.jpg同じテーマを扱った映画にマイケル・ムーア監督(注3)の「ボウリング・フォー・コロンバイン」があります。こちらは真正面からこの事件に取り組み、現場や関係者を自ら取材したドキュメンタリーです。しかし、彼独自の考え方に貫かれたその編集方法は、この映画を「ドキュメンタリー」という枠からはみださせるほどで、「エレファント」の対極にある「饒舌な」作品といえるでしょう。


注1:2003年度のカンヌ映画祭に出品されたこの作品は、パルム・ドールとグランプリを同時に受賞しました。監督のガス・ヴァン・サントの作品には、ほかに「ドラッグストア・カウボーイ」(1989)、「マイ・プライベート・アイダホ」(1991)、「グッドウィル・ハンティング」(1997)などがあります。

注2:高校生役で出演した若者たちは、ほとんどが演技経験の少ない素人で、それだけに作品中で彼らが交わしている何気ない会話には、非常にリアルなものが感じられます。

注3:ムーア監督の「華氏911」は、「エレファント」がパルム・ドールに輝いたカンヌで、翌年同賞を受賞しました。



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2006年08月25日

『待ち合わせ』クリスチャン・オステール

rendez-vous.gifミニュイ社 Les Éditions de Minuit は、かつてアラン・ロブ=グリエやミシェル・ビュトールといった「ヌーヴォー・ロマン」の作家たちや、『ゴドーを待ちながら』のサミュエル・ベケット、また最近では日本でもおなじみのジャン=フィリップ・トゥーサンやジャン・エシュノーズなどの、ユニークな作家の作品を世に送り出してきた出版社です。白地に青い星印のシンプルで美しいその装丁の本は、モード写真の小道具としてたまに登場していますから、書店ならずとも、雑誌で目にした人も多いかもしれません。


そのミニュイ社で、ここ数年コンスタントに作品を発表している作家に、クリスチャン・オステール Christian Oster がいます。オステールはさまざまな職業を転々とし、数冊の推理小説を出した後で、1989年にミニュイから本格的デビューを果たしました。それが40歳になろうという年のことですから、遅咲きの人と言えますが、1996年以降はほぼ毎年1冊小説を発表し、1999年の作品『僕の大きなアパルトマン Mon grand appartement 』はメディシス賞(注1)を受賞しました。最近では子供向けの童話も次々出していて、非常に意欲的な活動を続けています。


オステールの小説では、家へ帰ったら鍵がなくて中に入れないだの、家の中にハエがいて気になってしかたがないだの、いかにもありえそうな日常的な事件からスタートします。しかし、物語はだんだんと思わぬ方向へ進み、読者が予想もつかないような結末へ至ります。その思いもよらぬ展開は、話者である主人公の風変わりな性格によるところ大であり、理路整然としているようで、どこか歪んだ彼らの考え方が、新しい局面を導き出していくのです。鍵が入っていたかばんをなくしたことに気がついても、「悲しいのは鍵をなくしたことではなく、それが入っていたかばんをなくしたことだ。だってかばんをとても気に入っていたし、鍵には愛情など持ってなかったから」と話が続いていくのは、やっぱりおかしくないですか? そんな奇妙な語りをユーモラスで楽しく仕立てあげているのが、オステールの発想の豊かさと魅力的な文体なのです。


新作がいつも待ち遠しいオステールですが、日本でも2003年作の『待ち合わせ Les rendez-vous 』が昨年翻訳されました。文字通り、主人公フランシスがカフェで元恋人と「待ち合わせる」場面から始まりますが、彼による「待ち合わせ」の定義がこれまた相当変わっていて、数ページ読んだだけでもフランシスの非常に理屈っぽい性格とどこかずれたものの考え方がすぐに分かっていただけると思います。この部分で辟易してしまう人もいるかもしれませんが、それがツボにはまれば話が次にどう転ぶのか、ワクワクしながらオステールの世界を楽しめることでしょう。そしてめぐりめぐった物語が、最後の段落に行き着いて冒頭のシーンとつながるときに、彼の小説家としての力が否応なく感じられるのです。


注1:ちなみに今年の受賞作はトゥーサンの最新作 Fuir でした。


rendez-vous01.jpg
待ち合わせ
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2006年08月10日

音楽で観る映画 − 番外編

cyclo.jpg映画に使われていた音楽が、その映画と同じくらい、あるいはそれ以上に強い印象を与えた、というご経験はないでしょうか。


ある時。ベトナムに暮らす貧しい姉弟の悲劇を描いたある映画を観ていると、これから身を売ろうとする姉が客を待っているディスコで、英語の曲がかかっていました。切ないメロディーとヴォーカル、そしてその甘さを切り裂くような激しいギターのカッティングがときおり響くその曲は、その映画が当時まだよく知らなかったトラン・アン・ユン監督の「シクロ」という作品であることがわかっても、誰の何の曲なのかわからぬままでした。


またある時。キャメロン・クロウ監督の「バニラ・スカイ」の冒頭で主演のトム・クルーズが目覚める場面で、"Open your eyes" というフレーズとともに不思議な曲が流れてきました。その直後に続く誰もいないニューヨークの街を映した非現実的な場面とともに、(映画自体はそれほど面白いとは思わなかったけれども)この音楽は記憶に強く残りました。しかしこの曲はオリジナルサントラだと思っていたので、あえて深く作曲者だとかを追求することはありませんでした。


そしてまたある時。村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ後で、カフカ少年が闇の中で聴いていた音楽が知りたくなり、この実在するロック・グループのアルバムを探しだしてプレーヤーにかけたとき、スピーカーから流れてきた最初の音は、「バニラ・スカイ」のあの曲でした。そしてどんどんこのバンドの曲を聴いていくうちに、「シクロ」で気になっていた曲が、彼らの大ヒット曲 "Creep" であることもわかったのです。


KidA.jpgイギリスのロックに詳しい方なら、彼らとは現在イギリスで最も実力あるバンドのひとつ、 Radiohead のことだとすぐおわかりでしょう。私は10代の頃からUK音楽に親しんできましたが、このバンドがメジャーになりはじめた1992〜3年頃は、ちょうど新しい音楽をほとんど聴かなかった時期にあたり、(名前ぐらいは聞いたことがあったけれど)彼らのこと、つまり "Creep" で一挙にブレイクし、逆にそのための重圧に押しつぶされそうになりながら、"OK Computer"、"Kid A"(注1)といった90年代のロック史に不可欠なアルバムを苦しみつつ発表しつづけてきたということ、など全く知りませんでした。


その後彼らの曲やこれまでの歩みを知るにつれて、レディオヘッドは自分にとってとても重要な存在となりました。聴くたびに胸を打たれる美しく重みのある旋律と歌詞、常に実験精神を忘れない姿勢、ヴォーカルのトム・ヨークをはじめメンバーの人となり、など彼らの魅力を語れば切りがないですが、音楽的な情報源とは別なところから知ったこともあり、ほかの好きな人々とは違う特異な位置を占めるようになりました。彼らの曲を聴くときは、しばしばその曲が引用された映画(注2)や小説、また彼らがコラボレートしたアーティストたちの作品が浮かんできます。つまり、私にとってレディオヘッドの音楽は、分野を問わず他の作品やアーティストへとつながる中継地のような存在でもあるのです。


sixdays.jpgさて先日、今年のサマーソニック出演者の紹介番組を見ていたら、気怠くてどこか懐かしい感じのする音が、おそらく中国人と思われるカップルを扱った退廃的な映像とともに流れてきました。それは DJ Shadow の "Six Days" という曲で、もう4年も前のものでした。そのプロモーション・ヴィデオ(PV)が何だかウォン・カーウァイみたい、と思って調べてみたら本当に彼が監督したものでした(注3)。DJ Shadow は、U.N.C.L.E. という別のユニットでも活動していることもわかったのですが、その U.N.C.L.E. の PV をすでに1年ほど前にジョナサン・グレイザーという映像作家の作品集で観たことがあり、それは実はトム・ヨークと共作した曲のものだったのです。そしてその PV に登場する、車にはねとばされながらも歩き続ける強烈な人物を演じていたのは、「汚れた血」のドニ・ラヴァン。うーん、レディオヘッドはいろんな所へつながっている・・



注1:写真中。村上春樹さんはカフカ少年が聴いていたのはおそらくこのアルバムだと述べています。


注2:最近のフランス映画では、cyberbloom さんのエントリーでも扱われていたセドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」で "No Surprises" が聴けます。


注3:カップルの男性を演じているのは、「ブエノスアイレス」の旅する美青年役が印象深いチャン・チェン。



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2006年07月27日

新作DVD情報「天空の草原のナンサ」

lechienjaune.jpg今回はモンゴルに暮らす子供を主人公にした映画「天空の草原のナンサ」(ビャンバスレン・ダバー監督作品)をご紹介します。


町に住んで小学校に通っていた6歳の少女ナンサが、家族が暮らす草原に帰ってくるところから物語は始まります。ある日ナンサは、ほら穴で一匹の子犬を見つけて連れて帰り、「ツォーホル」と名付けてかわいがります。しかしお父さんは飼うことを強く反対して、彼女に捨ててくるように命じます・・


ストーリーはたいへん素朴ですが、これがモンゴルの広大な自然をバックにゆったりと語られるところにこの映画のよさがあります。さまざまな色合いの、自然の緑や空の青と、ナンサ一家が身にまとう衣装や彼らが生活するゲル(移動式住居)の内部にあふれる鮮やかな色彩が画面のなかで絶妙に調和し、日本や欧米の映画には見られない情緒を生み出しています。


Nansa2.jpg子供と犬を扱った映画はこれまでにも数々作られてきました。そういった作品のなかには、妙にセンチな路線に走りすぎて嫌みな感じになっているものがありますが、この映画でナンサとツォーホルへ向けられる視線は、常に優しく静かであり、演出も非常に抑制されたものです。実はナンサ家族を演ずるのは、素人の遊牧民一家で、「演技している」ということを忘れてしまいそうになるくらい、彼らのたたずまいは自然です。


終始穏やかに話は進みますが、一方で捨て犬が増えてオオカミ化し、遊牧生活をおびやかしていること、お父さんも町で働こうかと考えていることなど、遊牧民が抱える現実の問題も端々に語られています。実際にモンゴルでは遊牧民がだんだん町に移り住むようになり、ゲルで暮らす人々は少なくなってきているそうです。町の生活も知っているナンサが、儀式や迷信や伝説(この映画の原題になっている『黄色い犬の洞穴』の話もそのひとつです)に取り巻かれた草原での生活に、疑問を感じる日はやがて来るのかもしれません・・


Nansa3.jpgところで、この映画は第58回カンヌ映画祭でパルム・ドールならぬ「パルム・ドッグ」賞を受賞しました。この賞はその名の通り、印象的な犬が登場した映画に贈られるものです(ちなみに今年の「パルム・ドッグ」は「マリー・アントワネット」のパグ犬 Mops に与えられました)。ツォーホル君のかわいいブチ模様や人なつこい仕草は実に微笑ましく、雑種犬好きにはたまらない映画です。


■DVD「天空の草原のナンサ」(デラックス版)


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