東部カナダを訪ねたならば欠かせない場所がある。ケベック・シティである。かつてイギリスとフランスの間でカナダの覇権をめぐり戦われたアブラハム平原の戦いの拠点ともなった城塞都市でもあり、また北米最古の商店街のある街でもある。
イギリスが勝利をおさめたのちも大多数を占めるフランス系移民の生活習慣までを変えるには至らず今でもケベック州における第一言語はフランス語である。彼らの誇りはケベックシティの人々の車のナンバープレートに刻まれた Je me souvien (私は忘れない)という言葉でも明らかだ。

そびえたつシャトー・フロントナック(現在はホテル)を中心にしたアッパータウン(写真1)と、北米最古の商店街であるロウワー・タウン。その二つをつなぐ傾斜もきつい首折り階段。どうも足がーという向きにはフニキュレールがある。
フランスの小さな街を思わせる花々の飾られたバルコニーにカフェ。クレプリー。小粋な雑貨店(写真2)。小柄でお世辞の上手い男たち。―とここは間違いなくおフランスの子孫の街である。
徒歩で回れる可愛い街だがちょうど収穫祭と重なって町中のホテルはみな満室。ネットで適当にとったホテルは街からバスで一時間もかかると言われ、お祭で昔の衣装に身を包んだ人々(写真3)で心地よく盛り上がってる通りを急ぎ足でバス停に向かう。リュックを背負い(預ける場所が駅以外になかったのだ)いかにもバックパッカーな私になぜか二階の窓から陽気に手を振るお兄さん。「いや、こっちは急いでんねん」と思いつつも手を振り返してしまう無駄に愛想のよい私…
バス停で佇む姿が不安げに見えたのか、サングラスをかけたクールな美人が話しかけてきた。「何か探しているの?」

「いや、このバス停で正しいのかなと思って…」というところから会話が始まり、純粋のケベッコワ(ケベック人)のTは、バスを待つ間、ケベックシティで尋ねるべき店や場所を地図にマークしてくれた。歌手やバンドのプロモーションをしているという。
意外だったのは自立してて格好良い彼女の一言である。
「勇気があるのね。一人で旅してて不安じゃない?」
なんでえ、そっちは完璧なバイリンガル(英仏)やのに、不安なことなんかないでしょうに。しかし旅行と言うと彼氏と一緒に行ってしまうらしい。
いやいや、こちとらそんな何でもやってくれて数週間も休みが取れる便利な彼氏なんぞおらんからやん。

でもそういう意味では実は頼りないと思われてる日本女子の方がしっかりしてるよなあと思うことがある。現に私の教え子も女子の方がそれほど言葉もできなくとも海外一人旅に出たりとしっかり者が多い。
この辺りは育った社会の安全度の違いでもあり、また西欧は完璧にカップル社会ということもある。すなわち女性が一人で歩いているのは不自然なわけで、危険度も確かに日本よりは高い。旅の計画から何から整えるのが男の甲斐性ってわけだ。
故に一人で歩いていると男性から不必要なアプローチを受けることがある。いや、ほっといてくれる? 別にあんたの助けはいらんから。
この辺りは「おひとりさま」の言葉もある日本社会に感謝である。行きたい所へ行ける自由。なんでも一人でできるもんね!という気概とそれをできる幸せである。―というか友人の言葉を借りれば、「日本男子はなにもしてくれないので自然にそうなる」らしいのだが。
確かに帰りに寄ったNY(写真4)では男友達(アメリカンね)がお店にショーの下調べに予約、荷物持ちからドアの開け閉めから、混んだ道では先導してくれーと何から何まで完璧にエスコートしてくれ、それはそれでもちろん大変に幸せである。

日本でドアを開けると次々にオヤジが当然のように無言で通り過ぎて行き、ドアガール状態になっていることがあるのと大違いである。しかしこれに慣れたら怖いよなーという気もした。一見自立してお素敵なくせにその実「誰かがお膳立てしてくれるのを待つ女」にならないか。むろん「できるのにしないだけで、男がしてくれるからしてもらってるだけ」ーかもしれないけど、習い性は癖にならないか?
これを常に求められる男性も大変である。もちろん全ての男がそんな紳士とは限らないし、常にやってくれるというわけでもないだろうが、しかしレディファーストの精神はまだ西欧の国々には残っている。逆に言うと男たるものーに求められるところも多いわけで、そのストレスからDVとかゲイに走る向きとかが多いのではと勘繰りたくなってくる。
日本では男たるものに求められるのは多分に経済面で、そのため職を失い自殺に走る中高年や、したくても結婚できない男たちが目立つ。稼ぎのない男は男じゃないわけだ。
どっちにしても男はつらいわけね。こうなってくるともう無理に肉食ぶらないで草食男子でいいじゃないーという昨今の日本のブームも無理もないと思ってしまう。
あ、ところでホテルにはローカルバスを乗り継ぎなんとか一時間後無事に到着。運ちゃんまでが交代するくらいローカル路線で、私の身は「彼女を○○で下ろしてやってくれ」と口伝えに次の運転手に委ねられた。親切なケベッコワと心優しい運ちゃん達にひたすら感謝である。
辿りついたのは車がたまに通るだけのだだっ広い道路とショッピングセンターの向かいにぽつんと立つ様に、思わずバクダット・カフェ(映画)の主題歌(Calling You)を口ずさんでしまうくらい Middle of Nowhere (どこなんよ、ここ)なホテルでした。今でこそ笑い話ですがその時は無事に着いてちょっとだけ泣いた…
こんな映画あんな映画+一人旅@黒カナリア

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posted by cyberbloom at 23:50| パリ |
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