2010年12月13日

クラシック音楽、究極の一枚を探せ!(3)−マーラーは何を聴くべきか(前篇)

2010年はマーラー生誕150年、2011年は没後100年ということで、この2年間は再びマーラー・ブームのようなものが巷で沸き起こっている。来日オーケストラもマーラーをプログラムに採り上げることが多くなっているようだ。もちろん、今回のブームは1980−90年代のような狂騒的なものではないが、人々は再び静かにマーラーの音楽に耳を傾け始めたという印象である。それではマーラーの交響曲を聴くとしたら何を選べば良いのか。今回も独断と偏見で幾つかの録音を紹介して行こう。

マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」まずは「交響曲第1番『巨人』」。この曲は恐らくマーラー初心者に最も薦められる作品であろう。とにかく曲の完成度が高く、軽快で颯爽とした展開は聴いている者を飽きさせることがない。恐らく、指揮者にとっても演奏者にとっても最も演奏しやすい曲だろう。聴く側にとっても、指揮者、オーケストラを選ばない曲と言える。もちろん、人によって好みはあるだろうが、私はバーンスタインの指揮するニューヨーク・フィルの演奏をよく聴いていた。バーンスタインは最晩年のシューマンの演奏が白眉であって、得意としていたベートーヴェンなどは「やりすぎ」という印象が私にはあるが、このマーラーの『巨人』は比較的バランスが取れていると思う。

続いて「交響曲第2番『復活』」。マーラーは既に第2交響曲で途方もない長さと楽器編成を持つ曲を作曲することになる。私は20年ほど前、プロのオーケストラの裏方でコンサートの準備(楽器のセッティング)をするアルバイトをしていたが、『復活』をやる時は時間がかかって仕様がなかった。ベートーヴェンの時は30分で終わる仕事が、マーラーの『復活』の時は3時間以上かかるという有様である。使用楽器が多いのはもちろんだが、とりわけ、第5楽章でステージ袖から吹くトランペットの位置を決めるのに時間が取られるのである。それほど壮大な規模を持つ曲の録音として、今は亡きジュゼッペ・シノーポリ指揮フィルハーモニア管弦楽団の『復活』を挙げておこう。確か、1986年ごろの録音で今と比べれば録音技術には確かに問題があった。だが、演奏はそのような困難を凌駕するほどの精度を実現していると思う。特に第4楽章のブリギッテ・ファスベンダーによるメゾ・ソプラノの部分、終楽章の合唱の導入部などは鳥肌ものである。こういう演奏を聴くと、シノーポリの急逝が本当に惜しまれる。

マーラー:交響曲全集そして「交響曲第3番」。この曲はマーラーの交響曲の中で最長の作品として知られる(ほぼ1時間40分)。規模も相当なものだ。しかし、全体として聴いてみると『復活』や『千人の交響曲』ほどの重々しさ、一種の「くどさ」は感じられない。ここにはまだマーラーの持つ明るさ、軽快さのようなものが感じられる。特に第5楽章で児童合唱が入る辺りに、この曲の不可思議な魅力があるように感じられる。そのような曲を見事に統括した例として、小澤征爾指揮ボストン交響楽団の録音を挙げておきたい。小澤はボストンと組んでマーラーの全集を録音しているが、この曲の演奏は素晴らしい水準ではないだろうか。第4〜6楽章の完成度は極めて高く、小澤という指揮者の驚異的な集中力を堪能することができる。ジェシー・ノーマンのソプラノもこの頃が絶頂期であった。

マーラー:交響曲第4番さて、「交響曲第4番」は、マーラーの交響曲の中で最も明るく、軽快で伸びやかな作風の仕上がりで知られている。実際、初めて聴く人は「これがマーラー?」と思ってしまうほど、他の作品とは異なった雰囲気を醸し出している。そのような「明るいマーラー」の演奏として、ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウの録音を挙げておきたい。ハイティンクはこの曲を4回録音しているようだが、ここでは1967年の最初の録音を推したい。マーラーの場合、合唱や独唱が当然ながら重要となるが、この曲の有名な終楽章のエリー・アメリンクのソプラノ独唱はお見事と言うほかない。(ハイティンクといえば、1995年の第二次世界大戦終結50周年の際、ドレスデンの教会で『復活』を指揮し、その模様がヨーロッパのラジオで中継されたことがあった。廃墟と化したドレスデンの街の「復活」を祝う式典である。私はパリの狭い部屋でその演奏を聴いていたが、演奏終了後、拍手はなく、人々が静かに立ち去って行く音がかすかにラジオから聴こえて来たのが印象的であった…。)

マーラー:交響曲第5番今回の最期は「交響曲第5番」である。第4楽章「アダージェット」のおかげで、すっかり有名になった曲であるが、他の楽章も素晴らしい出来であり、また、長さ的にも適度なもので、1番と並んで最も薦められるマーラーの交響曲と言えるだろう。名演が多い中で、私が推したいのはジェームズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏である。これもレヴァインの若い頃の録音ではあるが、オーケストラを完璧に統御し、隙というものを全く感じさせない、超高精度の演奏を実現している。この時点で既にこの指揮者が大物であるということが如実に窺える演奏であった。特に第5楽章の仕上がりは見事なものであり、これだけでも聴く価値があると言える。

今回はここまでにしておこう。もちろん、アバドやブーレーズの指揮するマーラーがお好みの方もあろうし、サイモン・ラトルなどの最近の指揮者の名前が入っていないことに不満もおありとは思うが、飽くまで筆者の好みなのでご勘弁願いたい。この続きは来年掲載する予定である。




不知火検校@映画とクラシックのひととき

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2010年12月07日

音楽で観るフィギュアスケート 2010-2011 The Up-And-Comers!

またまたこの投稿を書く季節がやってきました。オリンピックが終わって、今シーズンはトップ選手が引退したり競技に出なかったりするなか、若いスケーターたちが試合に次々登場しています。なかでも男子シングルはショートプログラムから4回転ジャンプを取り入れる積極的な選手が増えて活気があります。今回は、ショートプログラムで印象的な音楽を使用している若手の男子選手を何人かご紹介しましょう。


Moanin' by Art Blakey, Drum Thunder Suite by Art Blakey - Kevin REYNOLDS (CAN)

reynolds.jpgピノッキオみたいな少年だったカナダのレイノルズ選手も身長がぐんと伸びて大人っぽくなり、アート・ブレイキーの渋いジャズも似合うようになりました。彼は今季4回転ジャンプをショートで2回、フリーで3回入れるという驚異的なプログラムを予定しています。ジャンプが全部決まったら、技術点はすごいことになりそう・・ もちろんこのショートはジャンプだけでなく、彼の長い手足とジャズの雰囲気を活かした振付けも楽しめるプログラムです。昨季はカナダ選手権で3位に終わり、残念ながら地元バンクーバーのオリンピックに出場することができませんでしたが、今季はカナダの2番手に上がってきそうな勢いです。

Kevin REYNOLDS's 2010 short program


Selection of music by Pink Floyd- Artur GACHINSKI (RUS)

gachinski.jpgプルシェンコ以降の選手が伸び悩んでいるロシアにとって、今季のニース杯、フィンランディア杯で立て続けに優勝したアルトゥール・ガチンスキー選手は希望の星だといえるでしょう。弱冠10歳で3回転アクセルを飛んだ彼は、幼い頃から周囲の注目を集めていましたが、今季本格的にシニアの競技会にも出場してきました。ショートプログラムで使われているのはピンク・フロイドの曲を編集したもので、キャッシャー?の音で曲が始まりその音で終わるという、ちょっと変わった構成の音楽です。その独特の音楽に負けず劣らず自己主張の強い彼のスケーティングには、すでに王者のプライドが感じられます。名前も強そう・・

Artur GACHINSKI's 2010 short program


Histoire d'un amour, Nu Pogodi (Russian cartoon soundtrack) - Javier FERNANDEZ (ESP)

fernandez.jpg珍しくスペインから頭角を現してきたハビエル・フェルナンデス選手。バンクーバーでもすでにその表情豊かな演技が観客に人気でした。今季のショートプログラムでは高橋大輔選手と同じ曲を使っていますが、アプローチが全く違って面白い。彼は「ヌ・パガヂー」というロシアのアニメのキャラクター(ちなみに彼のコーチはロシアのニコライ・モロゾフ)になりきって踊っていて、このハデハデな衣装もそのアニメからの引用らしいです。コミカルなポーズやステップが満載のこのプログラムで、今季も会場から大きな歓声を浴びています。高橋選手の色男路線も音楽をうまく活かしたプログラムですが、こちらも一見の価値ありです。

Javier FERNANDEZ's 2010 short program


White Legend by Petr Tchaikovski, arranged by Ikuko Kawai - Yuzuru HANYU (JPN)

hanyu.jpg今季ジュニアからシニアへと上がってきた羽生結弦選手。普段は穏やかな16歳の少年ですが、ひとたびリンクに上がり川井郁子さんの艶やかなヴァイオリンにのせて滑り出すと、表情が一変してまるで歌舞伎の女形のような妖しさです。けれども彼の長所はそのルックスだけではなく、4回転ジャンプもプログラムに取り入れる実力の高さと度胸の良さ。手足が長く顔が小さい、そしてこの演技力と技術力ですから、現時点では次のオリンピックへの最有力候補のひとりといってもいいでしょう。ちなみにこの曲にぴったりな彼のロマンティックな衣装はあのジョニー・ウィアー選手がデザインしたもの。そのうち彼は「和製ジョニー・ウィアー」とか「氷上の玉三郎」とか呼ばれちゃうのだろうか・・

Yuzuru HANYU's 2010 short program


Primavera Porteno by Astor Piazzolla - Denis TEN (KAZ)

ten.jpgバンクーバー・オリンピックで11位に入り、注目されたカザフスタンのデニス・テン選手。今季はフランク・キャロルに師事し、練習拠点をロシアからアメリカへ移しました。アストル・ピアソラのタンゴを使ったこのショートプログラムは、ステファン・ランビエールが振付けしたものです。今季はジャンプに精彩を欠き、競技会では苦戦していますが、それでもプログラム後半のステップに見られる彼の熱いパッションは、ピアソラのバンドネオンの音にぴったりで、やはり観るに値するものだと思います。ぜひ世界選手権にも出場して、より完成度の高いプログラムを披露してもらいたいですね・・

Denis TEN's 2010 short program


amodio.jpgBroken by Lisa Gerard, Apologize by Taio Cruz, Imma Be by Black Eyed Peas, Don't Stop Til' You Get Enough by Michael Jackson - Florent AMODIO (FRA)

昨季のフランス選手権で第一人者のブライアン・ジュベール選手を抑えて優勝し、オリンピックでは12位、世界選手権では15位の成績を収めたフローラン・アモディオ選手。今季のグランプリシリーズでは NHK杯で3位、フランス大会で2位となり、グランプリファイナルへ駒を進めました。マイケル・ジャクソンの曲も取り入れたこのプログラムでは、めまぐるしく変化するスケートで私たちの視線を釘付け。そのアピール度の高い演技は、かつて日本でも人気だったフィリップ・キャンデローロ選手を彷彿とさせます。ただしエンターテインメント性の高い振付けだけでなく、ジャンプもきっちり飛んでくるのが彼の強み。それにしてもフランスには次から次へと個性的な選手が登場してきますね。

Florent AMODIO's 2010 free skating


北京で行われるグランプリファイナルにはアモディオ選手が出場します。日本の3選手ともども活躍を期待しましょう。


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2010年12月05日

< ケーク・サレ > cake salé

文字通り塩味のケーキですが、近頃ちょっとしたブームのようです。
温かいスープと一緒に朝食としていかがでしょうか。
ワインのお伴にもぴったりです。
ソーセージやチーズ、火を通した野菜、お好きなものを入れてどうぞ。

cakesale01.JPG

*材料*(18pのパウンド型 1台分)
※型にはクッキングペーパーを敷き込むか、内側にバターを薄く塗って強力粉をはたいておく。

卵                 ・・・2個(Lサイズ)
牛乳                ・・・70ml
エクストラ・バージン・オリーブオイル・・・50g
パルメザンチーズ(すりおろしたもの) ・・・80g
薄力粉               ・・・100g
ベーキングパウダー         ・・・小さじ1
エリンギ              ・・・2本
ベーコン              ・・・厚めのもの2枚
ドライトマト(セミドライトマト)  ・・・2〜3枚
イタリアンパセリ(みじん切り)   ・・・大さじ2

*作り方*
1.ドライトマトはぬるま湯でもどして、粗みじん切りにする。
  (セミドライトマトならそのままで粗みじん切りにする。)
2.ベーコン、エリンギは1p角に切る。フライパンを熱してベーコンを炒めたら、お皿など
  に出しておく。同じフライパンでエリンギを炒め、軽く塩・コショウをして同じくお皿な
どに取り出しておく。
3.卵をボールに割り入れ、泡立て器でほぐしたら、牛乳を合わせてよく混ぜる。
4.エクストラ・バージン・オリーブオイルを加えて混ぜる。
5.チーズのすりおろしを加えて混ぜる。
6.トマト、ベーコン、エリンギ、パセリを加えたら、ゴムべらにかえて混ぜ合わせる。
7.薄力粉とベーキングパウダーを混ぜてざるなどでふるい入れ、さっくりと混ぜる。
8.180℃に余熱しておいたオーブンに入れて40〜50分焼く。
  焼きあがったら型から外し、網の上などに出して冷ます。

食べる時に温め直して食べると美味しいです。




mandoline@かんたんフレンチレシピ

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2010年12月02日

11月の一曲 Juliette Gréco “Accordéon”(1962)

冬の始まりに、シャンソンを選んでみました。若きセルジュ・ゲンスブールの作。哀愁のメロディーに軽快なアコーディオン、といかにもフランスでなければ出せない音で音楽としてだけでも楽しめるのですが、歌詞カードを見ながら聴くともっとおもしろい。

greco01.jpg街を流して歩くアコーディオン弾きが相棒のアコーディオンと別れるまでの歌です、というとなんだかセンチメンタルに聞こえますが、これが実にサツバツとしています。

まず、この歌のアコーディオン弾きは、生きるためにきゅうきゅうとしている。演奏するのはパンを稼ぐためで、路上であっても自分の音楽を思うがままに演奏できればシアワセ、というハッピーなストリートミュージシャンとはほど遠い。

アコーディオン弾きと楽器との間もきれいごとなしで生々しい。へべれけの時も、豚箱に放り込まれる時も一緒。「楽器のボタンを壊してしまったら上着のボタンを取って間に合わせ、ズボンがずり落ちないように楽器のベルトを拝借したりする」というフレーズは、楽器と人とのいい関係というより、長年連れ添った男女の仲のような生身の近しさを感じさせます。

だからこそ、別れのそっけなさには驚かされます。ある日突然、ただ同然で古道具屋に売り飛ばされるアコーディオン。弾けなくなったかららしい、というぐらいしか理由は明らかにされませんが、この「急転」が歌を深いものにしています。どんなに濃いつきあいも、思いがけなく終わりが来るもの―そんな醒めた感じが、いかにもゲンスブールらしい。

一方で、やさしい情景も織り込まれています。「静かな夜が過ぎて朝がくると、アコーディオン弾きはアコーディオンの肺を少し膨らませてやる」というフレーズは、白く明けてゆく街角で独り小さく音を鳴らす男の姿を描くだけでなく、男とアコーディオンとの静かな対話を見守るゲンスブールのまなざしを感じさせます。

お得意のコトバ遊びも光ります。「どうぞアコーデオンにお恵みを(“Accordez Accordez Accordez donc / l’aumône à l’accrodé l’accordéon”)」というリフレインは、フランス語の「アコーディオン」の音とダブるようにしつらえてあります。こういった離れ業をさらっとやってのけるところも、にやりとさせられます。

コンパクトで密度の濃い曲なので、グレコのように気を入れて歌わないと上手くいかないようです。手振りを交えてシアトリカルに歌うバージョンでどうぞ。

http://www.youtube.com/watch?v=Uad03ciLaPo




GOYAAKOD@ファッション通信 NY-PARIS

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2010年12月01日

「コラ・ジョーンズ」またはクリスマスのフィクション

12月になると聴きたくなるクリスマスアルバムが何枚かある。そのうちの一つが、イギリスの音楽雑誌『Mojo』の付録として出された『Mojo Blue Christmas』、2005年発表のオムニバスだ。ジャズやモータウンの古典的音源から、最新の楽曲まで取り混ぜて、全15曲、とても充実した内容だった。パリのメディアテークで見つけてコピーした音源が、今でも手元に残っている。

とりわけ、ニール・カサールの「コラ・ジョーンズ」(Cora Jones)は、聴くたびに胸を打たれる。カサールはカントリー系のシンガーソングライターで、12歳で殺害されたウィスコンシンの少女を追悼して、この曲を作った。コラはクリスマスが大好きな女の子だったが、ある日自転車で出かけたまま帰ってこなかった。側溝で遺体が見つかるが、「新聞によると、犯人はいまだ捕まらず、行方も知れないままだ」。

  プレゼントはかわいい白いリボンで包まれ
  大きなツリーは輝き、犬は寝ている
  だけどコラがいない今年のクリスマスはいつもと違う
  なぜ彼女が一緒じゃないのか、僕には分からない

そして、最後にカサールは「きよしこの夜」のメロディーを力強いファルセットで歌って曲を締めくくる。だが、慣れ親しんだ賛美歌のメロディーは、慰めである以上に、諦めにも聞こえてしまう。なぜなら、この曲は、ある意味で、神への大きな問いに触れているからだ。このような理不尽な暴力がどうして許されるのか。クリスマスは神の子イエスの生誕を祝う日だが、イエスは本当に世界を救ってくれたのか、という鋭い問いが突き刺さってくる。

コラ・ジョーンズは、1994年9月5日に行方不明になった。地元警察と数百人のボランティアが捜索にあたった。FBIも捜査に乗り出し、5日後にコラの遺体が見つかった。ところが、先日発見したサイトによると、カサールの曲とは異なり、実際には犯人はすぐに判明したらしい。別件の強盗事件で逮捕されたデヴィッド・スパンバウアーの車を調べたところ、カーペットの繊維が、コラの遺体に付着していた繊維と一致したのだった。捜査当局は、コラは何らかの手段で彼の車に連れ込まれて刺殺されたと断定した。

このスパンバウアーは連続殺人犯で常習的レイプ犯だった。すでに数十年を監獄で過ごし、出所したばかりだったが、即座に強盗と強姦と殺人に手を染めた。まさにnatural born criminalとしか言いようのない男である。最終的に懲役403年という途方もない判決を下されるが、2002年に61歳で病死した。

僕が疑問に思うのは、なぜカサールは「犯人の行方は分からないまま」と歌ったのかということだ。「コラ・ジョーンズ」の制作年が、手元にCDがないために判然としないのだが、もし2005年のコンピレーションのために制作されたとすれば、あまりに杜撰である。もし事件の直後に作曲したとしても、わずか数ヶ月後には犯人が逮捕されているのだから、カサールは曲を発表するまでには、スパンバウアーの存在を知っていたはずだ。

もし事実を知ったうえで、このような歌詞を書いたのだとすれば、その意図は何だろうか。そこには、一人の少女の死を悼む気持ちと、クリスマスらしい感傷的な気分に訴えたい気持ちが、混在していたのかもしれない。連続殺人犯の仕業だった、では、生々しすぎて、歌の焦点がぼやけてしまう。というのも、この「コラ・ジョーンズ」が感動的なのは、子供を殺されるという誰も納得のできないこの世の不条理と、幸福感を押しつけるようなクリスマスの雰囲気との間にある緊張を捉えているからだ。

歌の力は、フィクションの力と言っていい。ニール・カセールの歌は、子供の無差別殺人に象徴される世界の理不尽さにテーマを絞ることで、クリスマスの意味を考えさせてくれる。映画では、最近「実話を基にした」ことを感動の根拠にするようなコピーが目立つが、「基づく」ということは「事実である」ということではない。観終わった後に、本当にこんなことがあったのか、という感慨に浸りがちだが、自分の感動の理由を分析するためにも、あくまでフィクションとしての出来映えを評価しなければならない。今年のクリスマスをひかえて、新たに判明した事実を前に、僕はあらためてそんなことを考えている。

http://www.trutv.com/library/crime/serial_killers/predators/david_spanbauer/8.html



bird dog@すべてはうまくいかなくても

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2010年11月28日

『ノルウェイの森』を観る前に(4)

アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン 通常版 [DVD]トラン・アン・ユン監督は、過去にFBNでも『夏至』と『シクロ』を取り上げたほど、個人的に大好きな映画監督の一人です。『ノルウェイの森』の前に何か一作観るとしたら、今回はあえて『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009)を挙げます。「あえて」と言ったのは、この作品がトラン作品のなかではあまり評判がよろしくないからです。それは物語が観念的、キリスト復活のモチーフがわかりにくい、という理由だけでなく、ハリウッドやアジアの映画スター、さらには木村拓哉まで出演させたという「派手な外見」が「監督らしくない」と思われたからかもしれません。

『夏至』が2000年に公開された後、この作品についてのプロットや出演者の情報は早くから発表されていたにもかかわらず、なかなか製作まで至らず、結局公開されたのは9年後でした。そしてその9年の間に、トラン監督は念願の村上春樹氏との会談を果たし、シナリオを練り上げ、『ノルウェイ・・』製作の準備を並行して進めていました。つまりこの2作品は非常に近い時間のなかで製作されたわけですから、『アイ・カム・・』には『ノルウェイ・・』につながる監督の最近の方向性が見られるかもしれません。

『アイ・カム・・』には「現代のキリスト」のイメージとして木村拓哉演じるシタオという青年が登場します。彼は他人の苦痛を吸い取る(それゆえ吸い取った自分はその苦しみに耐えなければならない)特殊な能力の持ち主で、このシタオを見ていたら『ねじまき鳥クロニクル』の登場人物で、ありとあらゆる苦痛に耐えなければならなかった加納クレタという女性を何だか思い出しました。姿を見せない父親の依頼による行方不明の息子(シタオ)を探す探偵、その探偵のトラウマとなっている猟奇的殺人、マフィアの男がふりかざす絶対的な暴力、などこの映画に現れるモチーフはどこか村上作品に出てきそうなものばかりですが、トラン監督は『ノルウェイ・・』を撮影するまで他の村上作品を読まないようにしていたそうだから驚きです。村上氏も、もともとトラン監督の映画が好きだったそうですから、この二人はやはりどこか通底する部分を持っているのでしょう。

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2010年11月25日

『ノルウェイの森』を観る前に(3)

花様年華 [DVD]トラン・アン・ユン監督の作品にかかせないのが、えも言われぬその映像美。『ノルウェイの森』についても、スチール写真を見るだけで、ため息が出るくらいです。今回撮影監督を務めたのは台湾出身のリー・ピンビン。トラン監督とは『夏至』(2000年)以来、2度目のタッグです。『夏至』で表現された、濡れたような透明感あふれる映像は、作品の内容と絶妙にマッチしていましたが、今回でもその手腕を存分に発揮しているようです。

リー・ピンビンは主にホウ・シャオシェンなどアジアの監督と組んですばらしい仕事を続けてきました。日本の作品でも、三島由紀夫原作、行定勲監督の『春の雪』や、是枝裕和監督の『空気人形』などに参加し、やはりはっとするような美しい映像を残しています。どの作品の撮影も捨てがたいのですが、一作挙げるとすれば、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華(かようねんか)』でしょうか。

ともに伴侶がいる男女の秘めた恋愛を描いたこの作品では、暗めの渋い色調の映像が展開され、日本版ポスターに使われた写真からもわかるように、特に赤い色が印象的です。マギー・チャンとトニー・レオンという美男美女のカップルをバックで彩るこの赤い色は、控えめではあるけれども深く濃厚な色合いで、大人同士の許されぬ恋の官能性を強調しているかのようです。

ウォン・カーウァイの美意識に応えた完成度の高いこの映像の効果もあってか、この作品はフランスでも一大ブームとなりました。マギー・チャンの着こなす美しいチャイナ・ドレスもすばらしく、まさに目の保養となる映画です。

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2010年11月23日

高校生さえもデモをするフランスの現状と将来

サルコジ大統領の強行突破を契機に年金改革に反対するデモは収束しつつあるとはいえ、昨日22日も5つの組合が依然としてデモを呼びかけていた。今回のデモでは高校生が参加したことが話題になっていたが、それは今に始まったことではない。高校生たちは2006年のCPE(若者雇用促進策「初期雇用契約」)に反対するデモにおいても重要な構成メンバーだった。

仏メディアTF1で「若者を苦悩させる未来」(Cet avenir qui angoisse les jeunes)という特集があった。INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、彼らは親の世代よりも生活水準が悪くなる初めての世代である。セゴレーヌ・ロワイヤルが彼らを煽ったと批判されたが、彼らは政治組織や組合に命令されて声を上げたわけではない。若者のあいだには危機意識が広がり、怒りと不安にかられて叫んでいたのだ。教育費は無料だが、教科書代を払うためにテレビの中の18歳の女子高生は週末にアルバイトをしていると言っていた。

1968年のときのように若者たちは「革命」をスローガンにしていたわけではない。多くを望んでいるわけでもないし、起こっていることに対して幻想を持っていたわけでもない。定年と安全と雇用に関して自分の置かれた不安定な身分について訴えていただけだ。先の女子高生は生き残れるかの問題だと言っていた。

若者の失業率は23%。日本と同じように、学生は既成のルールにしたがい、大学に入り、さらに大学院に上がり、学業を積み重ねても仕事は遠ざかるばかりだ。テレビに映し出されるシューカツの熾烈な光景は日本と同じで、それは中世の騎士の聖杯探しにたとえられていた。つまり果てしのないドラゴンクエストだ。しかし何もやらないわけにはいかない。何の卒業(修了)資格もない場合、失業率は40%に跳ね上がる。

最後に登場した30歳の若者は社会学の博士論文も書き、やることはすべてやったと言う。3年間研修で働き(奴隷のように安くこき使われた)、その後も職を転々としたが、もう仕事に幻想を持つことをやめた。バカバカしいゲームから降りて、マージナルに生きることを決めた。今は週末だけ食料品屋で働き、月600ユーロ(約7万円)稼ぐだけ。残りの膨大な自由時間は小説を書いて過ごしている。フランスでもこうやって社会から退却する若者が出てきている。仕事に就くことの社会的な承認やイニシエーション的意味合いはとっくに失われている。

高校生は学生になったら奨学金か親の援助で生活しなければならないし、その先62歳で年金を満額もらうための十分なお金を払いこめないと知っている。さらに彼らは仕事の世界に入るのが難しくなることを覚悟している。仕事の多くは空きが出ないわけだし、公務員に関しては特にそうだ。公務員の削減は加速する一方だから。それでも年金改革に反対するのは、この改革を見過ごしてしまえば、将来さらにひどいことになり、年金をもらう40年後には彼らの大半が犠牲者になってしまうだろうから。もちろん改革に反対しても決定的な解決にはならない。今のまま年金制度を放置すれば、国家財政に重くのしかかる。しかしそれは国家による分配型年金システムを破壊し、純粋に資本主義的な個人年金のシステムに道を開くものでもある。また失業のリスクが高く、競争が熾烈で、税金の負担が大きくなる世界で、仕事を続けなければならない年数がさらに長くなるのだ。

今や国家の制度の破綻に、先進国の若者が共通して大きな影響を受ける。それは国境を越えた共感やつながりの可能性も示唆している。先日もロンドンで、大学の授業料の上限を3倍に引き上げようとする政府・与党に抗議する学生デモがあり、約5万人が集結した。デモの一部が暴徒化し、政府与党の本部を壊して一時占拠する騒ぎになった。戦後最大といわれるイギリスの歳出削減策では、各省庁の予算を平均で19%カットし、このうち大学教育の支出は40%減らそうとしている。一方で先進各国の若者の反応の違いも対照的だ。「UK students protest, US students apathetic イギリスの学生は抗議し、アメリカの学生は無関心」というアメリカの動画ニュースもあった。「彼らはフーリガンではありません、授業料値上げに反対するイギリスの学生たちです!」という驚きとともにアメリカの人々に紹介している。

グローバリゼーションは世界をひとつのマーケットに統合していく。すでに各地域、各国のマーケットはつながっていて、石油、穀物、工業製品の値段が世界規模のマーケットの中でひとつの価格に収斂していく。それが先進国においてデフレという現象に顕著に現れている。モノの値段が上がらず、賃金が上がらない。企業は利益が上がらず、値下げ競争だけを強いられる。これは貨幣供給量や国内需要の問題ではなく、同じモノや労働力に対する対価、つまり価格や賃金が、基本的に世界の同じ額に収斂していく動きだ。これは中国を初めとする新興国が先進国中心の市場に生産基地として組み込まれた結果であり、先進国共通の問題になっている。つまり自分たちとは関係のない遠い国のことだと思っていた貧困問題が、自分たちの現実に入り込んできたことでもある。企業が資金の余裕を得たとしても、賃金水準の高い日本国内で人を雇い、事業を拡大しようとは思わないだろう。海外の投資に振り向けるだけで、国内の雇用の増加と賃金の上昇には結びつかない。すべてはそういう大きな潮流の中にある。





cyberbloom

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2010年11月18日

『ノルウェイの森』を観る前に(2)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]『ノルウェイの森』の音楽を、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが手がけると聞いたとき、大げさですが「奇跡」が起きたように感じました。レディオヘッドのフロント・マン、トム・ヨークは村上作品のファンだそうだし、村上氏も『海辺のカフカ』で主人公のカフカ少年が聴いている音楽として挙げるくらいレディオヘッドを愛好しているようだし、トラン・アン・ユン監督もこれまでの作品のサントラにレディオヘッドの曲を使っているし、三者は相思相愛状態なのはわかっていたのですが、まさか映画作品の音楽全体を本当にバンドメンバーが担当するとは思ってもみませんでした。何でもジョニー・グリーンウッドは最初にオファーを受けたとき断っていたらしいですから・・。

そういう夢のサントラが実現したのは、ジョニー・グリーンウッドが過去に音楽を提供した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の存在があったからなのは確実でしょう。彼が初めて音楽を手がけたこのメジャーな映画作品は、ポール・トーマス・アンダーソンという一癖も二癖もある監督によるもので、油田に取り付かれた強欲な男と、彼に土地を奪われた狂信的な牧師の青年との確執が描かれたものです。映画の重苦しさに負けぬほど、緊張感に満ち、不安をかきたてるジョニーの抽象的な音楽は、ロック・ミュージシャンが映画のサントラを担当したものでも、今までに聴いたことのないような非常に特異な音で、物語ともども深く印象に残りました。158分という長さで、内容的にも鑑賞にエネルギーを要する映画ですが、見応えは十分ですので、音楽ともどもじっくり味わってみてはいかがでしょうか。

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2010年11月17日

『ノルウェイの森』を観る前に(1)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)村上春樹原作、トラン・アン・ユン監督による『ノルウェイの森』がいよいよ12月11日に公開されることになり、各メディアでも頻繁に取り上げられるようになってきました。原作で、監督で、出演俳優で、などいろいろな理由で公開を楽しみに待っておられる方も多いことでしょう。ワクワクしながら待つ時間をもっと楽しんでもらえたらと、この映画に関連するいくつかの作品を集めてみました。

村上作品のファンであれば、原作はもちろん他の著作もたくさん読んでおられることでしょうが、一方でこれから読もうかなと考えている人も多いかと思います。原作は長編なのでなかなか手が伸びない、という方には短編集『蛍・納屋を焼く・その他の短編』をまずおすすめします。それは、短編集のタイトルにも含まれている『蛍』という短編が、後に長編化されて『ノルウェイの森』となったからです。

『蛍』は『ノルウェイの森』の冒頭部分と物語がほぼ共通しており、『蛍』の登場人物「僕」「彼女」「同居人」は、それぞれ『ノルウェイの森』での「ワタナベ」「直子」および「突撃隊」にあたっています。登場人物に固有名詞が与えられず、シンプルな文章で書かれた短い物語であり、短い作品であるがゆえに「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」という一文が全体に大きく響く ー 『蛍』は『ノルウェイの森』のエッセンスを抽出した作品だとも言えるでしょう。

「僕」と「彼女」との静かで物悲しいやり取りをバランスよく中和するように、「僕」と「同居人」とのエピソードが配置されているのもこの短編の魅力のひとつです。映画では「同居人」ー「突撃隊」を演じるのは柄本時生(柄本明の息子さん)で、スチール写真を見る限りではイメージにぴったりです。


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