2008年06月28日

新作映画情報「イースタン・プロミス」

eastern_promises.jpgカナダ出身で、フランスでも人気のあるデヴィッド・クローネンバーグ監督の新作「イースタン・プロミス」を観に行きました。フランスの映画誌「カイエ・デュ・シネマ」の読者が選んだ2007年度映画トップ10で第4位になった作品(*)です。


舞台はロンドン。赤ん坊を産んで死んだ身元不明のロシア人少女タチアナの家族を捜す助産師のアンナ(ナオミ・ワッツ)は少女の残したロシア語の日記に挟まっていたロシア料理店のカードを見つけ、その支配人セミオン(アーミン・ミューラー=スタール)に会う。セミオンは家族を捜してやるから日記を渡すようアンナに言うが、実は彼はロシアン・マフィアのボスで、タチアナの日記にはセミオンとその息子キリル(ヴァンサン・カッセル)が彼女に対して行った非道な行為の数々が書き連ねてあったのだった。セミオンの正体を知りつつも、果敢に彼と渡り合おうとするアンナは、交渉の際にキリルの運転手である謎めいた男ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)と関わるようになる・・


eastern1.jpg暗い色調で覆われたロンドンを背景に、この街のダークな部分に焦点をあてた作品で、抑えた演出のもと、派手な抗争が描かれるわけでもなく、静かに物語は進展していきます。アンナと家族との会話から、彼女がなぜ赤ん坊に関心を寄せるのか自然にわかるようになっているなど、いつもながらクローネンバーグ監督の余計な説明を省いた、無駄のない話の進め方には感心させられます。


この監督の特色としてグロテスクな暴力描写があります。今回も冒頭のマフィア・ファミリーの暗殺シーンをはじめ、目を背けたくなるような過激な場面がところどころ出てきますし、生まれたての赤ん坊を長く映しだすなど、人間の体のなまなましさが随所に強調されています。ところでマフィアがらみの暴力シーンが多いとはいえ、拳銃が登場することはなく、使われるのはナイフのみ。しかしながら、この最も単純な凶器は、人間の体が「肉」であってそれが切り裂かれるときの痛みを文字通り痛烈に感じさせる最も効果的な道具となっています。


暗い内容で悲惨な場面も多い一方で、この映画はそれほど重苦しさに支配されてはおらず、どこかふっと気が抜けるような部分も持っています。それは前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」と同じように、物語が常に一定の距離を置いて冷めた目線で見られているからです。そのためか、笑う余地がないはずなのにどこかおかしさが感じられるシーンがいくつかあり、その代表といえるのがクライマックスのサウナでの格闘場面で、タトゥーだらけの全裸のヴィゴ・モーテンセンが奮闘している姿を見ていると何がどうというわけでもないのに笑いがこみ上げてくるのでした。そのような不思議な雰囲気が全体的に漂う作品でした。


eastern3.jpg「ヒストリー・オブ・バイオレンス」でも主人公を好演していたヴィゴ・モーテンセンが、今回もニコライという謎めいた人物を非常にシブく演じていました。彼はクローネンバーグと相性がよいようで、個人的には「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン役よりもクローネンバーグ作品の配役のほうが断然魅力的に感じました。また「ドーベルマン」「オーシャンズ12」などでおなじみのフランス人俳優ヴァンサン・カッセルが、どうしようもないマフィアのドラ息子役で出演しています。酒浸りで、売春婦をモノ扱い、手下のニコライに無理難題を言いつける、ホモと言われて激怒するが多分にその要素を感じさせる、という役どころを実にいやらしく演じていて、こちらも印象的でした。





*ちなみに第1位はジャ・ジャンクーの「長江哀歌」、第2位はガス・ヴァン・サントの「パラノイド・パーク」(批評家による投票では第1位)、第3位はデヴィッド・リンチの「インランド・エンパイア」でした。


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posted by exquise at 02:52| パリ ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | extra ordinary #2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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