今年のカンヌ映画祭の審査委員長、ショーン・ペンが、実在した青年クリス・マッキャンドレスを主人公に監督した映画「イントゥ・ザ・ワイルド」を観ました。大学を優秀な成績で卒業したクリス(エミール・ハーシュ)は、自分の預金のほとんどを慈善団体に寄付し、家族に黙って家を出る。乗っていた車が鉄砲水で駄目になると、ヒッチハイク旅に切り替え、行く先々で様々な人びとと出会う。彼らは皆クリスに好意を持ち自分たちと一緒にいるようにすすめるが、彼はアラスカへ行くと言って、ひとり旅を続ける。最終的に彼が行き着いたのは、荒野に乗り捨てられた「魔法の」バスだった・・
物質至上主義に嫌気がさし、文明的なものから遠ざかり自由に生きるために旅に出たというクリスの物語は70年代頃のことかと思っていたら、90年代初頭という比較的最近の話であって、実は彼と私は同世代であったことがわかりました。彼が思春期を過ごした80年代後半は、日本でバブル経済が全盛であったように、アメリカにおいても物質主義と快楽主義の時代であり、繊細な神経の持ち主であったクリスにはそれが耐えられなかったのかもしれません。しかしながら、どんなに彼がもがいても消費社会や文明から逃れることはできません。それは彼が旅費稼ぎのためにところどころでするアルバイトの風景ー巨大な機械で行う麦の刈り入れや、ハンバーガーのチェーン店での大量生産ーに端的に表れています。彼が最後にたどり着いた場所が洞穴などではなくバスだった、ということも象徴的です。
彼と同じ年代のときに、そして90年代にこの映画を観ていたら、クリスの立場で共感を覚えることができたかもしれません。けれども彼よりも相当年上になり、方々で経済破綻のニュースが聞こえる今では、時代に流されまいとするその生き方がうらやましく思える反面、彼が無鉄砲でひとりよがりな考えの持ち主にも見えてしまいます。私には彼よりも彼が旅先で出会う人びとー「家族はこのことを知っているのか」とたずね、つかの間であっても彼の家族たらんとする人びとーのほうに共感を覚えました。そしてそれを証明するかのように、彼がひとりで生きようとする場面よりも、さまざまな人びととの交流のエピソードのほうが心に残りました。とはいえこれは個人的な一つの見方であって、観る人の年代や立場によって感想はさまざまでしょう。映画はクリスに対して賞賛も批判もせず、一定の距離を置いて客観的にとらえているので、色々解釈が可能な作品だといえます。学生の人たちがこの映画を観てどういう感想を持つのかぜひ聞いてみたいです。
俳優出身の監督だけあってか、キャスティングはすばらしかったです。クリス役のエミール・ハーシュは清潔感のあるこの若者を爽やかに演じていましたし、また女優陣がことさら魅力的で、母親役のマーシャ・ゲイ・ハーデンをはじめ、雰囲気のある女性たちが次々と登場する映画でした。しかし最も印象的だったのは、アカデミー助演男優賞候補にもなったロン・フランツ役のハル・ホルブルックです。クリスとロンの別れのシーンはこの映画のクライマックスでもあり、老人の流す涙にこちらも涙腺が大いに刺激されました。「イントゥ・ザ・ワイルド」オフィシャルサイト
exquise@extra ordinary #2
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