最近のハリウッド映画はある程度当たりが見込めるシリーズ物が多い。確かにスーパーヒーロー物の2や3が目に付く。しかし当たることを意識したヒーロー物とは明らかに違う仕上がりなのがこのダークナイトだ。邦題もダークナイトだけ、何の映画だかわからない。「暗い夜」なのか「闇の騎士」なのかー。バットマンビギンズで派手な路線から原点に回帰したバットマンシリーズの最新作なのだが、バットマンと冠に抱かないタイトルからもわかるようにこれはバットマンの映画ではない。これはジョーカーの映画なのだ。
惜しくも薬物死したヒース・レッジャー演ずるジョーカーはまるでシェイクスピアの悲劇に登場する「純粋悪」だ。しかも悪を背負った自分に対する悲しみー幾度となく細部を変えて語られる顔の傷の訳―不気味なメイクを通しても強烈に伝わる色気と絶望を感じさせる目の演技。
作品自体もヒーロー物の枠を超えた複雑で重厚な悲劇に仕上がっている。シェイクスピアの悲劇、オセロの悪役イアーゴーがなぜオセロを陥れたいのか自分でもわからないように、ジョーカーが何を目的として悪行を重ねるのか、見る者は理解不能なままその悪逆非道に翻弄される。
金が目的で、悪の世界で名を上げたいー最初はありがちな目的かと思われた、顔に消えない笑顔を刻まれた男。しかしそんな判断はすぐ覆される。仲間内からも「狂犬」と呼ばれるジョーカーは策を弄して手にしたはずの山と詰まれた金に惜しげもなく火を放つ。
ただ自分の前に立ちはだかるバットマンが憎い。しかし殺したいのではなく彼の意思をくじきたい。一番大事なものを奪って苦しめたい。「お前は俺のおもちゃだ」―その一言が彼の存在理由のヒントかもしれない。イアーゴーが嫉妬に狂うオセロを見て楽しむように、バットマンが守りたいと願う人の心の善き部分を人質に、究極の選択を迫る。
対するバットマンは純粋善ではありえない。その心の葛藤を映画は二人の騎士を登場させて表す。バットマン(C・ベイル)=正体を明かさない闇の騎士。表看板=光の騎士 (A・エッカート)。人々とバットマンの希望を背負った光の騎士は、ジョーカーの仕掛けた残酷な罠にはまりひどい火傷のトゥー・フェイスとなり、悪と化す。落ちた光の騎士をバットマンはどうするか。
ビギンズで原点に帰ったバットマンはジョーカーという敵役を経て初めて闇にこそ生きる騎士となる。表と裏、闇と光、善と悪、全ては対照ではなく混在する。哲学をも感じさせる作品となった。前前作のように派手で楽しい作品を期待してきた観客は???となってしまうだろう。闇と光二人の騎士に愛されるヒロインがずいぶんと地味なのも、悲劇にはふさわしいのかもしれない。
故人の受賞として史上二人目となったアカデミー助演男優賞。それを言うのもむなしい、惜しい才能が失われた。
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ヒース!オスカー受賞おめでとう
正義と悪の物語
これ以上のバットマンは無いです。
アメコミ・キャラは進化する。
狂気のエンターテイメント黒カナリア@こんな映画あんな映画
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