ある時。ベトナムに暮らす貧しい姉弟の悲劇を描いたある映画を観ていると、これから身を売ろうとする姉が客を待っているディスコで、英語の曲がかかっていました。切ないメロディーとヴォーカル、そしてその甘さを切り裂くような激しいギターのカッティングがときおり響くその曲は、その映画が当時まだよく知らなかったトラン・アン・ユン監督の「シクロ」という作品であることがわかっても、誰の何の曲なのかわからぬままでした。
またある時。キャメロン・クロウ監督の「バニラ・スカイ」の冒頭で主演のトム・クルーズが目覚める場面で、"Open your eyes" というフレーズとともに不思議な曲が流れてきました。その直後に続く誰もいないニューヨークの街を映した非現実的な場面とともに、(映画自体はそれほど面白いとは思わなかったけれども)この音楽は記憶に強く残りました。しかしこの曲はオリジナルサントラだと思っていたので、あえて深く作曲者だとかを追求することはありませんでした。
そしてまたある時。村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ後で、カフカ少年が闇の中で聴いていた音楽が知りたくなり、この実在するロック・グループのアルバムを探しだしてプレーヤーにかけたとき、スピーカーから流れてきた最初の音は、「バニラ・スカイ」のあの曲でした。そしてどんどんこのバンドの曲を聴いていくうちに、「シクロ」で気になっていた曲が、彼らの大ヒット曲 "Creep" であることもわかったのです。
その後彼らの曲やこれまでの歩みを知るにつれて、レディオヘッドは自分にとってとても重要な存在となりました。聴くたびに胸を打たれる美しく重みのある旋律と歌詞、常に実験精神を忘れない姿勢、ヴォーカルのトム・ヨークをはじめメンバーの人となり、など彼らの魅力を語れば切りがないですが、音楽的な情報源とは別なところから知ったこともあり、ほかの好きな人々とは違う特異な位置を占めるようになりました。彼らの曲を聴くときは、しばしばその曲が引用された映画(注2)や小説、また彼らがコラボレートしたアーティストたちの作品が浮かんできます。つまり、私にとってレディオヘッドの音楽は、分野を問わず他の作品やアーティストへとつながる中継地のような存在でもあるのです。
さて先日、今年のサマーソニック出演者の紹介番組を見ていたら、気怠くてどこか懐かしい感じのする音が、おそらく中国人と思われるカップルを扱った退廃的な映像とともに流れてきました。それは DJ Shadow の "Six Days" という曲で、もう4年も前のものでした。そのプロモーション・ヴィデオ(PV)が何だかウォン・カーウァイみたい、と思って調べてみたら本当に彼が監督したものでした(注3)。DJ Shadow は、U.N.C.L.E. という別のユニットでも活動していることもわかったのですが、その U.N.C.L.E. の PV をすでに1年ほど前にジョナサン・グレイザーという映像作家の作品集で観たことがあり、それは実はトム・ヨークと共作した曲のものだったのです。そしてその PV に登場する、車にはねとばされながらも歩き続ける強烈な人物を演じていたのは、「汚れた血」のドニ・ラヴァン。うーん、レディオヘッドはいろんな所へつながっている・・注1:写真中。村上春樹さんはカフカ少年が聴いていたのはおそらくこのアルバムだと述べています。
注2:最近のフランス映画では、cyberbloom さんのエントリーでも扱われていたセドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」で "No Surprises" が聴けます。
注3:カップルの男性を演じているのは、「ブエノスアイレス」の旅する美青年役が印象深いチャン・チェン。
exquise@extra ordinary #2
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「スパニッシュ」で曲が流れるのは、主人公がもうすぐフランスに帰るころ(ということは映画の終盤)で、街なかを歩いているシーン?だったと思うんですが、うろ覚えですみません。
DJシャドウのPVはアーティストの公式サイトで見ることができますよ。リンク先のページにアドレスがあります。