ガス・ヴァン・サント監督が2003年に発表した「エレファント」(注1)は、ここ数年観たなかで、最も印象深い映画です。

アメリカの高校を舞台に、少年少女たち数名の1日がドキュメンタリー風に描かれます。登場する高校生たちは、部活に情熱を燃やしたり、恋愛とダイエットのことばかり考えていたり、家のことで悩んだり、授業中にいじめられたり様々(注2)ですが、ひどく変わった子が出てくるわけではなく、高校生活でよくある風景が静かに映し出されているように見えます。
少なくとも中盤までは。

静けさを保ちつつも映像が行き着く最後のシーンを、のどかそうな空が映し出される冒頭の時点ではよもや想像することはできないでしょう。それまで私たちが好感をもったり、反感を感じたりした高校生たちが、すべてひとつの事件に、いわば「対等に」巻き込まれ、それぞれの行く末をたどっていく図を見せつけられると、やるせない気分にさせられ、どうしても「不条理」という言葉が頭をよぎります。
観終わったあとでは、この映画がアメリカの高校で実際に起こったある悲惨な事件を題材にしていることがわかるでしょう。けれども作品自体はあくまでも「フィクション」という立場で、特定の高校を名指ししているわけではなく、高校生たちのほとんどはファーストネームのみ、ナレーションも解説も何もありません。一方で、ありふれた日常の場は、ある時突然に、非日常的な空間へと変わってしまい、平々凡々と暮らす私たち誰にでもその体験の可能性がいくらでもあるのだ、という事実を、この極端に寡黙な映像は強く語りかけてくるのです。

同じテーマを扱った映画にマイケル・ムーア監督(注3)の「ボウリング・フォー・コロンバイン」があります。こちらは真正面からこの事件に取り組み、現場や関係者を自ら取材したドキュメンタリーです。しかし、彼独自の考え方に貫かれたその編集方法は、この映画を「ドキュメンタリー」という枠からはみださせるほどで、「エレファント」の対極にある「饒舌な」作品といえるでしょう。
注1:2003年度のカンヌ映画祭に出品されたこの作品は、パルム・ドールとグランプリを同時に受賞しました。監督のガス・ヴァン・サントの作品には、ほかに「ドラッグストア・カウボーイ」(1989)、「マイ・プライベート・アイダホ」(1991)、「グッドウィル・ハンティング」(1997)などがあります。
注2:高校生役で出演した若者たちは、ほとんどが演技経験の少ない素人で、それだけに作品中で彼らが交わしている何気ない会話には、非常にリアルなものが感じられます。
注3:ムーア監督の「華氏911」は、「エレファント」がパルム・ドールに輝いたカンヌで、翌年同賞を受賞しました。
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posted by exquise at 01:24| パリ ☁|
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レンタルしたものの、観る時間がなくてやむなく返却した作品であります。「ボーリング・フォー・コロンバイン」は観たのですが、「エレファント」も一度しっかり観ておきたいですね。ガス・ヴァン・サントの作品はどれも好きで、特に「グッド・ウィル・ハンティング」には感動しました。