ただし、ルイ・ヴィトンがヒップホップ・ファッションをそっくり受け入れたかというとそうでもありません。マーク・ジェイコブスのアーティスティック・コンサルタント、カミーユ・ミチェリもデザイナーとしてプロジェクトに参加しており、マーク自身もお目付役になるなど、ファレルがこれまで志向してきたポップなデザインがそのまま持ち込まれる事は回避されています。また、ファレル自身も、映画になるようなタフな出自とは縁のない、クリーンでスマートなイメージの持ち主。、フランス版ヴォーグでのインタヴューでも、ラッパー=下品な車にビキニの女の子を侍らせたギンギン野郎という世間のイメージと一緒くたにされる事を嘆き、自分のデザインについて、「古くはキンキラ衣装で有名だったエンタメ系ピアニストのリベラーチェ、エルヴィスに、ヒップホップグループのN.W.A.と定期的に出現しては人々に愛されるキンキラ人脈の流れに組するもので、70年代のテレビスターの金ピカファッション(例えばドラマ『特攻野郎チーム』のモヒカン男、ミスターTのアクセサリー)や黎明期のラッパーから影響を受けた宝石・貴金属オタク(NERD)である自分の好みを出したもの」と説明しています。確かに、今回発表されたジュエリーは、「洗練された派手さ」が印象に残るデザインで、ルイ・ヴィトンの名を冠しても何ら問題はないように見えます。しかし、18金のブラックベリー用ケースを自慢する、ヒップホップ的bling-blingを体現する存在であるファレルを、デザイナーとして未知数であることを承知の上でわざわざ指名し、数年間もの準備期間を経て商品を発表したルイ・ヴィトンの経営陣には、ヒップホップ・ファッションを取り込んだという自負だけでなく、ヒップホップで育った消費者をターゲットにしようとするしたたかさが感じられます。フランス文化を、ヨーロッパ発ファッションを代表する老舗が、恐れを知らないヒップホップ・ファッションにひざまづいたというより、手なずけてしまったとでもいいましょうか。ファッションブランドからグローバル企業へと進化したルイ・ヴィトンの「次の一歩」であることを実感するとともに、ヒップホップ・カルチャーの変節を感じずにはおられません。ニューヨークの5番街にSean Johnのショップがオープンする等、「洗練と高級化」が進んでいる事は報じられてきましたが、ビッグ・メゾンが接点を見いだせるほどに落ち着きつつあるのかと思うと、複雑な思いにかられます。70年代に数多く制作された、『スーパーフライ』を初めとするブラックエクスプロージョン映画のヒーロー達が、その独自な着こなしもひっくるめてキワもの扱いされていたことを思うと、とうとうここまできたのか、と感慨ひとしおです。
ジュエリーのCMにいつもの緩いカジュアルスタイルではなくヴィトンのメンズウェアを着て登場し、自らデザインした作品をお披露目するファレル・ウィリアムズの姿には、わかりやすいヒップホップの気配は感じられません。アメリカのヒップホップ界が、そしてヒップホップ文化を消費する世界中の人々が、共感とともに身につけるのか、それとも反発するのか。商品が店頭に並ぶ春には、どんな反響を呼ぶのでしょうか。
□ファレルが着ているのは、本人がデザインするカジュアル・ファッションブランド「ICE CREAM」と「Billionaire Boys Club」の製品です。ウェブサイトはこちら。
□Louis Vuitton 公式サイト
GOYAAKOD@ファション通信NY-PARIS
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