スペイン映画はそこに流れる空気が濃密だ。アルモドバルなどはカラッカラに乾いていながらねっとりという不可能をやってのける達人だし、スペイン・メキシコ合作のこのパンズ・ラビリンス、ギレルモ・デル・トロ監督の映像からは、しっとり甘く濃密な空気が流れ出してくる。映像を見ているだけで、深い森の湿った空気、鳥の鳴き声、虫達の羽音まで聞こえくる。舞台は内戦後も抵抗運動の続く山岳地帯。独裁的で残酷な大佐の元に子連れで嫁いできた身重の貧しい女。
その連れ子のヒロインの少女とともに苔むした森をさまよっている間にダーク・ファンタジーが展開する。といっても決して子供向きのファンタジーではない。
片方には残酷な現実―森に潜む抵抗勢力と、それをいぶりだそうとする大佐率いる軍人の見せる残酷さー生々しい拷問、殺人、流れる血。弟にひそかに物資を流す女中メルセデス。彼女をじわじわと追い詰めてなぶる大佐の視線のいやらしさ。
母親は冷酷な夫に失望し日に日に弱っていく。その悲惨な現実を何とかパン(牧羊神)に言われた試練を乗り越えて立て直そうとする少女。普通ならばそこから逃れる手段が別世界と決まっているのだけれど、この映画の場合別世界(ラビリンス)の方も決して美しいだけの世界ではない。一歩間違えばまだ見ぬ兄弟もろともに母の命も自らの命も失う危険な迷宮。
残酷な現実界と、美しいけれど同じように危険で残酷な迷宮の世界。二つの世界が重なって、そこを行き来する少女が、生まれてくる弟に注ぐ愛と、館の女中メルセデスが抵抗運動に身を投じる弟を案じる気持ちもまただぶってくる。
母と生まれてくる弟のためにパンの難題に立ち向かう少女と、エプロンにひそませたかみそり一本で大佐と渡り合うメルセデスのりりしく美しいこと。
振り返ると、ああこれは美しい姉たちが可愛い弟たちに注ぐ無償の愛の物語だったのか、と思えてくる。
他には迷宮に住む子供を食らうモンスターの恐ろしくも見事な造形と、不気味でありながらユーモラスなパンも見所の一つ。
残酷さの中に父親の影から抜けられない弱さ、複雑さを見せた大佐の演技も見逃せない。
ファンタジー嫌いな人にも勧めて間違いのない一本。少女のけなげな成長と、思いがけない結末を見守ってください。
□公式サイト http://www.panslabyrinth.jp/
パンズ・ラビリンス 通常版
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見た人と話したくなる映画
ファンタジーとは実現しなかった悲しいパラレルワールド、素晴らしいです
傑作です。黒カナリア@こんな映画あんな映画
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