第3位 Sur la dune (Christian Oster)ご贔屓のクリスチャン・オステールは律儀にもほぼ毎年1作発表してくれるありがたい作家です。助けを求められて砂に埋まった友人夫婦の家を訪ねてみたものの、彼らはおらず泊まる場所も手配されていない。ホテルは満室で、見ず知らずの男と相部屋という羽目に陥るが、今度は別の部屋に泊まっていたその男の妻に惚れてしまう・・というオステールらしい独特の物語展開で、特に男との一夜の描写が笑えます。これまでの作品と比べると、文章がかなり難解で読みづらかったですが、それでもいつもながらのオステール節で、こちらの期待にじゅうぶん応えてくれました。
第2位 『快適生活研究』(金井美恵子)もともとエラソーな文章を書く人が苦手なので、この人はずっと食わず嫌いの作家だったのですが、いざ読んでみるとどこから湧いてくるのか皆目検討がつかない絶大な自信にあふれた文章がかえっておかしくて、すっかり毒されてしまい、昨年の前半は作品を片っ端から集めて読んでいました。「目白四部作」と呼ばれる作品群の続編となるこの小説には、大したことも起こらない日常を舞台としながらも、個性豊か、というより強烈なキャラクターの持ち主が次々と登場し、よくもこんな人物ばっかり思いついたものだと作者の想像力に感心しながら読んでいました。とりわけアキコさんという女性が書いた手紙の章は、その無邪気そうな文章のあちこちにチクチクする針が顔をのぞかせていて、相手を励ましたいのか意気消沈させたいのかわからなくなるところがすごいです。
第1位 『雪沼とその周辺』(堀江敏幸)この作品についてはこちらでご紹介したので同じことは書きませんが、今ふりかえってみてもこの小説に出会えてよかったなあと思える作品でした。最近本屋だけでなく、いろいろなメディアで堀江さんの名前をお見かけする機会が増えました。今彼はもっとも注目され、脂ののった(という表現はあまり彼には似つかわしくないように思うけれども)作家なのでしょう。
小説以外では、仏文学者である中条省平さんが日本の作家を論じた『反=近代文学史』が興味深かったです。泉鏡花、稲垣足穂といった気になる作家から、三島由紀夫や谷崎潤一郎のようなこちらが苦手とする作家まで、非常に魅力的に論じられていて、かつその論じ方もわかりやすい。「文学についての論文を書くときは、扱った作品を読者に読みたいなあと思わせるように書きなさい」と卒論を書くときに言われたものですが、まさにそのお手本となるような論文がそろっているので、これから文学関係の卒論を書く人は参考になさってはいかがでしょうか。中条さんの批評はほかにも『文章読本』などもおすすめです。
反=近代文学史 (中公文庫 ち 7-3)
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中条 省平
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リトル・ミス・サンシャイン(ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス)
007/カジノ・ロワイヤル(マーティン・キャンベル)
ゾディアック(デヴィッド・フィンチャー)


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気鋭の監督たちがパリを舞台にして制作した18本の短編映画から成り、昨年のカンヌ映画祭でも話題を呼んだ「パリ、ジュテーム」がいよいよDVD化されました。
このオムニバス映画には、フランスはもちろんのこと世界の若手〜中堅どころの監督たちが参加しており、日本でもおなじみの名前も多く見られます。1人あたり約5分という少ない持ち時間ながら、彼らそれぞれの持ち味を発揮した作品がそろっています。移民の少女の現実を淡々と追うウォルター・サレス(「モーターサイクル・ダイアリーズ」の監督)とダニエラ・トマスによる「16区から遠く離れて」、何だかよくわからないがオリエンタルなムードいっぱいのクリストファー・ドイル(ウォン・カーウァイ作品の撮影で有名)の「ショワジー門」、夜の街に突如出現する吸血鬼を描いたヴィンチェンゾ・ナタリ(「CUBE」の監督)の「マドレーヌ界隈」などがその好例といえるでしょう。
個人的に好きだったのは、やはりもともと好きな監督のものが多いのですが、不幸な目に遭う旅行者(演じるのはそういう役がぴったりのスティーヴ・ブシェミ)を皮肉たっぷりに描くコーエン兄弟の「チュイルリー」、「ハンニバル」のギャスパー・ウリエルと「エレファント」のイライアス・マッコネルといううっとりとするような美貌の青年たちの運命の出会いを描いたガス・ヴァン・サントの「マレ地区」、スピード感あふれる凝縮された映像に女優志望の少女(ナタリー・ポートマン)と盲目の青年(メルキオール・ベスロン)の美しいカップルが映える、トム・ティクヴァ(「ラン・ローラ・ラン」の監督)の「フォブール・サン・ドニ」などです。
「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し・・」と謳ったのは詩人の萩原朔太郎です。この「旅上」という詩が収められた『純情小曲集』が発表されたのは1925年(大正14年)のことですが、当時は今と違ってヨーロッパへ行くのは物理的にも経済的にも大変な時代でした。しかし幸運にも憧れの洋行を実現した日本人たちもいたわけで、ろくなガイドブックもなく、言葉もおぼつかないなかでも、刺激的な滞在を送り、興味深い記録を残している者も少なくありません。今回は森鴎外の長女で稀代の文章家である森茉莉についてご紹介しましょう。
「かんたんフレンチレシピ」を投稿してくださっている mandoline さんとは、小学校からの友人です。先日、同じく小学校以来の友人 J さん宅でお料理教室が開かれ、これもまた仲のよい S ちゃんもやって来る、というので「試食係」(笑)と称して参加してきました。
そうしているうちに、すべてが完成して次々とお料理がテーブルに登場してきました。まずは「リヨン風トマトのロースト」。ウィンナーなどの詰め物をしたトマトに卵のソースをかけてオーブンで焼いたものです。くずすとトマトの果汁がたっぷり出てきてジューシーなお味です。これをバゲットに吸わせていただくのもまた一興。
お次は「いろいろキノコとピリ辛トマトソースのカサレッチェ」。2本のスパゲッティがくっついたような、日本ではあまりお目にかからないパスタを使用。断面がS字型になっていて、10センチ以上あるのでショートパスタにしてはとても食べごたえがあります。みじん切りにしたサラミのだしが効いたソースがからめてあって、キノコも大好きなので、おかわりして頂いてしまいました。
そしてメインの「鶏もものソテー、イタリアンソース」。ケッパーやアンチョビを使ったソースが鶏の味を引き立たせていてこれもまた美味。ワインのあてにもぴったりです。鶏肉も外側がぱりっとして内側が柔らかい、と絶妙でいくらでも頂けそうでした(友人たちのいる手前、自制してました・・「もっとくれ!」とわがまま言えばよかったかしら)。
この夏休みの終わりに、初めて北海道を旅する機会を得て、念願のモエレ沼公園へ行くことができました。
ピラミッド内部はまるでモダンな美術館のように白で統一された空間でした。上階には小さなギャラリーもあって公園の概要やイサム・ノグチの活動が紹介されています。偶然ファッション雑誌の撮影場面に出くわしましたが、どこにモデルさんが立っても絵になるような建物でした。
「プレイマウンテン」と呼ばれる山に登ってみました。頂上まで行けるのかと最初は不安でしたが、意外とすんなりとたどりつきました(最初に思いっきりこけたけど・・)。雨が降ったときはどうなることやらと思っていましたが、最後には美しい青空のもとで公園を一望することができました。虹のおまけまでついて。


私の名付け親は絵の先生で、幼い頃、アトリエに遊びに行っては山積みにしてある色々な画集をひっぱりだして眺めているのが好きでした。子供心に惹かれたのは、印象派のような色彩の美しい絵よりも、ミロやダリやエルンストといった「何だかわけのわからない」絵でした。落書きのような奔放なミロの作品を見ていると愉快になってくるし、写真のようにリアルで、しかも人の手足が伸びたり縮んだり、トラだの蟻だの溶けたような時計だの出てくるダリの絵は、怖くて仕方がないけれど、しばらくするとまた見たくなってそーっと本を開いてしまうのでした。
今年はシュルレアリスムに関する展覧会が日本各地の美術館で多く開催されています。現在は愛知県の
豊田市美術館は、ニューヨーク近代美術館の新館を設計した谷口吉生による建築自体をも楽しめる美術館です。緑と水に囲まれて静かにそびえている建物の外観、そして開放的で繊細な内部空間の設計を、展示作品とともにぜひ味わっていただきたいです。現代美術を中心とした常設展示もなかなか面白いので、この夏休みにちょっと遠くまで足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
まずは、『
お次は『
古い作品ばかりなので、最後は最近のものを。フジ・ロック・フェスティバル出演者のプロモーション・ヴィデオを観ていたら、60年代風のキュートな曲が流れてきました。それは ザ・バード&ザ・ビー The Bird And The Bee という男女2人組の "Again & Again" という曲で、関東のFM局ではヘビー・ローテーションになっていたそうですから、お聴きになった方もいるかもしれません。
今年のカンヌ映画祭コンペティション部門に出品され好評を得た、デヴィッド・フィンチャー監督の「ゾディアック」が日本でも公開されたので観に行きました。
それぞれの地域の警察が情報をうまくやり取りしなかったことで、犯人に接触する機会を逃してしまったり、ゾディアックからの手紙の内容をテレビで流したために世間がパニックに陥ったり、警察から情報を得られないまま自己判断で犯人像を仕立て上げた新聞記者が今度はゾディアックの標的となってしまったりする状況は現在起こったとしても全くおかしくないわけで、とても40年近く前の事件だとは思えない生々しさが伝わってきました。そして皮肉なことに、解決に一途の光が見えてくるのは、世間が事件を忘れ去ろうとしたころ、依然として関心を持ち続けていた風刺漫画家が、警察と「陰で」連携して独自に調査を進めたときからなのです。
この作品を観た人たちの感想をネットで見たところ、「退屈だった」という意見が多くて驚きました。たしかに監督がこれまで撮ってきた「セブン」「ゲーム」「ファイト・クラブ」などと比べれば、派手な展開もなければ、大どんでん返しといったサプライズも見当たらず、そういった内容を求めた人には期待はずれの映画でしょう。しかしながら、余計な小細工や無駄に感情的な部分を省いた正攻法で真摯な撮り方、タイトな物語構成、丁寧に再現された70年代の空気がすばらしく、私には2時間37分の上映時間があっという間に思えました。
怖い映画は巷にたくさんあれど、私にとって最も恐ろしいのは、デヴィッド・リンチの映画です。「
と、ここまでの物語はよくあるサスペンス映画のようですが、後半からナオミ・ワッツはダイアン、ローラ・エレナ・ハリングはカミーラと役名が変わり、雰囲気も一変、ダイアンは恋人であるカミーラに裏切られ、人に頼んでカミーラを殺してしまい、女優としてもパッとすることなく人生にも絶望している状態です。全く違う物語に見えながらも、ベティとダイアンには共通点もあるし、前半の登場人物が名前や性格を変えて再び現れるなど、混乱を招く展開になっています。
しかし、ひとつの読み方だけではすっぱりと理解できないのが彼の持ち味です。上のヒントをもとにひとつの解釈を試みても、あれこれの要素がぴったりと合わさらず、必ずそこからはみでる部分が出てきて、やっぱり「わけわからん」状況に陥ってしまいます。でもそうやって、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら、個性的な俳優たちやリンチ作品におなじみの小道具が醸し出す怪しげな雰囲気を楽しむのがよいのかもしれません。

ハイライトやウェブの記事などを見て興味を覚えた、受賞作以外の作品の話をいくつか。
Tehilim はエルサレムを舞台に、突然姿を消した父親を探す少年たちを描いたもの(写真中)。子供たちの表情が悲しい。
個人的には、オリヴィエ・アサイヤスの Boading Gate が観たいです。監督曰くフランスと香港を舞台にした「B級映画」で、このところの活躍が目覚ましい女優アーシア・アルジェントのために作られた作品だそう。でも、この監督の作品は日本ではなかなか公開されないので、字幕付きで観られるのは難しいかもしれません。
今回のカンヌのコンペティション部門は、社会的な問題を扱った作品が多かった前回とは違って、ヴァラエティに富んだ映画が集められ、「映画を観ること、映画を作ることの楽しさ」に立ち返っている印象を全体から受けました。
カメラ・ドール:Meduzot(エトガール・クレット&シーラ・ゲフィン)
また審査員賞に選ばれた Persepolis(写真下) も、プレスの評判が非常に高い作品でした。イラン出身でフランス在住のマルジャン・サトラピが、自らの体験をもとにして制作したアニメーション(!)で、カトリーヌ・ドヌーヴなど、豪華な声優陣も話題になりました。戦争の最中、イラクからフランスへ移住した女の子の冒険物語、ということで、内容のわりにとてもポップな感じがして、とても興味深かったです。
いよいよ第60回カンヌ映画祭開幕が3日後に迫ってきました。前のエントリーではコンペ作品について触れたので、今日は審査員をご紹介します。毎回さまざまな地域からさまざまなタイプの審査員が選ばれていますが、前回お伝えしたように、今年の審査委員長にはスティーヴン・フリアーズが選ばれ、その他映画関係者ら8人とともに審査をすることになっています。
今回の審査員は、日本でも知られている映画人が多いようです。マギー・チャン(写真上)はウォン・カーウァイの「花様年華」にも主演した、香港を代表する女優ですね。彼女は一時期フランス人監督オリヴィエ・アサイヤスと結婚しており、彼の監督した映画でカンヌの主演女優賞も獲得したということもあり、フランスでも馴染み深いアジア女優といえます。
そして嬉しいのはフランス俳優の大御所ミシェル・ピコリ(写真下)の名前があること。彼は1940年代後半から映画界にたずさわり、ジャン・ルノワールやルネ・クレールといったフランス映画界の巨匠から、ヌーヴェル・ヴァーグの監督たち、近年の若手らと幅広く活動してきた俳優で、かつてご紹介した
今年もまたカンヌ映画祭の季節になりました。5月16日の開会式を前に、招待者や出品作品がだんだんと発表されてきています。
今年のコンペティションの候補作品は22作品で、常連の名前も多く見られます。有名どころでは、まずコーエン兄弟、クエンティン・タランティーノ、ガス・ヴァン・サントらのアメリカ勢。久々デヴィッド・フィンチャー監督(「セブン」「パニック・ルーム」の監督)も登場。実在の連続殺人犯を取り上げた作品 Zodiac (主演ジェイク・ギレンホール)が出品されます。またこちらも久々のタランティーノ作品 Death Proof は、同じ題材(SFホラー)をロバート・ロドリゲスと2タイプの作品に仕立てた映画 Grindhouse のうちの、自分のヴァージョンのようです。ロドリゲスが前にカンヌに出品した「シン・シティ」でも「ゲスト監督」(ってどんな監督やねん)をしていたタランティーノ、仲良しなのね〜。最近は俳優業も忙しいタランティーノさん、最新作は三池崇史監督の「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(すごいタイトルだ)で、こちらは秋に公開予定だそうです。
今年の開会式の司会はダイアン・クルーガー(写真下)。審査員などについてはまた次回お知らせいたしましょう。今から開幕が待ち遠しくてたまりません。
家から日帰りで行ける範囲内には、面白い美術館や施設がいろいろあることを発見し、休みを利用して美術館に行く機会がこのごろ増えました。先日は、荒川修作がマドリン・ギンズと共同で設計した
「オフィス」を抜けると、またもや異様な光景が(写真中)。「極限で似るものの家」と名付けられたこの建物の内部は、人ひとりが入れるくらいの通路が交錯し、その通路を仕切る壁が、ところどころに置かれたソファーやガスレンジといった家具を分断しています。
この施設には平らな部分はほとんどといって無く、気をつけていないとよろめくし、転ぶし、不自然な姿勢を取らされるし、頭をぶつけることもあるし、全く「人にやさしくない」作りになっています。けれども、地を踏みしめて進んでいくうちに、普段使っていない筋肉の存在を感じたり、目や耳を使って周囲に注意を払ったりすることになり、生きている自分の肉体を実感することになります。








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1 ブロークン・フラワーズ(ジム・ジャームッシュ、アメリカ)
2 硫黄島からの手紙(クリント・イーストウッド、アメリカ)
3 ヒストリー・オブ・バイオレンス(デヴィッド・クローネンバーグ、アメリカ/カナダ)