2007年03月11日

イースト・ウエスト 遥かなる祖国

サンドリーヌ・ボネールは骨美人ではないかと思う。外見はもちろん首から肩にかけてのラインはきっと骨から綺麗なんだろうなあと思わせる美しさだ。フランスで今一番脂ののった女優ではないか。

そのボネールが、「イースト・ウエスト、遥かなる祖国」でフランス女の矜持を確かな演技力と存在感で見せている。

タイトルのイーストはソ連を、ウエストはフランスを指している。「遥かなる祖国」には二重の意味が隠れている。表面的にはボネール演じる妻の故郷フランスを指しているのだが、夫の祖国のソ連も、医者の地位を捨ててまで戻った彼らをスパイ扱いして常に監視の下に置くなど、およそ祖国らしい扱いからは程遠いことから見れば「遠い祖国」なのである。

息子を伴い大戦から間もないソ連に移った彼らを持っていたのは、プライバシーもない、快適からは程遠い貧しい長屋暮らしとスパイ扱い。こんな暮らしに妻子を陥れてしまった夫は当然ながら罪の意識に苦しむ。そんな夫と妻の間には隙間風が吹き始め、夫はアパートの管理人兼監視役の女と関係を持つ。孤独な妻はどうしたか?

環境の激変、辛い暮らし、夫への不信、怒り。でも泣き寝入りなんてことは絶対しないのだ。しっかり、妻は妻で若さにあふれた青年と恋に落ちる。またその一方で彼の才能に賭け、西側に行かせる為に自分のもてる魅力をいかんなく発揮する。

トランクからひっぱりだしたフランス仕立てのドレスをまとい、官僚相手に軽やかに愛想をふりまく。ボネールのすごいところはこの愛想が本当にチャーミングなのだ。やぼったい制服に身を包んだロシア女にはないフランス女の粋。この青年を巡って、息を潜めて生きていた夫婦の運命が大きく動き出す。情熱的な妻に対して何も語らない夫。しかし最後の最後で夫が何を考えていたのか、彼の長い沈黙の訳が明かされる。夫婦の深さというか凄みには正直驚くし、個人にそんな決断を迫る体制の残酷さにも。

後半にはカトリーヌ・ドヌーブが本人そのもののような大女優役で登場する。さすがの貫禄で夫婦を助ける役を演じているが、ドヌーブとボネールの足元に注意して欲しい。山場でのひとつのポイントなのだが、あんなに軽やかにステップを踏んでいたボネールの足元は今や不細工なドカ靴。ドヌーブの足元はカットも美しいハイヒールなのだ。

女にあんなやぼったい靴を履かせるような体制って…やっぱり滅びるんだな。

イースト / ウエスト 遥かなる祖国
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黒カナリア

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2007年01月25日

映画バトン 黒カナリア編

Q1.過去一番笑った映画

ピンク・パンサー フィルム・コレクションA : これは間違いなく「ピンクパンサーシリーズ」でしょう。あのピーター・セラーズの無表情と洒落たいでたちから繰り出される予想できないぼけっぷりと、おまぬけな弟子とのやりとり。本当におなかを抱えて笑ってしまいます。DVDセットとかあったらうちに置いておくといいかもしれないなあ…音楽も最高。

Q2. 過去一番泣いた映画

A :うーん。これはむつかしい。ここで泣いた!と思い出される映画は数々あるけれど、記憶に新しいところでは「ミリオンダラー・ベイビー」。
 貧しく、教育も希望もない女性のただひとつの夢。ただひとつ自信のあることーボクシング。それに全てをかけるひたむきな彼女と彼女を支える老いたトレーナー。母に愛されない娘と娘を失った父親が、お互いの存在の中に失った絆を見出していく。
 試合で得たお金を持って家族に会いに行くも、女だてらにボクシングなんて恥さらしなーと冷たく追い返される。ここは父にお金を手渡そうとして拒否される「エデンの東」のキャルを演じたジェームス・ディーンの女性版のようで、親に受け入れられない子供の悲しみが痛みになって突き刺さってくる。順調に勝ち進む彼女を待っていた運命の残酷さにも胸が痛む。
 実の娘に拒否され続けるトレーナーを演じるイーストウッド、その友人のモーガン・フリーマン。ボクサー役のヒラリー・スワンクの見事な演技と存在感。静かに胸に迫る音楽。ただ悲しいだけでなく、ちらほらと顔をのぞかせるユーモアのどれをとっても素晴らしい一本。見終わった後、ひとりでレモンパイを食べたくなるかも。

Q3.心に残る五つの映画

■「マイライフ・アズ・ア・ドッグ
 悲しいことがあると「宇宙船に乗せられて帰って来れないあの犬よりは僕はましだ」と自らを慰める少年イングマル。病気の母親と兄とも別れて引き取られた田舎の美しい自然と仲間たち。美少年サガとの出会い。イングマルの目を通してみた残酷かつ美しい世界。女の子たちのイングマルを巡る争いなんぞも結構おかしい。最後にサガが実は女の子でしたーとワンピースなど着て現れるのがちょっとがっかりなのだけれど。こんな美しいところで子供時代を送れたらなあーと思わせる一本。

■「黒猫白猫
 黒猫・白猫本当は笑った映画にすべきかちょっと悩んだのだけれど。大好きなエミール・クストリッツァの作品。思いっきり陽性の笑えるロミオとジュリエットというか、もう半ばフリークショーと化しているところもあるのだけれど、東欧のロマの生命力にただただ圧倒されて笑ってしまうしかない。おかしな人々がわんさと出てきて、あくどい輩に小ずるい奴とかもいるのだけれど、最後にはみんなめでたしめでたしとなる。踊りだしたくなるような音楽とあいまって、へこんでいる時に見ると、もうそんなことどうでも良くなってきて、いいかもしれない。人間なんてただうまいもの食って笑って踊って生きてさえいればいいのさーそんな映画。

■「ロード・オブ・ザ・リング・シリーズ
 これはもう、オタクの作り上げた傑作!オタクがいなければこんな見事な作品はうまれなかっただろうし、オタクでなければそもそも作ろうと思わなかっただろう。これはもう素直に偉大なるオタク(監督のピーター・ジャクソンのことです)ありがとう!こんなにも見事にあの世界を映像化してくれてーというしかない。
 ファンタジー好きにはもう堪えられない「この世ならぬ別の世界」を見事に構築し、裏切り、挫折、友情、愛、希望、死、全てを盛り込んだ大作。誘惑に弱い人間としては、一作目のボロミアの雄雄しい最後に涙するもよし、金髪の王子様に弱い女の子はエルフのレゴラス様(すっかりこれでブレイクしたオーランド・ブルーム)にうっとりするもよし。でも何より、主人に対する愛と友情でどこまでも、正に地獄の果てまでも旅をするサムに胸をつかれる。これを見てあなたもオタクの仲間入り。

■「IP5 愛を探す旅人たち
 文字通り愛を探す旅に出る、老人と青年と黒人少年の奇妙な取り合わせのロード・ムービー。イブ・モンタンが、かつての恋人を思う、老人の老いた静かで思いやり深い愛を演じて渋い存在感を見せれば、まだ青二才っぽいけど最高に美しかった時のオリヴィエ・マルティネスが演じる青年の、一目ぼれした女性に寄せる危うく暴走しそうな情熱。冷たくあしらわれた女への思いを抑えきれずに、壁いっぱいに彼女の絵を描く青年の、その愛の告白の仕方がロマンティック。こんな素敵な絵を見せられたらねえ…彼女が思わず好きになっちゃうのも無理ないです。

■「12 モンキーズ
 あの「未来世紀ブラジル」の奇才テリー・ギリアムのタイムトラベル物。最近奇才なんか不発だけど、この辺りまでは輝いていたのになあ…
 主演のブルース・ウィリスって人は若い時はぜーんぜん良くないのにちょっと頭が薄くなっておっさんになった方が断然良くて、しかも汚くないとなぜか魅力がない。ここでは汚いし、よれよれだし良いです。とにかく展開が巧みで、マデリン・ストウとブルースの切ないラブストーリーでもあり、生物兵器テロ・環境問題・動物愛護などいろんな問題が絡み合って、そもそもがややこしいタイムトラベル物だけに、集中力のない人は「はれっ何?あれ誰?」となるかもしれませんが、そうならないように注意して見ても損はない映画。脇役に徹したブラピ(この人は主役じゃなくて脇役でこそ光る人なのだ)も不気味で良い。
 私は映画館で。失神者がでた騒ぎで肝心な部分を見逃し、悔しくてもう一度見ちゃいました。良い子のみなさんはあまり興奮しすぎないでね。 

Q4. 今見たい映画

A:「スパイダーマン3」
 実は2で着実に進化を遂げているのですよこのシリーズ。そもそもスパイダーマンを演じるのは若手ながら実力派で、無表情の表情が特徴のトビー・マクガイア。
 2では人を救うのに忙しくて大学の単位が取れなかったり、バイトもできなくてお金がなくてぼろぼろのアパートに住んでいたり、コインランドリーでスパイダーマンの服を洗ったら色落ちして他の物までピンクになっちゃったり、好きな女の子は別の男と結婚しそうだしーと実にリアルに散々な目にあう。生まれつきのヒーローでなく、偶然の産物でスパイダーマンになったわけだから、男の子らしい悩みがあって当然。その辺りが実に可愛くて肩入れしたくなるヒーローなのだ。
 列車を救って力を使い果たし気を失ったスパイダーマン。マスクをとってその素顔を見た人々が「まだ子供じゃないか!」と敵から守ろうと協力して立ちあがるところでは「そうだよね。これだけみんなのために頑張ってるんだから」とほろりとさせるなど、ヒーロー物とあなどれない、笑いあり涙ありのなかなかやってくれるシリーズなのだ。
 今度は自分の中の悪が目覚めて?あのスパイダーマンが黒くなって悪のスパイダーマンになっちゃうかも?というこれもおつな展開らしいので今から楽しみです。


黒カナリア


小説バトンと平行して映画バトンも随時掲載していきます。たくさんの友人たちに声をかけているので、バトンの輪は無限に広がっていくでしょう。みなさんの映画生活、読書生活の参考にしていただけると幸いです


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posted by cyberbloom at 22:36| パリ | Comment(4) | TrackBack(0) | こんな映画あんな映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月11日

Sur Mes Lèvres (Read My Lips)

リード・マイ・リップスフランス語のタイトルよりは、英語版の方がわかりやすい。確かに唇の動きを読むというのがみそだから。

濡れ場などないのに色っぽい映画だ。

男と女の絡みといえば、ただ男の唇をひたすら遠くから読唇術のある女が読む。女の目に映るのは男の濡れた唇のアップ。それだけなのに、ドキドキする。この辺りはとにかく裸が出でくれば良いと思っている某監督とか某作家とかにも見てもらいたい。

この色っぽさは役者の実力に負うところが大きい。とにかく主役のエマニュエル・ドゥボスの見事なブスオーラがすごい。本人は分厚い唇がセクシーな個性派美人なのに、役の上で彼女から漂うこの不幸なブスオーラが本物なのがすごい。猫背気味でいつも不満げに突き出した唇。野暮ったい伸びたカーディガンにイライラ補聴器を直すしぐさ。休み時間といえば、ひがんだ目でよりそうカップルの会話を盗み見(聞き?か)する。あっぱれな不細工女ぶりといえる。どんな役をやっても常に綺麗な○木瞳とかに見せたい「役者魂」である。

でも黙って不幸に甘んじている女ではない。この辺りはフランス女っぽい。上司の弱みに付け込んで、ちゃっかり部下を要求する。その条件が「とにかく若い男にして、背が高くて…」ってちゃっかりしすぎ!

現れた年下男を演じるのはヴァンサン・カッセル。この人の特徴と言えばカマキリにみえなくもない風貌と、妙に薄くて紅い唇(これはこの作品にぴったり!)。そしてキレのある動きが持ち味だと思うのだけれど、この作品ではそのキレを封じ込んで、不器用であまり頭も回らないチンピラを好演している。コピーすらまともにとれず、着たきりすずめでこっそり事務所に隠れて住む。どこか荒っぽい過去を隠した男に惹かれていく女。地味に、身を縮めるようにして生きていた女が次第に男の過去に巻き込まれるうちに解き放たれていく。どんどん自由になっていく女の表情の変化が実に色っぽい。

次第に羽を伸ばしつつあった女がバーで知り合った男に襲われそうになるシーンで、現れた年下男に救われるのだけれど泣き出した女を「もう大丈夫だって。泣くなよ」と実にぶっきらぼうに抱き寄せる。

こういう不器用さにも時にほろりとさせられる。…秋の夜長にはなかなか向いている大人な作品。

フランス映画にしてはわかりやすいところもとっつきがいい一本です。


リード・マイ・リップス
メディアファクトリー (2004/04/23)
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おすすめ度の平均: 4.5
5 男と女の駆け引き
4 設定を見て型通りに
4 なかなかの傑作

黒カナリア

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posted by cyberbloom at 23:31| パリ ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | こんな映画あんな映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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